佐渡裕プロデュースオペラ 兵庫芸術文化センター管弦楽団 モーツァルト 「ドン・ジョヴァンニ」 | 音と言葉と音楽家  ~クラシック音楽コンサート鑑賞記 in 関西~

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クラシック音楽の鑑賞日記や雑記です。
“たまにしか書かないけど日記”というタイトルでしたが、最近毎日のように書いているので変更しました。
敬愛する音楽評論家ロベルト・シューマン、ヴィルヘルム・フルトヴェングラー、吉田秀和の著作や翻訳に因んで名付けています。

佐渡裕芸術監督プロデュースオペラ2023

歌劇「ドン・ジョヴァンニ」

(新制作/全2幕 イタリア語上演・日本語字幕付)

 

【日時】

2023年7月23日(日) 開演 14:00

 

【会場】

兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール

 

【スタッフ&キャスト】

指揮:佐渡裕

演出:デヴィッド・ニース

装置・衣裳:ロバート・パージオラ

照明:高沢立生

かつらデザイン:アン・ネスミス

振付:広崎うらん

合唱指揮:矢澤定明

声楽コーチ:デニス・ジオーク

声楽コーチ:森島英子

演出助手:飯塚励生

装置助手:ニコラス・コスナー

衣裳助手:小栗菜代子

舞台監督:幸泉浩司

プロデューサー:小栗哲家

制作:兵庫県立芸術文化センター

 

ドン・ジョヴァンニ:大西宇宙

騎士長:妻屋秀和

ドンナ・アンナ:高野百合絵

ドン・オッターヴィオ:城宏憲

ドンナ・エルヴィーラ:ハイディ・ストーバー

レポレッロ:平野和

マゼット:森雅史

ツェルリーナ:小林沙羅

 

合唱:ひょうごプロデュースオペラ合唱団

管弦楽:兵庫芸術文化センター管弦楽団

(ゲスト・コンサートマスター:ステファノ・ヴァニャレッリ)

(チェンバロ:森島英子)

 

【プログラム】

モーツァルト:「ドン・ジョヴァンニ」

 

 

 

 

 

兵庫県立芸術文化センター主催のオペラ、モーツァルト「ドン・ジョヴァンニ」を聴きに行った。

なぜかというと、昨年末に聴いたジルヴェスター・コンサートで高野百合絵が歌ったドンナ・アンナのアリアに感銘を受けたからである(その記事はこちら)。

これはぜひ全曲聴いてみたいと思ったのだった。

 

 

 

 

 

モーツァルトの「ドン・ジョヴァンニ」で私の好きな録音は

 

●クリップス指揮 ウィーン・フィル 1955年6月セッション盤(NMLApple MusicCDYouTube

●クルレンツィス指揮 ムジカエテルナ 2015年11月23日~12月7日セッション盤(Apple MusicCDYouTube

 

あたりである。

歌手陣が最高なのが前者、指揮が最高なのが後者。

そして、2019年にルツェルン音楽祭で聴いたクルレンツィスの実演は、ドンナ・アンナ役のナデージダ・パヴロヴァが大変に素晴らしかった分、上記2盤をも超える忘れがたい名演となった(その記事はこちら)。

 

 

「ドン・ジョヴァンニ」は、冒頭のドンナ・アンナ、ドン・ジョヴァンニ、レポレッロの三重唱が、私にとって試金石となっている。

ここのドンナ・アンナの歌は、初っ端から高音域の速いパッセージが連続しており、多くの場合荒れてしまう。

ここが満足のいく出来だったのは、上記クリップス盤のシュザンヌ・ダンコか、ルツェルン音楽祭のナデージダ・パヴロヴァくらいのものである(他にフルトヴェングラー盤のリューバ・ヴェリッチュやアーノンクール盤のエディタ・グルベローヴァも良い線いっているが、それ以外の数多の盤はどれもいまいち)。

 

 

今回の高野百合絵のドンナ・アンナは、この冒頭の三重唱からして見事な出来だった。

高音に余裕があり、シュザンヌ・ダンコやナデージダ・パヴロヴァにも引けを取らない。

第1、2幕それぞれのアリアも、ナデージダ・パヴロヴァの繊細きわまる針の穴のコントロールはないにしても、もう少したっぷりとした声質で、それでも決して粗くならず端正かつ丁寧に歌えており、十分以上の素晴らしさ。

それ以外の箇所の何気ないアンサンブルでも彼女の声は際立っており、これだけの歌手は日本にいなかったのではないか。

 

 

ドンナ・エルヴィーラ役のハイディ・ストーバーは、高野百合絵のような安定した高音域を持たないが、そのぶん中音域の声質が明るく華やか。

こういう声質はさすが欧米人というべきか、日本人からはなかなか聴かれない特長かもしれない。

ハイディ・ストーバーのカラフルな衣装と、高野百合絵のシックな衣装が、それぞれの声質とよく対応していて、キャラクターの描き分けが明快だった。

 

 

バスの4人(大西宇宙、平野和、森雅史、妻屋秀和)が、これまた良い声。

上記クリップス盤におけるドン・ジョヴァンニ役のチェーザレ・シエピ、レポレッロ役のフェルナンド・コレナ、マゼット役のヴァルター・ベリー、騎士長役のクルト・ベーメといった名歌手たちほどの個性や存在感はないけれど、なかなかの歌いぶりで、また四者四様の声質がちゃんとある。

こういうアンサンブル・オペラにおいて、声によるキャラ分けは重要だと思う。

 

 

佐渡裕の指揮について、これまで私は彼のベートーヴェンやブルックナーを聴いて、変なクセがないのは良いのだが可もなく不可もなくというか、彼の持ち味があまり分からずにきた。

しかし、今回は彼のそうした面がプラスに作用し、重すぎてモーツァルトを逸脱してしまうこともなく、逆に軽すぎて悲劇性を損なってしまうこともなく、この曲らしさを引き出せていたように思う。

全てを自身の音楽にして突き進むクルレンツィスのカリスマ性とはまた違った、縁の下の力持ちのような良さがあった。

 

 

 

 

 

ルツェルン音楽祭の「ドン・ジョヴァンニ」は、私にとって忘れがたい体験だけれど、指揮のクルレンツィスとドンナ・アンナ役のナデージダ・パヴロヴァが圧倒的に素晴らしく、次いでツェルリーナ役のクリスティーナ・ガンシュが良かった一方、他の歌手はどちらかというと没個性的で、そういう意味では今思うとややムラがあった。

今回の「ドン・ジョヴァンニ」は、歌手陣も指揮も、みな一定以上のレベルと個性とを発揮できていた。

今までに生で聴いたオペラの中で、歌手陣が最も粒ぞろいの公演だったと言っていいかもしれない。

こういうオペラが日本で聴けるようになってきたと思うと、感慨深い。

 

 

(カーテンコールの様子)

 

 

 

(画像はこちらのページよりお借りしました)

 

 


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