藤田真央 大阪公演 チャイコフスキー ドゥムカ シューベルト さすらい人幻想曲 ほか | 音と言葉と音楽家  ~クラシック音楽コンサート鑑賞記 in 関西~

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クラシック音楽の鑑賞日記や雑記です。
“たまにしか書かないけど日記”というタイトルでしたが、最近毎日のように書いているので変更しました。
敬愛する音楽評論家ロベルト・シューマン、ヴィルヘルム・フルトヴェングラー、吉田秀和の著作や翻訳に因んで名付けています。

藤田真央 ピアノリサイタル

 

【日時】

2020年9月12日(土) 開演 13:30

 

【会場】

住友生命いずみホール (大阪)

 

【演奏】

ピアノ:藤田真央

 

【プログラム】

ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第13番 「幻想曲風ソナタ」 変ホ長調 op.27-1

チャイコフスキー:ロマンス ヘ短調 op.5

チャイコフスキー:ドゥムカ -ロシアの農村風景- ハ短調 op.59

アルカン:「短調による12の練習曲」 から “イソップの饗宴” ホ短調 op.39-12

ショパン:幻想曲 ヘ短調 op.49

ショパン:ポロネーズ 第7番 「幻想」 変イ長調 op.61

シューベルト:「さすらい人幻想曲」 ハ長調 op.15 D760

 

※アンコール

ショパン:アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ より ポロネーズ

ブラームス:ワルツ op.39-15

 

 

 

 

 

下記リブログ元の記事に書いていた、藤田真央のピアノリサイタルを聴きに行った。

彼の実演を聴くのはこれで2回目(1回目はこちら)。

 

 

最初の曲は、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第13番。

この曲で私の好きな録音は

 

●吉武優(Pf) 2015年11月22日浜コンライヴ盤(CD)

●アンドレアッタ(Pf) 2017年5月4日モントリオールコンクールライヴ(動画

 

あたりである。

今回の藤田真央は、これらのかっちりくっきりと力強いベートーヴェンとはまた違った、なだらかでロマン的な解釈。

私の中でのベートーヴェンのイメージとは幾分異なるが、プログラムノートの藤田真央自身の言葉にあるように、「新しい何かを探し求めたベートーヴェンの心意気」を感じる演奏だった。

ロマンティックからダイナミックまで表現の振れ幅の大きな、一貫性よりも自由な感興を重視した解釈で、ソナタというよりも単一楽章の幻想曲といった面持ちである。

「幻想曲風ソナタ」と名付けられたこの曲が、後年のシューマンの幻想曲やリストの単一楽章ソナタを予言している旨を教えられる演奏。

 

 

次の曲は、チャイコフスキーのロマンス、それから続けてドゥムカ。

これらの曲はあまり聴き比べていないが、特にドゥムカは藤田真央の2019年チャイコフスキーコンクール1次での伝説の名演が忘れがたい(こちらの23:36~)。

今回生で聴くと、さらに感動的だった。

藤田真央は、ベートーヴェンも悪くないのだが、やっぱりロマン派の曲がよく似合う。

冒頭の主題、哀しみがこれほど美しく心にすっと降りてくる演奏が他にあるのかどうか、少なくとも私は聴いた覚えがない。

主題が左手に移っても変わらぬ美しさで歌われ、それに寄り添う右手の装飾音型はあまりにも繊細、えもいわれぬその洗練はリストの「ウィーンの夜会」などと同様、人工美の極致である。

その後も曲が盛り上がるほどに、彼の腕も冴えに冴える。

そして最後には冒頭主題が低音域で弱々しく再帰し、もはや力なく息絶え、最後には死神の鉄槌のごとき強烈な和音が打ち下ろされる。

そんな情景が浮かんでくる、劇的かつ精緻な、最高の名演だった。

 

 

次の曲は、アルカンの「イソップの饗宴」。

この曲で私の好きな録音は

 

●M-A.アムラン(Pf) 1994年セッション盤(CD

●ローマ(Pf) 2001年セッション盤(NMLApple MusicCD

●マルテンポ(Pf) 2012年セッション盤(NMLApple MusicCD

●ソン・ヨルム(Pf) 2013年3月7日ソウルライヴ(動画

●イ・ヒョク(Pf) 2018年11月20日浜コンライヴ盤(CD)

●ソン・ユル(Pf) 2020年5月11日ライヴ(動画

 

あたりである。

今回の藤田真央は、これらに勝るとも劣らない名演を聴かせてくれた。

ソン・ユルの動画について昨日の記事に書いたが(その記事はこちら)、藤田真央もこれに全く劣らない驚くべき超絶技巧を発揮した(第7、17、18変奏など人間業とも思えない)。

加えて、第5、20変奏での強烈な和音や、第9-11変奏での豊かな抒情性など、表現力においてさらに一歩抜きんでているといえそう。

彼はぜひこの曲を録音してほしいものである。

 

 

休憩をはさんで、次の曲は、ショパンの幻想曲。

実はこの曲、長大な割に作りが単純なためか、いまいち好きになれない(ワルシャワで聴いたバレンボイムの同曲演奏は交響曲のようなスケールがあってなかなか良かったが)。

さすがの藤田真央の演奏でも、この曲が大好きになるまではいかなかったが、それでも中間部の優しい歌やコーダの朝もやのような細やかさなど、大変に美しかった。

 

 

間髪をいれずに奏された次の曲は、ショパンの幻想ポロネーズ。

この曲で私の好きな録音は

 

●江尻南美(Pf) 2009年頃セッション盤(Apple MusicCD

●フアンチ(Pf) 2010年10月14日ショパンコンクールライヴ(動画

●コン・チー(Pf) 2017年4月29日ルービンシュタインコンクールライヴ(動画

●深見まどか(Pf) 2017年5月25日クライバーンコンクールライヴ(動画

●キム・ユンジ(Pf) 2018年9月6日リーズコンクールライヴ(動画) ※16:13~

 

あたりである。

ショパン晩年の侘しさのようなものを何気なく表現した演奏が好き。

今回の藤田真央は、もちろん素晴らしいものだったが、アゴーギクの付け方などやや凝りすぎている印象もなくはなかった。

とはいえ、このあたりは好みの問題も大きかろう。

ロマン的な味は十分に出ていたし、先ほどの幻想曲と同じく、やはり藤田真央はショパンとの相性が良いように感じた。

 

 

最後の曲は、シューベルトのさすらい人幻想曲。

この曲で私の好きな録音は

 

●Ho Yel Lee (Pf) 2017年5月4日モントリオールコンクールライヴ(動画

 

あたりである。

派手すぎず端正でかっちりとした、「ベートーヴェンに影響を受けたシューベルト」といった私のイメージに最も近い演奏。

それに対し今回の藤田真央は、もっとテンポが流動的で(細かい音符がより速くなる)、フォルテも相当に力強く激しい(第1楽章終盤のオクターヴなど凄まじい)、ロマン的な起伏の大きい演奏だった。

ロマン的という点ではチョ・ソンジンのCDにも似ているが(その記事はこちら)、表現はより激しい(ライヴだからということもあるかも)。

チョ・ソンジン以上に速いテンポで華麗に盛り上げる終楽章は、後年のリストの音楽を予言している。

(この曲のイメージとは異なるものの)その意味では冒頭のベートーヴェンと呼応しており、全体としてまとまりの良い演奏会ではあった。

 

 

なお、アンコールの「華麗なる大ポロネーズ」では、彼のそうしたヴィルトゥオーゾ的華やかさが遺憾なく発揮された。

私の好きなクレア・フアンチの同曲演奏よりもさらに一段階速いテンポで、ぴちぴちと飛び跳ねるような活気があって、それでいて細部の繊細さも十分に健在。

上記の幻想ポロネーズよりも彼のやんちゃぶりが曲とうまくマッチし、アンコールらしい一筆書きの趣も手伝って、これ以上望めない名演となった。

いつか「アンダンテ・スピアナート」部分も聴いてみたいものである(これまた彼に合いそう)。

最後にしみじみとしたブラームスのワルツでクールダウンし、終演となった。

 

 

 

(画像はこちらのページよりお借りしました)

 

 

 

 


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