METライブビューイング R.シュトラウス 「ばらの騎士」 | 音と言葉と音楽家  ~クラシック音楽コンサート鑑賞記 in 関西~

音と言葉と音楽家  ~クラシック音楽コンサート鑑賞記 in 関西~

クラシック音楽の鑑賞日記や雑記です。
“たまにしか書かないけど日記”というタイトルでしたが、最近毎日のように書いているので変更しました。
敬愛する音楽評論家ロベルト・シューマン、ヴィルヘルム・フルトヴェングラー、吉田秀和の著作や翻訳に因んで名付けています。

METライブビューイング2022-23

R.シュトラウス「ばらの騎士」

 

【劇場公開日】

2023年5月26日

 

【解説】

ニューヨークのメトロポリタン歌劇場(MET)で上演される最新オペラ公演を映画館で上映する「METライブビューイング」2022~23シーズンの第7作。青年伯爵と恋に落ち自身の老いにおびえる元帥夫人の揺れ動く思いを描いたシュトラウスの人気オペラ「ばらの騎士」(2023年4月15日上演)を収録。

20世紀初頭のウィーン。元帥夫人マリー・テレーズは年下の青年伯爵オクタビアンと熱愛中だが、彼が若い恋人を作って離れていくのではないかとおびえていた。そんな中、元帥夫人は従兄弟のオックス男爵が婚約者ゾフィーに届ける「銀のばら」の使者を探していると知り、悪戯心からオクタビアンを推薦する。しかし、ゾフィーのもとを訪れたオクタビアンはひと目で彼女と恋に落ちてしまう。

 

【スタッフ・キャスト】

指揮:シモーネ・ヤング

管弦楽:メトロポリタン歌劇場管弦楽団

演出:ロバート・カーセン

作曲:リヒャルト・シュトラウス

出演

元帥夫人:リーゼ・ダーヴィドセン(ソプラノ)

オクタヴィアン:サマンサ・ハンキー(メゾソプラノ)

ゾフィー:エリン・モーリー(ソプラノ)

オックス男爵:ギュンター・グロイスベック(バス)

ファーニナル:ブライアン・マリガン(バリトン)

アンニーナ:キャサリン・ゴルドナー(メゾソプラノ)

ヴァルツァッキ:トーマス・エベンシュタイン(テノール)

 

【作品データ】

製作年:2023年

製作国:アメリカ

配給:松竹

上映時間:280分

MET上演日:2023年4月15日

言語:ドイツ語(日本語字幕付き)

 

 

 

 

 

以上、映画.comのサイトより引用した(引用元のページはこちら)。

 

 

ニューヨークのメトロポリタン歌劇場のオペラ公演を録画し、映画として全世界で公開するシリーズ、METライブビューイング。

今回は好きな指揮者、シモーネ・ヤングの振るR.シュトラウスの「ばらの騎士」とのことで、楽しみに観に行った。

彼女がメトに出演するのはなんと20年ぶりとのこと、貴重な機会である。

 

 

 

 

 

R.シュトラウスの「ばらの騎士」で私の好きな録音は

 

●E.クライバー指揮 ウィーン・フィル 1954年5月29日-6月28日セッション盤(NMLApple MusicCDYouTube

●カラヤン指揮 フィルハーモニア管 1956年12月10-15、17-22日セッション盤(NMLApple MusicCDYouTube

●C.クライバー指揮 バイエルン国立歌劇場管 1979年5,6月ミュンヘンライヴ盤(DVD

●ショルティ指揮 コヴェントガーデン王立歌劇場管 1985年2月14日ロンドンライヴ盤(DVD

 

あたりである。

名曲中の名曲だけあって名盤が山ほどあるが、絞りに絞るならば、私はこの4つを残したい。

 

 

この曲の渦巻く情熱や沸き立つ躍動感を、モダンな明晰性や推進力をもってすっきり辛口に表現した、巨匠の風格漂うエーリヒ・クライバー盤(重厚かつメリハリの利いた前奏曲や、第2幕フィナーレのむせ返るようなウィーンの薫り!)。

この曲のシンフォニックな構築性や室内楽的な精緻さを追求した、最高の音楽的完成度を誇るカラヤン盤(交響曲のように充実した前奏曲や、重唱・モノローグのこの上なく繊細な美しさ!)。

父クライバーの躍動感をさらに推し進め、センスあふれるリズム感や切れ味鋭いオーケストラ・ドライヴで魅せるカルロス・クライバー盤。

最高の歌手陣のアンサンブルを安定した職人芸で支えるショルティ盤。

 

 

今回のヤング&メトロポリタン歌劇場管は、これらに迫らんばかりの名演だった。

オーストラリア出身の彼女は、なぜかオーケストラからドイツ・オーストリアの音を引き出すことができる現代の数少ない指揮者の一人である。

母方の家系がクロアチアの出身だからか、あるいは25歳でドイツに留学して以来同地を中心に活動しているからか。

ともあれ、彼女の振るヴァーグナー、ブルックナー、ブラームス、R.シュトラウスは、現代最高のものである。

 

 

ドイツ・オーストリアの音が出せる現代の指揮者としては、他にクリスティアン・ティーレマンやパーヴォ・ヤルヴィもいる。

しかし、ヤングの振る「ばらの騎士」は彼ら以上に、上記名盤たちの美徳、すなわちE.クライバーの重厚感や推進力、カラヤンの構築性や繊細さ、C.クライバーの躍動感を、色濃く受け継いでいる。

現代ニューヨークの楽団から往年のドイツ・オーストリアの味わいを、高い音楽性をもって引き出している。

もしウィーン・フィルだったら、という贅沢は言うまい。

この曲の21世紀の演奏としては最高のものだろう(映画館で聴く音質には限界があり、できれば生で聴いてみたかった)。

 

 

 

 

 

歌手については、カラヤン盤のエリーザベト・シュヴァルツコップの元帥夫人、E.クライバー盤のセーナ・ユリナッチのオクタヴィアン、そしてショルティ盤のバーバラ・ボニーのゾフィーが私には理想的な配役。

今回の歌手陣は、この3人の格別な歌唱とは比べられないが、みな一定の水準ではあった。

オックス役のギュンター・グロイスベックは、2014年のザルツブルク音楽祭のDVDでも同役を歌っており、それから10年近く経って、歌も演技もよりいっそう板についている印象。

他の歌手たちも、みな演技達者である。

 

 

演出については、ロバート・カーセンということで、おそらく2004年ザルツブルク音楽祭と同じものだろう(奇抜を嫌うメトだからか、全裸のおじさんは半裸くらいにとどめられていたが)。

多少猥雑ではあるが、概ね一般的な舞台である。

18世紀の設定を20世紀初頭に読み替えており、同じ20世紀初頭読み替えならハリー・クプファーのもののほうが見栄えがよいが、まぁ気になるほどの差異ではない。

何よりR.シュトラウスの音楽が、そしてホーフマンスタールの台本が良い。

“若さ”とは、それゆえの失敗さえ眩しいような、本当に他に代えがたい、輝かしい、かけがえのないものである。

それを失った元帥夫人の、若いオクタヴィアンへのまなざし。

第1幕終盤や第3幕終盤の元帥夫人の歌を聴いていると、涙を禁じえない。

 

 


音楽(クラシック) ブログランキングへ

↑ ブログランキングに参加しています。もしよろしければ、クリックお願いいたします。

 

YouTube(こちら)やTwitter(こちら)もよろしければぜひ!