田中玲奈 法貴彩子 兵庫公演 山田耕筰 「この道」を主題とする変奏曲 ほか | 音と言葉と音楽家  ~クラシック音楽コンサート鑑賞記 in 関西~

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クラシック音楽の鑑賞日記や雑記です。
“たまにしか書かないけど日記”というタイトルでしたが、最近毎日のように書いているので変更しました。
敬愛する音楽評論家ロベルト・シューマン、ヴィルヘルム・フルトヴェングラー、吉田秀和の著作や翻訳に因んで名付けています。

ワンコイン・コンサート

田中玲奈 ~フルートとめぐる日本紀行

 

【日時】

2021年3月12日(金) 開演 11:30 (開場 10:30)

 

【会場】

兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール

 

【演奏】

フルート:田中玲奈

ピアノ:法貴彩子

 

【プログラム】

宮城道雄:春の海

林光:「七つの子」変奏曲 ~本居長世の主題による~

團伊玖磨:フルートとピアノのためのソナタ より 第1楽章

尾高尚忠:フルート協奏曲 op.30b より 第2、3楽章

山田耕筰:「この道」を主題とする変奏曲

 

※アンコール

C.J.アンデルセン:6つのサロン風小品 Op.24 より 第6番「おしゃべり」

 

 

 

 

 

下記リブログ元の記事に書いていたフルート奏者、田中玲奈のコンサートを聴きに行った。

前回のバッハとテレマンの名演以来(その記事はこちら)、待ちに待った2年半ぶり(大フィルのフルート奏者としての出演を除く)の彼女のリサイタルである。

 

 

今回は、全て日本人作曲家の作品という意欲的なプログラム。

それも、1880年代生まれの山田耕筰、1890年代生まれの宮城道雄、1910年代生まれの尾高尚忠、1920年代生まれの團伊玖磨、1930年代生まれの林光、と少しずつ世代の違う作曲家が選ばれ、明治以後の日本の音楽の変遷を体感できる作りになっている。

 

 

このようなプログラムを組むにあたって、どの曲を選ぶか1年半かけてぎりぎりまで悩んだとのことであり、これらの曲に対する彼女の思い入れの強さが感じられる、充実したトークが聞けた。

といっても、マニアックな話であることを感じさせない、明るくて楽しい、はきはきした親しみやすいおしゃべりである。

 

 

彼女のトークによると、江戸時代、215年間ずっと鎖国をしていた日本は、鎖国前(末期ルネサンス)の、木製で穴を押さえるタイプの笛から、鎖国後(中期ロマン派)の、金属製でボタンを押すタイプのフルート(ベーム式と呼ばれる)への進化に、大いに驚かされた。

音程等正確に出せるようになったこの近代的なフルートが日本の作曲家たちを触発し、これらのフルート曲として結実したとのこと。

 

 

宮城道雄は(残念ながらこの曲は用事のため私は聴けなかったが)、西洋音楽でなく邦楽の作曲家だが、西洋音楽の要素を邦楽に積極的に取り入れようとした人だった。

なんと彼はドビュッシー、ラヴェル、ストラヴィンスキー、ミヨーら同時代の西洋の作曲家のレコードを熱心に集めていたとのことである。

当時の日本人西洋音楽家でさえ、そこまでしていたかどうか。

 

 

次の林光の変奏曲は、有名な童謡「七つの子」(からす なぜなくの、の歌)を主題とした、シンプルで古典的な曲。

幼少期をドイツで過ごした田中玲奈は日本の童謡をあまりよく知らず、むしろ子育て中の今になって童謡を勉強し、歌い聴かせているとのこと(「七つの子」はあまり歌わないそうだが)。

 

 

次の團伊玖磨のフルート・ソナタは、フラッターとよばれる巻き舌奏法など、近代的な技法が用いられた曲。

團伊玖磨はオペラ「夕鶴」において、雪の情景をフルートの高音部で表現したとのことだが、確かにそういった描写にふさわしい印象派風の趣の音楽だと感じた。

 

 

次の尾高尚忠のフルート協奏曲は彼の最晩年の作品で、弟子だった上述の林光がオーケストレーションを補筆完成したとのこと。

田中玲奈の細身で繊細な音色、一音一音に神経を使う丁寧さは世界にも他に類を見ないほどで、終楽章の同音連打を含む無窮動風パッセージの滑らかさ、艶やかさなど驚異的。

ヴァイオリンの五嶋みどりやアリーナ・イブラギモヴァを想起させる。

 

 

最後の山田耕筰の変奏曲は、主題がかくれんぼでもしているかのような変奏の妙に感心し、いつか吹こうと温めていた秘蔵曲だったようで、今回満を持してプログラムの最後に置いたとのこと。

確かに、西洋の初期ロマン派のスタイルに、日本風の五音音階の要素も絡めつつ品よくまとめた、古典的な名品である。

シューベルトの「しぼめる花」変奏曲の日本版、とでもいえようか。

田中玲奈の演奏も、ひんやりと涼やかで清々しい、最上のものだった。

 

 

アンコールは日本人作曲家から趣向を変えて、アンデルセンというフルート界では有名らしいデンマークの作曲家の曲。

「おしゃべり」というタイトルの通り、急速な三連音が休みなく続く超絶技巧曲だが、全くムラのない見事な演奏を聴かせてくれた。

あまりの滑らかさ、余裕ぶりに、いったいどのタイミングで息を吸っているのか皆目わからなかったほど。

 

 

最後の曲を演奏する際、「この演奏会をずっとずっと楽しみにしてきました、この曲でもう終わってしまうのだと思うと寂しいです」というような話があった。

まさに、こちらのほうこそである。

今後、大フィルの演奏会はもちろんのこと、ぜひとも定期的にソロリサイタルも開いていただけないものだろうか。

 

 

なお、彼女のトークの中で、フルート曲はバロックや古典派、また近現代には多いけれど、ロマン派には意外と少ない、との話があった。

なるほど、確かにそうかもしれない。

そんな数少ないロマン派のフルート曲を集めた彼女の1stアルバム(NMLApple MusicCD)、また数多いバロックや古典派、また近現代のフルート曲から選りすぐった彼女の2ndアルバム(NMLApple MusicCD)、ともに極上の名盤であるため未聴の方はぜひ。

 

 

 

(画像はこちらのページよりお借りしました)

 

 

 

 


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