今回は演奏会の感想でなく、別の話題を。
前回(その記事はこちら)に引き続き、「一人レコード・アカデミー賞」。
本家のレコード・アカデミー賞(こちらのページを参照)とはまた別に、自分一人で勝手に2020年発売の名盤を選んでみようと思う。
一部門につき5つの名盤を挙げ、そこからさらに一つ選びたい。
今回は管弦楽曲部門。
順序は、発売日の早い順である。
シェーンベルク:『ペレアスとメリザンド』『期待』
エドワード・ガードナー&ベルゲン・フィル、サラ・ヤクビアク
(NML/Apple Music/CD)
ガードナーの指揮は、現代風のすっきりした様式と、後期ロマン派風の濃厚な情緒とを、バランスよく持ち合わせている。
そんな彼の特質はシェーンベルクの初期作品にぴったり合っており(前回の「グレの歌」も同様)、その意味では完全に現代音楽風なブーレーズ盤よりも曲本来の形に近いかもしれない。
Pelleas und Melisande, Op. 5: Die ein wenig bewegt - YouTube
※YouTubeのページに飛ぶと全曲聴けます。飛ばない場合は以下のURLへ。
https://www.youtube.com/watch?v=yUz4N4u9vow&list=OLAK5uy_nXiZfBYbEBfpRCHuPwfGaRhXcKTa__U60
ストラヴィンスキー:『火の鳥』『春の祭典』
ジョゼプ・ビセント&アッダ・シンフォニカ
ビセントというスペインの指揮者を私は比較的最近知ったのだが、相当な才能の持ち主である。
彼が振ると、あらゆる音が生き生きと飛び出してきて、まるで音の洪水のよう(それも、しぶきの一つ一つがはっきり見えるような)。
「火の鳥」はブーレーズ&ニューヨーク・フィルの決定的名盤に迫る勢いだし、「春の祭典」に至ってはブーレーズ&ニューヨーク・フィルの録音がないだけに(クリーヴランド管との有名な録音はあるがやや地味)、このビセント盤こそ決定的名盤だと言いたいくらい。
「春の祭典」ほど数多くの録音がある曲で、それらを凌駕するような録音を新たに聴けることになろうとは、想像していなかった。
The Firebird Suite I: Introduction (1919) - YouTube
※YouTubeのページに飛ぶと全曲聴けます。飛ばない場合は以下のURLへ。
https://www.youtube.com/watch?v=-HUaCQ_8qbE&list=OLAK5uy_m4_I8nr2J2IrzyrF9ckgrEykta43NTB6I
レスピーギ:ローマ三部作
ジョン・ウィルソン&シンフォニア・オブ・ロンドン
(NML/Apple Music/CD)
ローマに降り注ぐ明るい陽光を思わせるような、鮮烈な演奏。
「ローマの松」「ローマの噴水」は、これらを通俗名曲でなくストラヴィンスキーばりの新古典主義の傑作として扱ったデ・ワールト指揮の決定的名盤があるが、今回のウィルソン盤はそれに次ぐ出来。
「ローマの祭り」はデ・ワールトによる録音がないため、ローマ三部作としてはこのウィルソン盤が最高だと思う。
Feste Romane, P. 157: I. Circenses - YouTube
※YouTubeのページに飛ぶと全曲聴けます。飛ばない場合は以下のURLへ。
https://www.youtube.com/watch?v=ScXm-0inLjg&list=OLAK5uy_lo6WX9PAgn1kIwlDOkTT82no2dhMWULvc
ハンス・ロット:管弦楽作品集 第1集
クリストファー・ウォード&ケルン・ギュルツェニヒ管弦楽団
(NML/Apple Music/CD)
ハンス・ロットの曲は派手さはないものの、ヴァーグナーの「ニーベルングの指環」やブラームスの交響曲第1、2番が初演されて間もない1870年代後半、ブルックナーがまだ評価されず、ヴォルフやマーラーやR.シュトラウスが主要作品を書き始める以前の時代に、20歳になるかならないかの青年が書いた作品としては、なかなかのものである。
ウォードの指揮も、青年作曲家のナイーブな音楽を丁寧に扱っている。
Hamlet Overture, Nowak 39 - YouTube
※YouTubeのページに飛ぶと全曲聴けます。飛ばない場合は以下のURLへ。
https://www.youtube.com/watch?v=Pg98JF0LDkk&list=OLAK5uy_lxA_JR0a6qvemljRuW_ywTelq3XPoixCw
ブリテン:シンフォニア・ダ・レクイエム
ミルガ・グラジニーテ=ティーラ&バーミンガム市交響楽団
ドイツ・グラモフォンが長期専属契約を結んだ初めての女性指揮者である彼女は、1stアルバムがヴァインベルク交響曲集、2ndアルバムがシャルクシュニーテ作品集、そして今回の3rdアルバムがブリテンのシンフォニア・ダ・レクイエムと、売れ筋の曲を選ばないこだわりの人。
この曲にはブリテン自演盤をはじめ、ペシェク、ヒコックス、ラニクルズ、カルマーなど名盤が多いが、今回のティーラ盤もこれらに匹敵する。
完成度の高さや音質等考慮すると、第一に推してもいいかも。
Britten: Sinfonia da Requiem, Op. 20 - I. Lacrymosa - YouTube
※YouTubeのページに飛ぶと全曲聴けます。飛ばない場合は以下のURLへ。
https://www.youtube.com/watch?v=ZRUul9ZDLoE&list=OLAK5uy_nSgkfkovpdmkk2WETQs-zBJJf6eDNhnC8
その他、上述のビセントはファリャ「恋は魔術師」の新譜も出していて、そちらも大変見事だし、ウォーレン=グリーン&ロンドン室内管の創立100周年記念ライヴ盤なども印象に残っているが、最終的には上の5盤を選んだ。
この5つの中から一つ選ぶとすると、音の「見える化」とでも言いたいような、際立った個性を持つビセントということになろうか。
というわけで、一人レコード・アカデミー賞2020の管弦楽曲部門は、
ストラヴィンスキー:『火の鳥』『春の祭典』
ジョゼプ・ビセント&アッダ・シンフォニカ
ということにしたい。
なお、実際のレコード・アカデミー賞2020の管弦楽曲部門は、エラス=カサド指揮マーラー室内管弦楽団他によるファリャ:バレエ音楽《三角帽子》、同《恋は魔術師》であった。
エラス=カサドは、交響曲部門と管弦楽曲部門の二冠である。
交響曲部門の第九が熱気不足だったのに対し、こちらのファリャ作品集はお国もののためか、なかなかに気合いの入った演奏。
輸入盤ではすでに2019年に発売されていたため私は今回選ばなかったけれど、もし2020年だったならば選んでいただろう。
ちなみに、「一人レコード・アカデミー賞」のこれまでの記事はこちら。
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