リトル・マーメイド
【劇場公開日】
2023年6月9日
【解説】
アンデルセン童話を原作とする1989年製作の名作ディズニーアニメを、「シカゴ」の名匠ロブ・マーシャルのメガホンで実写化したミュージカル映画。
海の王国を司るトリトン王の末娘で、世界で最も美しい声を持つ人魚姫アリエル。まだ見ぬ人間界に憧れる彼女は、嵐に巻き込まれた人間のエリック王子を救うため陸に上がる。人間界への思いを抑えきれなくなったアリエルは、海の魔女アースラに提案され恐ろしい取引を交わす。その内容は、3日間だけ人間の姿になる代わりに、美しい声をアースラに差し出すというものだった。
主人公アリエル役には新人女優ハリー・ベイリーを抜てきし、エリック王子を「ベラのワンダフル・ホーム」のジョナ・ハウアー=キング、魔女アースラを「ゴーストバスターズ」のメリッサ・マッカーシー、トリトン王を「ノーカントリー」のハビエル・バルデムが演じる。アニメ映画版も手がけた巨匠アラン・メンケンと、「モアナと伝説の海」のリン=マニュエル・ミランダが音楽を担当。
【スタッフ】
監督:ロブ・マーシャル
製作:マーク・プラット、リン=マニュエル・ミランダ、ジョン・デルーカ、ロブ・マーシャル
製作総指揮:ジェフリー・シルバー
脚本:デビッド・マギー
撮影:ディオン・ビーブ
美術:ジョン・マイヤー
衣装:コリーン・アトウッド
編集:ワイアット・スミス
音楽:アラン・メンケン
作詞:ハワード・アシュマン
新曲作詞:リン=マニュエル・ミランダ
作曲:アラン・メンケン
音楽監修:マイク・ハイアム
音楽プロデューサー:マイク・ハイアム
【キャスト】
アリエル:ハリー・ベイリー
エリック王子:ジョナ・ハウアー=キング
セバスチャン(声):ダビード・ディグス
スカットル(声):オークワフィナ
フランダー(声):ジェイコブ・トレンブレイ
トリトン王:ハビエル・バルデム
アースラ:メリッサ・マッカーシー
ペルラ:ロレーナ・アンドレア
カリーナ:カイサ・モハマー
インディラ:シモーヌ・アシュリー
タミカ:シエナ・キング
マラ:カロリナ・コンチェット
カスピア:ナタリー・ソレル
ヴァネッサ:ジェシカ・アレクサンダー(演・声)、ハリー・ベイリー(声)、メリッサ・マッカーシー(声)
セリーナ女王:ノーマ・ドゥメズウェニ
グリムスビー:アート・マリック
ジョシュア:ジュード・アクウディケ
マリガン:ジョン・デグレッシュ
ローザ:エミリー・コーツ
店主:ジョディ・ベンソン
【作品データ】
製作年:2023年
製作国:アメリカ
配給:ディズニー
上映時間:135分
原題:The Little Mermaid
以上、映画.comのサイトより引用した(引用元のページはこちら)。
映画「リトル・マーメイド」を観た。
ディズニー映画最大の巨匠とされるアラン・メンケン作曲作品の実写化としては、「美女と野獣」「アラジン」に続く第3作。
概ね原作アニメ映画に忠実なつくりだが、相違点もある(以下、ネタバレあるためご注意を)。
シェフのアリアなど数曲が省かれ(そもそもシェフは登場しない)、代わりにアリエルの新しいアリア、エリック王子のアリア、スカットルとセバスチャンのラップ調の二重唱曲が新たに書かれた。
新曲はいずれも魅力的で、特にエリック王子役のジョナ・ハウアー=キングがなかなか良い声をしている。
有名なアリエルのアリア「パート・オブ・ユア・ワールド」、これはもう今となっては古典的名曲ともいうべきナンバー。
それだけに、今回の実写版においてこの曲は大事に扱われ、原作よりもキー(調性)は高め、テンポはじっくりと、オーケストラのアレンジは華やかで、アリエル役のハリー・ベイリーの歌唱も起伏が大きく、全体的に壮大なつくりとなっていた。
こだわりを感じたが、私としては原作のキー、あのさらりとしたやや速めのテンポで、肩の力を抜いて歌われる、一人の女性の等身大の憧れを表現したジョディ・ベンソンの歌唱のほうが、どちらかというと好みではあった(余談だが、彼女は今回の実写版にもカメオ出演していたらしい)。
とはいえ、歌唱力そのものは今作のハリー・ベイリーも決して劣らない。
一方、魔女アースラのアリアからアリエルの変身にかけては、今回の実写版の高いキー、アースラ役のメリッサ・マッカーシーの優れた歌唱力、ハリー・ベイリーの神秘的な歌声、オーケストラの華麗なアレンジ、これらが全てプラスに作用し、実写版ならではの映像美も相まって、原作以上の名シーンとなったように思う。
全体に、歌唱力を優先して配役していそうなのが良かった。
ストーリーとしては、アリエルとエリック王子が、未知の場所や物事に憧れを抱く似た者同士であることを原作よりも強調し、そのことにお互い気付いていくシーンを追加することで、二人が惹かれ合う過程をより丁寧に描いていたのが印象的だった。
また、二人の好奇心や偏りない視点が、人間界と人魚界という二つの断絶した世界の交流の接点となるさまも、より意識的に描写されていた。
映像としては、さすがのディズニーだけあって、海底の世界がCGを駆使して美しく映し出されていた(俳優たちは、実際にはどのようにして演技しているのだろうか)。
動物のキャラクターなど、リアルすぎて逆にどことなく違和感があるのも、これまでの他のディズニー実写映画と同じでご愛敬、といったところ。
それにしても、無鉄砲なアリエルを見ていると、このままおとなしく海の世界にとどまっていれば何不自由なく暮らせるのに、とついセバスチャン目線で見てしまうが、それでも未知のものに憧れてしまうのが人間というもの。
もし人類に無鉄砲な好奇心がなければ、1969年にアポロ11号は月に着陸していなかっただろうし、紀元前600年頃にフェニキア人はアフリカ周航を(ポルトガル人より2000年以上も前に)達成していなかっただろうし、7万年前のトバ火山の大噴火による地球規模の異常気象発生後にも人類は移動することなく、今でもアフリカの一地域のみで細々と暮らしていたことだろう。
今の私たちの“普通の暮らし”はきっと、これまでのたくさんのアリエルたちの無邪気な好奇心や無鉄砲な行動の上に成り立っている。
そんな、ちっぽけだけれど無限の可能性を秘めた憧れの気持ちを、以前の記事にも書いたように(その記事はこちら)、ベートーヴェンやシューマン、ショパン、ヴァーグナーらが用いたのと同じ、トニカ(主和音)を長らく回避する手法で美しくロマンティックに表現した「パート・オブ・ユア・ワールド」は、やはり屈指の名曲である。
そんなことをしみじみ考えながら、映画を観ていた。
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