(クレア・フアンチの新譜 パデレフスキ ピアノ協奏曲 ショパン ピアノ協奏曲第1番) | 音と言葉と音楽家  ~クラシック音楽コンサート鑑賞記 in 関西~

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クラシック音楽の鑑賞日記や雑記です。
“たまにしか書かないけど日記”というタイトルでしたが、最近毎日のように書いているので変更しました。
敬愛する音楽評論家ロベルト・シューマン、ヴィルヘルム・フルトヴェングラー、吉田秀和の著作や翻訳に因んで名付けています。

今回は演奏会の感想ではなく、別の話題を。

リブログ元の記事に書いていた好きなピアニスト、クレア・フアンチ(Claire Huangci)の新譜が来月発売予定となっている(Apple MusicCD)。

曲目は、パデレフスキのピアノ協奏曲と、ショパンのピアノ協奏曲第1番。

シーヨン・ソン指揮、ザールブリュッケン・カイザースラウテルン・ドイツ放送フィルハーモニー管弦楽団との共演である。

発売前だが、Apple Musicではもうすでに聴けるため、さっそく聴いてみた。

 

 

Piano Concerto: Claire Huangci(P)Shi Yeon Sung / Deutsche Radio Po +chopin: Concerto, 1,

 

 

(画像はHMVのページからお借りしました)

 

 

これは、相当な名盤だと思う。

ショパンのピアノ協奏曲第1番。

あまりにも頻繁に演奏され(ショパンコンクールのファイナルでもほとんど皆この曲を選ぶ)、弾き古されたと言っても過言ではないこの曲に、フアンチは新しい光を当てている。

それは、「古典的均衡」である。

この曲は、副主題や第2主題でテンポを大きく落としたり、経過句やコーダでやたらと速くしたり、といった情熱的でラプソディックな解釈で演奏されることが多い。

有名なアルゲリッチ盤など、その最たるものだろう(あれはあれで大変な名演だが)。

それに対し、フアンチは一貫して落ち着いたテンポで弾いている。

音楽の起伏も、それほど大きくは動かさない。

その結果、自己陶酔的になることなく、均整の取れた、まるで古楽器演奏のようなまったりした味わいが生まれている。

この曲の書かれた1830年が、ベートーヴェン逝去のわずか3年後であったことを思い出させてくれる。

そう、ショパンが心から敬愛していたのは、同時代のロマン派作曲家よりも、バッハやモーツァルトであった。

 

 

「古典的」と言っても、過度にアカデミックで融通の利かない演奏では決してない。

しなやかで、すみずみまで歌のセンスにあふれている。

また、まったりしているにもかかわらず、生き生きとした躍動感にも欠けていない。

アーティキュレーションにこだわった明快なタッチのためだろう。

第1楽章コーダの左手のトリル音型のような、ごまかされることの多い箇所がいかに丁寧に扱われ明快に聴こえてくるか、その例は枚挙にいとまがない。

そして、第1楽章第2主題や第2楽章のような名旋律を弾く際の、美しいこと。

ロマン的だが甘ったるくなく、からりとした古典的晴朗さを湛えている。

その晴れやかさは、シューベルトの最良の歌曲にも匹敵するとさえ言いたくなるほど。

なまじ感傷的な演奏よりも、心打たれる。

このピアノ協奏曲は、例えばシューマンのそれと比較して、芸術的価値において低く見られがちであるが、そう見る人にこそ聴いてみてほしい演奏である。

 

 

なお、パデレフスキのほうは、聴き慣れない曲。

残念ながら一流の曲とは思えなかったが、演奏は一流である。

それに、こうした有名でない曲を取り上げてくれるのも嬉しい。

フアンチには、ぜひこれからも歴史の陰に隠れた曲に光を当てていってほしい。

そして、彼女の得意とするショパンの作品を、これからもできるだけたくさん録音してほしいものである。

 


 

 


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