(146)小さな芽吹き

 

 

長く居座っていた寒波が去り 三月の声を聞くと、待っていたかのように春を彩る花たちが、芽ばえのバトンをつないで、次々にほころんでいきます。

  『やっとだよ~、鳥さん こんにちは!!』

っと笑顔で挨拶しています。

 

 

菜の花 淡路島・明石海峡公園にて

花言葉は「小さな幸せ」「元気いっぱい」

 

 

チューリップ 淡路島・明石海峡公園にて

花言葉は「思いやり」

 

 

そして鳥たちも、この挨拶を待ち望んでいたようです。

 

  さく花に 拙き(つたなき)われを 呼子(よぶこどり)

        小林一茶 

 

野山を巡っていると、呼子鳥と呼ばれるウグイスやホトトギス、ヒヨドリ、メジロなどの鳴く声があちらこちらから聞こえてきます。

 

 

セキレイ 花のつぼみにご挨拶

 

ジョウビタキ 紋付き袴でぴょこんとお辞儀

※瀬戸内地方では「モンツキドリ」とも云われます。

 

 

 

やわらかな陽射しが差し込み、庭では春を知らせる沈丁花が咲き出しました。
ようやく待ち望んだ春、蕾が次々と咲く姿を眺めると気持ちもワクワクしてきます。

 

 

    花をのみ 待つらむ人に 山里の 

     雪間の草の 春をみせばや

         藤原家隆

(意訳)

花が咲くことばかりを待ち望んでいる、そんな人たちに、山里につもる雪の間から芽吹く若草の、すぐそこにある「春」を見せてあげたいものだなぁ。

 

 

座禅草 近江今津にて

花言葉は「ひっそりと待つ」

 

 

雪が融け草木が芽ばえると春は一気に野山を彩ります。

 

   難波津に 咲くやこの花 冬ごもり 

    今を春べと 咲くやこの花 

        王仁(わに)

 

(意訳)

難波津に梅の花が咲いています。冬ごもりをして、今こそ春が来 たといって梅の花が咲き出しました。

 

 

白梅 京・北野天満宮にて

花言葉は「気品」「澄んだ心」

 

紅梅 京・北野天満宮にて

花言葉は「優美」「艶やか」

 

 

長い眠りから目覚めた木々たちは、鳥たちの訪れを喜んでいるように、あちらこちらで芽を吹き、梅や桃、早咲きの桜が美しい花を咲かせていきます。

 

この情景を俳句にしたのが小林一茶です。

 

  木々おのおの 名乗り出でたる 木の芽かな  

         小林一茶

 

木々の芽吹きを、まるでハイ!ハイ!ハイ!と、手を挙げて名乗り出てきたように捉えていて、春の浮き浮きした気持ちが伝わってきます。

 

 

ハクモクレン 京・大谷本廟にて

花言葉は「気高さ」

 

ミツマタ 奈良・薬師寺にて

花言葉は「強靭」「壮健」




野山の景色に芽吹きの趣きが加わると、遠くかすかな眺めが、ほのかに色づき、やがて百花繚乱、そして新緑から万緑へと移り変わっていきます。

 

古来から季節の移ろいに魅せられた歌人たちは、詩歌にその姿を詠み継いできました。

 

   春の苑(その) 紅(くれない)にほふ 桃の花 

   下照る(したでる)道に 出で立つ少女(おとめ) 

          大伴家持

         (万葉集 巻十九・4139)

 

(意訳)

春の庭が紅色に美しく照り輝いています。桃の花が木の下までも照り輝き、その道に出てたたずむ少女よ。

 

閉ざされた冬から春への移り変わりを心から喜んだ家持が、まるで花の精のような少女の可憐さと、桃の花を愛でたい思いを重ね合わせて、この絵画的で幻想的な歌を詠んだのでしょうか。

 

 

桃の花 大阪城庭園にて

春も移ろい、芽吹きから開花そして満開へ

花言葉は「チャーミング」

 

 

草花や生きものたちが輝き出した春も、昔ながらの暦では、立春から雨水(うすい)と移ろい、今は啓蟄(けいちつ)と呼ばれる節に入りました。

 

土の中で冬ごもりしていた虫たちが、暖かい春の日差しの中で活動を始めるという意味で名付けられたようです。「蟄(ちつ)」という普段見慣れない漢字が使われているので面喰いますが、この頃になるとワラビやゼンマイなどの山菜がお皿に盛られます。あくの強い春の山菜は体内の毒素を消すと云われ、「春には苦みを盛れ」とも。

 

 

クマザサの芽 明石海峡公園にて

花言葉は「抱擁」

 

 

 

「おーい!!」と足元から呼ぶ声がするので、笹むらの方を覗くと、クマザサの芽がこちらを見て「おいらも忘れないでね」っと。

昔から 薬用や笹餅に使われるクマザサですが、こんなところにも芽吹きがありました。春は小さな芽吹きで賑わっています。

 

 

いちめんの菜の花 あわじ花さじきにて

満面の笑みを浮かべて揺れています