(117)季節めぐり(春)  

 

 

 

  春来れば 路傍(ろぼう)の石も 光あり

      高浜虚子

 

 

陽気に誘われて野道をゆくと、草木が芽吹き、花が咲き、鳥のさえずる姿に気づきます。

ささやかな日々の生活で、春は『見つける愉しさ』が味わえる季節のようです。

 

 

   花蜜を吸うメジロ 明石海峡公園にて

 

 

 

   眼の前魚がとんで見せる島の夕陽に来て居る

      尾崎放哉    

 

(鑑賞)

自由律句の代表的な俳人・尾崎放哉(おざきほうさい)の句です。
魚が跳ねる海の夕陽の情景が美しく浮かびあがります。

 

 

    夕陽を浴びて跳ねる  淡路島・多賀の浜

春になると、いつになく魚(ボラ)が海面を飛び跳ねます。

 

 

病に体をむしばまれ、句作のみを生の証として死の直前まで病床で句作をしていた尾崎放哉は、海の見えるところで死ぬことを望み、最期の8か月を小豆島で暮らしたと云われています。

 

尾崎放哉は、夕陽に染まる海に何を見たのでしょう。

 

  障子あけて置く 海も暮れきる

      尾崎放哉

 

 

   春の夕陽  瀬戸内にて

 

 

 

春の夕暮れ、長い海岸線に打ち寄せる波や、淡い色に染まる山々を眺めていると、切ない思いにかられることがあります。

春ならではの愁いです。

 

万葉歌人の大伴家持も、この『春の愁い』を詠んでいます。

後世に「家持の絶唱、春愁の三首」と呼ばれた『万葉集』屈指の名歌です。

 

そのうちの一首、

 

  春の野に 霞たなびき うら悲し
   この夕影に うぐひす鳴くも 

        大伴家持

    (万葉集 巻十九・4290)


 

 春に霞む 大和・二上山

 

 

 

春は、いくつになっても、出会いと別れの季節です。

喜び・悲しみ・期待・寂しさ、、、

いろいろの想いが入り交じるのが春なのかも知れません。

 

『春』と云えば、あなたは何をイメージされますか。

瞼を閉じて、浮かぶ春を想い描いて下さい。

 

  ・春は出会いの季節

  ・はじめまして!

  ・春風に誘われて

 

  ・出会いは一瞬、別れは、、、

  ・春はまだ遠い

  ・やっと仲良くなれたのに

 

  ・運命の出会いでした

  ・サヨナラは出会いの始まり

  ・切ない思い出

     (フレッシャーズによる社会人アンケートより)

 

 

ユーミンは、歌っています。

   春よ 遠き春よ 瞼閉じればそこに 
   愛をくれし君の なつかしき声がする 

        松任谷由実 『春よ、来い』より

 

 

 

    桜 兵庫・夙川にて

 

 

  をしめども 春のかぎりの 今日の日の

   夕暮にさへ なりにけるかな  、、、(伊勢物語)


いくら惜しんでも春が終わる日は、もう夕暮れになってしまった

悲喜こもごもの中で、人々は過ぎゆく春を惜しみます。