(125)カナのお話

 

 

「かなかなかな・・・・」

なかなか厳しい暑さが収まりませんが、お盆を過ぎたころから、夕暮れが近づくと蜩(ひぐらし)の鳴き声が聞こえるようになりました。

 

  面白う きけば蜩 夕日かな

     河東碧梧桐

 

夕暮れどき、ヒグラシの鳴き声をしんみり聞き入るのもいいものです。

 

 

     ヒグラシ 氷ノ山(兵庫県)にて

 

 

 

  長時間 ゐる山中に かなかなかな 

      山口誓子

 

(意味)

登山で長時間山の中にいると、「かなかなかな・・・・」とヒグラシの声が聞こえてくるなぁ。

 

この句の「かなかなかな」はヒグラシの鳴き声で、秋の季語。でも「かなかな、かな!」と詠嘆の「かな」とも詠める面白い句です。

 

「かなかなかな・・・」

夕暮れに響くヒグラシの鳴き声は、過ぎ行く夏を惜しむかのように聞こえます。時折り吹く涼しげな風の中でその声を聞いていると、どこか寂しく夏の終わりを感じます。

 

・・・やがて夏は過ぎていくのだなあ〜と。

 

 

  キキョウ 兵庫・加西の里にて

 

 

「かなかなかな・・・」

ヒグラシの鳴き声を「かな」文字で表していますが、これを漢字で表すと、「哉哉哉」の文字を並べることになるかもしれません。

少し情緒っぽく表すと「奏奏奏」や「哀哀哀」などの漢字が浮かびますが、どうも しっくりきません。

やはり、ひらがな表記がヒグラシの音色を見事に表現してくれています。「かな」文字の魅力ここにあり、です。

 

今回、「かな」文字で表す言葉を調べてみました。

例えば、

 ビールのふたを「プシュッ」と開ける

 電車が「ガタンゴトン」と走り出す

 小雨が「しとしと」と降り続く 

 水面が「キラキラ」と光る

 雷が「ゴロゴロ」となる

              、、、などなど。

「かな」文字が情景をうまく伝えてくれています。

 

音や鳴き声、自然の営みなどを表した語は「オノマトペ」(擬音語と擬態語)と呼ばれ、日本ではその種類が豊富(5,000以上)で、オノマトペなしでは日常会話がかえって不便になってしまうくらい日常的に使われています。

「カナ」文字の誕生は、「オノマトペ」を多く創り出し、和文化発展の原動力になったのです。

 

 

 

  「キラキラ」と光る  夏の終わりの琵琶湖にて

 

 

 

「かなかなかな・・・」

かな、かな、悪かったかな?

このときの「かな」は、疑問の気持ちを発しています。

 

脚本家の内館牧子さんが、エッセイで「かな」という語尾の最近の使い方を批判していました。たとえば、『正直、ちょっと残念だったかなと思っています』という閣僚の発言に、『なぜ〝ちょっと残念だったと思っている″と断言しないのか』と、内館さんは言います。

 

「かな」は、言葉をやわらげて疑問の気持ちをあらわしたりするときに使われます。

 

 

  わからないカーナ

           作詞 やなせたかし

 

 カナカナカナ カーナ カナカーナ
 カナカナカナカーナ カナカーナ
 心が迷う わからない
 カナリア歌う この森で
 ジグザグはねる 野うさぎと
 いっしょに はねては
 いけないのかな カーナ
 楽しいことは
 悪いことなの カーナ
 わからない わからない
 私には わからない カーナ

 

この歌は『それいけ!アンパンマン ブラックノーズと魔法の歌』の映画主題歌です。

 

(あらすじ)

カーナは、カナリアのひな鳥の化身である女の子。

彼女は、嵐の夜に「暗闇の森」へ飛ばされ、闇の女王・ブラックノーズによって人間の姿に変えられ育てられました。

ある日、ブラックノーズの命令でアンパンマンワールドにやってきたカーナは、「暗やみの笛」を吹いて人々から幸せな気持ちを奪ってしまうのです。

「歌やダンスや美味しいパンは間違った幸せだ」と教えられ育って来たカーナ。自分が彼女に騙されていた事に気付いた時には、世界はブラックノーズによって暗闇の世界と化していたのです。

カーナがだまされたと知った時には世界は真っ暗闇に…。

カーナは明るい世界を取り戻すため、アンパンマンと共にブラックノーズに立ち向かいます!

カーナ         

画像はお借りしました 

 

 

劇中では歌が流れている場面で、カーナがアンパンマンたちの優しさに戸惑いながらも、育ての親であるブラックノーズの命令に忠実に従うシーンがあります。カーナと歌を通して、子供たちが人の優しさについて考えるよい機会になるかもしれません。

 

 

 

  過ぎゆく夏  室津の浜にて

 

 

 

「かなかなかな・・・」

文末に「かな」を添えるようになったのは近世以降だそうです。

軽い詠嘆の気持ちや、疑問、願望、そして問いかけなどを表すときに「かな」が添えられます。

 一人でうまくやれるかな (疑問)

 そろそろ着くころかな (問い)

 誰か来ないかな (願望)

 

 

   何となく 君に待たるる ここちして

    出でし花野に 夕月夜かな 

       与謝野晶子

 

夜の帳が下りる頃、理由もなく外にでてしまうという衝動的な行動から、女性の抑えきれない恋心が伝わってきます。初々しい清純さと古典的な華やかさに、「かな」の余韻が柔らかく漂っています。

 

 

  千日紅  加西の里にて

 

 

 

「ひらがな」は速く書くため、形を崩すことが許されたといいます。和歌に使われたことから情緒的な味わいもあります。

手紙を書くとき漢字で書くよりもひらがなで綴ることで、やさしい気持ちが伝わるかも ・・・かな?

 

 

 

  百日紅(サルスベリ)  室津にて