内匠慧オンラインピアノコンサート
※無観客公演、ライブストリーミング配信
【日時】
2020年10月17日(土) 開演 19:00
【会場】
ナゴヤピアノコンサートサロン(名古屋ピアノ調律センター3階)
【演奏】
ピアノ:内匠慧
【プログラム】
リスト:「ラ・レジェレッツァ」
ドビュッシー:ベルガマスク組曲
1.「前奏曲」
2.「メヌエット」
3.「月の光」
4.「パスピエ」
アルベニス:イベリア第1集
1.「エボカシオン」
2.「港」
3.「セビリアの降誕祭」
バラキレフ:東方幻想曲「イスラメイ」
好きなピアニスト、内匠慧のオンラインコンサートを聴いた。
名古屋ピアノ調律センターによるオンラインピアノコンサートシリーズの第4弾である(第2弾の中川真耶加の記事はこちら、第3弾の進藤実優の記事はこちら)。
ネット配信の音質は最上とは言えないが、それでもこのような催しは大変ありがたい。
内匠慧は、同年代のピアニストとして務川慧悟と並ぶ存在である(前者は2012年浜コン第6位、後者は2018年浜コン第5位)。
2人はシャープな音楽性が共通している一方、対照的な面もある。
爽やかな明るい情感を特徴とする務川慧悟に対し、内匠慧は心の影を表現するタイプのピアニスト。
ニヒルな演奏スタイルの裏に、繊細な感情が見え隠れする。
今回演奏されたリストも、さらりとしながらも陰影があるし、ドビュッシーも務川慧悟のようなエスプリとはまた違った、ショパンからの影響を感じさせる隠微な憂愁の表現が美しい。
アルベニスの「イベリア」第1集は、名曲である割に録音があまり多くなく、そのためかまだこれぞというほどの演奏に出会っていない。
今回の内匠慧の演奏は、私がこの曲からイメージする地中海の強い陽光や乾いた風を感じさせてくれるものではなかったが(特に第2曲「港」や第3曲「セビリアの降誕祭」トレモロ部はまばゆいばかりの輝きが欲しい)、それでもこの曲でこれほど美しい情感表現をこれまでに聴いた記憶はない。
最後の曲は、バラキレフの「イスラメイ」。
この曲で私の好きな録音は
●ムストネン(Pf) 1991年11月3日セッション盤(NML/Apple Music/CD)
●ベレゾフスキー(Pf) 1994年セッション盤(NML/Apple Music/CD)
●チェン・ハン(Pf) 2015年11月23日浜コンライヴ盤(CD)
●パレムスキ(Pf) 2016年頃セッション盤(NML/Apple Music/CD)
●K.ミラー(Pf) 2018年頃私家録音(動画)
あたりである。
今回の内匠慧の演奏はやや瑕が多く、技巧重視のこの曲においては分が悪い。
とはいえ、テクニックが弱いというわけではなさそうだし、また中間部の表現力は上記のどの名盤よりも上と言っていいかも。
セッション録音でじっくりと完成度の高いものを録ってみてほしいところである。
なお、曲間の内匠慧のトークが面白かった。
演奏同様彼のニヒルな性質がよく表れたトークで、その面白さは文章にしにくいが、少しばかり列記してみる。
オンラインコンサートでは生のコンサートの緊張感がないため、お笑いにおいて大事な「緊張と緩和」の緊張の要素が聴衆になく、トークで笑いを取ろうとしてもうまくいかなくなり自信を失ったこと。
「空気感」という、オンラインコンサートでは最も難しいことをテーマに今回弾くことになってしまったこと。
アルベニスの「エボカシオン」では、吹く風がふと過去の記憶を呼び起こす様が表現されているということ。
国民楽派の草創期に作曲されたバラキレフの「イスラメイ」は、主部がグルジア(ジョージア)の旋律、中間部がアルメニアの旋律、コーダがロシアのトレパークという舞曲、と各地の音楽のごった煮であるため、演奏様式も決まりはなく「何でもあり」なのだということ。
スペインから急にロシアにとぶ一見突飛なプログラムとなったが、ともに異文化(イスラム)と接する地域という共通点があること。
こういった豊富な話題と幅広い知識が、独特の口調で漫談のように語られ、藤田真央のトーク(こちらなど)とはまた別の面白さがあった。
ところで、今回のオンラインコンサートは配信の不調が多かったため、演奏部をつなげた編集動画を一週間限定で再配信予定とのこと。
聴き逃した方はお楽しみに。
(画像はこちらのページよりお借りしました)
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