大阪フィルハーモニー交響楽団
第546回定期演奏会
【日時】
2021年3月18日(木) 開演 19:00
【会場】
フェスティバルホール (大阪)
【演奏】
指揮:齊藤一郎
ピアノ:菊池洋子 *
管弦楽:大阪フィルハーモニー交響楽団
(コンサートマスター:崔文洙)
【プログラム】
ファリャ:バレエ組曲「三角帽子」 第2組曲
ラヴェル:ピアノ協奏曲 ト長調 *
トゥリーナ:交響詩「幻想舞曲集」 作品22
ラヴェル:スペイン狂詩曲
※アンコール(ソリスト) *
サティ:「ジュ・トゥ・ヴ」
大フィルの定期演奏会を聴きに行った。
指揮は、コロナ禍のため来日できないミゲル・ハース=ベドヤの代役として、齊藤一郎が担当。
ソリスト(ピアノ)も、ケマル・ゲキチに代わって菊池洋子が担当した。
齊藤一郎の指揮は、私は録音も含めおそらく聴いたことがなかったように思うが、聴いてみるとなかなかに素晴らしい。
今回はいずれもスペインにまつわる曲で、ハース=ベドヤが振るはずだったプログラムを変更せずにそのまま演奏したようだが、齊藤一郎の指揮は代役と思えないほどハマっていた。
長躯を揺らして踊るように指揮する彼の音楽には、スペインにふさわしいノリがある。
彼が振るファリャの「三角帽子」は、この曲で私の好きな録音である
●エラス=カサド指揮 マーラー・チェンバー・オーケストラ 2018年セッション盤(NML/Apple Music/CD) ※全曲版
●ビセント指揮 アッダ・シンフォニカ 2020年頃?ライヴ盤(Apple Music) ※終曲のみ
あたりにも共通する、地中海を思わせる明るさや艶を持つ。
この2つの中では、響きの明瞭度を重視したビセントよりは、どちらかというと熱狂的なエラス=カサドに近いか。
とはいえ、真面目なエラス=カサドに比べると、齊藤一郎は例えば終曲で主要主題に達する際にかなり大きくタメるなど、遊び心がある。
彼がオーケストラから引き出す強音は、洗練されよくまとまったというよりはやや硬めで発散気味のような気もしたが、インパクトのある力強い音であり、こういう楽しい曲には合っている。
また、ラヴェルの「スペイン狂詩曲」は、私の好きな
●ブーレーズ指揮 クリーヴランド管 1970年セッション盤(Apple Music/CD)
のフランスらしい冷静でクリアな美しさとはまた違った、スペインらしいにぎやかでカラフルな演奏であり、こういう解釈も大変良い。
終曲「祭り」の中間部の濃い表現や、最後の大音響と大きなリタルダンド(減速)など、ブーレーズなら決してしないことを惜しげなく行う。
かつそれらにはどこか彼特有のセンスがあって、泥臭くならない。
終始飽きることなく聴き入った。
今回の演奏会へ向けての齊藤一郎の言葉を以下に引用したい。
“Q.今回曲目を変えないでハース=ベドヤさんの考えられたプログラムを指揮されるわけですが、最初に曲目を聞いた時の印象、感想はいかがでしょうか。
→ すごく練られたプログラムだと思います。
3人の作曲家は同時代人で親交があった。
スペイン人のファリャとトゥリーナは親友同士、
二人はパリで研鑽中にラヴェルの知遇を得る。
ラヴェルの生まれはスペインの国境沿い、
「ピアノ協奏曲」にはスペイン民謡が入っています。
「スペイン狂詩曲」は満を持して世に発表した管弦楽作品のデビュー作。
留学中のファリャとトゥリーナは羨望の眼差しで初演に立ち会いました。
Q.大阪フィル定期初出演。意気込みをお願いします。
→ 朝比奈隆先生の時代からの大ファンです。ここ数年密度の濃い演奏ができたので、私の片思いかもしれませんが、相性はいいと感じています。
定期出演の嬉しさは言葉では表せません。
この演奏会を一言で表せば「熱狂」ではないでしょうか。
いま我々がもっとも現実化しにくいもの。
大フィルさんの「熱狂」で、
みなさまの心に空いてしまった感動の溝を埋めてください。”
以上である。
そう、彼には「熱狂」という言葉がよく似合う。
オーケストラをドライブして熱狂の渦に引きこむ力を彼は持っている。
彼がスペイン以外の音楽を振るとどうなるのか、他にも色々と聴いてみたくなった。
なお、ラヴェルのピアノ協奏曲については、これまでにも幾度か書いたが(その記事はこちらなど)、
●アルゲリッチ(Pf) アバド指揮 マーラー・ユーゲント管 2002年8月25日 ザルツブルク祝祭大劇場でのライヴ
の衛星生中継(ラジオ放送)をエアチェックしたものが抜群の名演であり、これの前にはアルゲリッチの他の録音ですら霞むほど。
その鮮烈な演奏が頭にこびりついた私には、今回の菊池洋子の演奏は第1楽章などかっちりしすぎて聴こえてしまう。
展開部の左右交互連打の音抜けなど、テクニック的な問題もあった。
しかし、再現部の第2主題(右手でトリルを、左手でメロディと伴奏を弾く箇所)で、丁寧な歌い方に好感を持った。
そして第2楽章、これはかなり良かった。
このシンプルなピアノ・ソロで、聴かせる演奏をするのは存外難しいと思うが、彼女はそれが自然な表現でできていた。
ピアノのメロディを引き継ぐ田中玲奈のフルートはいつもながら大変に美しく輝いており、それに比べるとピアノはやや地味なのだが、そのコントラストがまた味である。
中間部の三連音や再現部の四連音の右手オブリガートが走りがちなのが惜しかったが、それ以外には(この楽章では)言うことなし。
アンコールの「ジュ・トゥ・ヴ」、これも最初はややかたいと感じたが、半ばでは右手の装飾パッセージなど繊細でこじゃれており良かった。
(画像はこちらのページよりお借りしました)
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