(147) 夜明けの風
春はあけぼの
やうやう白くなりゆく
山ぎは少しあかりて
紫だちたる雲の細くたなびきたる
清少納言 「枕草子」第一段より
斑鳩の里のあけぼの
山を浅紫色に縁どる朝がすみの姿に、清少納言は『春』を感じたのでしょうか。
夜明け前から日の出までの時々刻々と移ろう空の表情を、古来から「暁(あかつき)」、「東雲(しののめ)」そして「曙(あけぼの)」と情景豊かに言い表してきました。
・暁は、夜半から空が少しだけ明るくなったころ
・曙は、ちょうど日の出直前で東の空がほんのり赤く染まったころ
・東雲は、暁と曙の間で、空がパッと薄紫色に白んだころ
暁(あかとき)の かはたれ時に 島陰を
漕ぎにし船の たづき知らずも
他田日奉直大理 (おさだのひまつりのあたいとこたり)
(万葉集 巻二十・4384)
(意訳)
暁の薄明かりの時に島陰から船出していった船が今頃どうしているのか知りようもない。
※「暁」は奈良時代までは「あかとき」と呼ばれ、平安時代から「あかつき」と呼ばれるようになったそうです。
※「かはたれ時」の「かはたれ」は「彼は誰」で、薄暗くて人の顔がはっきり分からない時の意。
難波に集結した防人たちが、何艘かに別れて船出して行くのを見送っている歌です。
夜明けの海へ漕ぎ出した船を案じながらも、暁の薄明が徐々に浅紫色に輝きかけている光景に一条の希望を見てとり、防人たちの無事を祈っているかのようです。
暁の船出 明石海峡にて
2年前に放送されたNHK大河ドラマ「どうする家康」のメインテーマは吹奏楽曲の『暁の空』でした。
ドラマチックなNHK大河ドラマの主題曲らしい曲でしたが、この曲を手掛けられた作曲家の稲本響氏は、曲に込めた思いを次のように語っておられます。
「世界中の人々が何かしらの変化を迫られている時なので、新しい扉を開く応援曲にしたいと思ったんです」
そして、
「例えば家康が苦悩する時期であっても、苦悩を表現する曲の中にもほんの数パーセントの希望のモチーフを入れるようにしています。・・・必ず夜は明けるんだという願いを込めて」
びわ湖岸の日の出 におの浜より
嬉やと 再び覚めて 一眠り
浮世の夢は 暁の空
徳川家康
(意訳)
もう目が覚めることはないと思って眠ったが、再び目覚めることができて嬉しい。この世で見る夢は、夜明けの空のようだ。
さぁ もうひと眠りしよう、といった意味でしょうか。なんとものんびりした句のようですが、たびたび死の危険に直面した家康だからこそ『目が覚めただけでも感謝!』という想いが伝わってくる家康・辞世の句です。
美しい暁の空に次代への希望を託したのかも知れません。
花言葉は「夢かなう」「奇跡」
突然、頭痛におそわれた時のために常備薬を用意していますが、心がクタクタに疲れてしまった時の薬は持っていません。
心が疲れている時は、薬ではなく、心がホッとするような音楽を聴いたり花を眺めたりします。が、一番の薬はやさしく語り掛けてもらえることかなぁ!
気持ちが前向きになる言葉「希望」を花言葉に持つ花は多くあります。
例えば、
デイジー・・・朝日を浴びて花を咲かせることから「希望」の花言葉がつけられたと云います。
朝日を浴びるデイジー 明石海峡公園にて
あやめ(アイリス)・・・アイリスはギリシャ語で「虹」という意味を持ち、きれいな花を咲かせる姿から花言葉が希望になったとか。
ガーベラ・・・花が上を向いて大きな花を咲かせる、前向きな姿から花言葉がつけられたようです。
そして花のつぼみや葉などの部位にも花言葉を持っているのが薔薇です。
薔薇の葉の花言葉は「希望」。
青々と艶のある葉がついている薔薇からは、さぞ美しい花が咲くだろうと希望を持たせてくれます。発想が面白い花言葉です。
とげ赤し 葉赤し薔薇の 枝若し
正岡子規
薔薇のつぼみと葉 奈良・霊山寺にて
この世の中は思った通りにいかないことが多く、人それぞれに抱えるものがあります。それでも闇夜は必ず暁から曙へと向かいます。夜が明け、朝日が昇り少しずつ色鮮やかな世界を取り戻すように、日々の暮らしにも眩い希望の光が射すことを願いつつ…
琵琶湖岸の夜明け 近江マキノにて