第57回大阪国際フェスティバル2019
パーヴォ・ヤルヴィ指揮
エストニア・フェスティバル管弦楽団
【日時】
2019年4月28日(日) 開演 15:00
【会場】
フェスティバルホール (大阪)
【演奏】
指揮:パーヴォ・ヤルヴィ
管弦楽:エストニア・フェスティバル管弦楽団
ヴァイオリン:五嶋みどり *
【プログラム】
ペルト:ベンジャミン・ブリテンへの追悼歌
シベリウス:ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 Op.47 *
トゥール:テンペストの呪文
シベリウス:交響曲第2番 ニ長調 Op.43
※プレコンサート *
プロコフィエフ:2つのヴァイオリンのためのソナタ ハ長調 Op.56 より 第2楽章 (第2ヴァイオリン:Mina Jarvi)
モーツァルト:ヴァイオリンとヴィオラのための二重奏曲 変ロ長調 K.424 より 第1楽章 (ヴィオラ:安達真理)
※アンコール(ソリスト) *
J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ 第2番 ニ短調 BWV1004 より 第3曲 サラバンド
エストニア祝祭管弦楽団のコンサートを聴きに行った。
というのも、世界でも屈指の名ヴァイオリニスト、五嶋みどりが出演するからである。
なお、用事があったため前半のプログラムしか聴けなかった。
パーヴォ・ヤルヴィは好きな指揮者の一人であり(彼はエストニア出身)、彼の振るシベリウスの交響曲第2番、それからエストニアの作曲家トゥールの「テンペストの呪文」、これらも聴いてみたかったけれど、仕方がない。
コンサートの前に、プレイベントがあった。
最初にプロコフィエフの「2つのヴァイオリンのためのソナタ」第2楽章が演奏されたようだが、私は遅れていったのでこれは聴けなかった。
次に、五嶋みどりと安達真理(エストニア祝祭管弦楽団のヴィオラ奏者)により、モーツァルトの「ヴァイオリンとヴィオラのための二重奏曲」第1楽章が演奏され、こちらは聴くことができた。
このモーツァルトが、本当に素晴らしかった。
上質な絹のように滑らかでデリケートな、どこまでも優しい音楽。
この曲にはアンティエ・ヴァイトハースとタベア・ツィンマーマンによる名盤があるけれど、今回の五嶋みどりらによる演奏はそれを凌駕する美しさだった。
パーヴォ・ヤルヴィ&エストニア祝祭管弦楽団にとってのお国もの、ペルトの「ベンジャミン・ブリテンへの追悼歌」の美しい演奏を経たのち、ついにシベリウスのヴァイオリン協奏曲へ。
14年も前に、私はこの曲を弾く五嶋みどりのコンサートを聴き、深く感動したのだった(そのときの記事はこちら、記録のみ)。
また、この曲には、一体いくつあるのか分からないくらい数多くの録音が存在するけれど、その中でも
●五嶋みどり(Vn) メータ指揮イスラエル・フィル 1993年7月26-30日セッション盤(Apple Music/CD)
が別格だと私は思っている。
そんなわけで、今回の演奏会も大変楽しみにしていた。
聴いてみると、やはり文句のつけようのない演奏だった。
こんなにも完璧で美しいフレージング、アルペッジョ、重音奏法が可能な人が彼女以外にいるとすると、それは昨日聴いたイブラギモヴァくらいのものだと思う。
洗練の極致、圧倒の貫禄。
史上最高のヴァイオリニストと言っていい。
ただ、ごくわずかなのだけれど、変化も感じた。
上記の録音の頃の五嶋みどりの演奏には、寄らば切れんばかりの剃刀のごときキレ味の鋭さと、心の絶対零度とでもいうべき、果てしなく深い孤独があった。
それに対し、今回の彼女の演奏からは、少し緊張の緩められた円満さのようなものが感じられた。
これは、彼女の円熟なのだろう。
上記の録音、尖っていた頃の彼女の演奏から聴かれる、あの冒頭の主要主題のどうしようもない暗さ、ぴんと張りつめた緊張感。
その主題が再現部において低音域で帰ってくる際の、よりいっそう重苦しい暗淵。
そして、畳みかけるような激しさで救いなく終わる第1楽章コーダ。
これらが、私は堪らなく好きなのだった。
でも、今回は、それが少し明るい。
絹のようなつややかさや繊細さには、全く変わりがないのだけれど。
彼女の弾くモーツァルトも、以前はあまりに暗く救いがないように私には感じられたのだけれど、先ほどのプレイベントでのモーツァルトは、もっと和んだ雰囲気が出ていた。
そして、モーツァルトにおいては、私はこうした変化を大変好ましく感じる。
シベリウス寄りの音楽性から、モーツァルト寄りの音楽性へ。
幼少期から青年期にかけて彼女が経験した労苦についてはドキュメンタリー本「母と神童」に詳しいが、実際のところどれほど壮絶なものだったのか、そしてそれが今ではどう変わったのかについては、私には想像もできない。
できないのだけれど、もしも彼女の音楽性の変化が、彼女自身の状況の好転を反映しているのだったらいいな、と強く思う。
好きな絵はゴヤの描いた恐ろしい「我が子を食らうサトゥルヌス」だと語ったという彼女だが、今では変わっただろうか。
彼女の弾くシベリウスを聴きながら、そんなことを考えた。
そして、終楽章コーダでの、彼女の鮮やかな演奏から発せられる輝かしい白光に、胸がいっぱいになった。
アンコールは、バッハの無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番から、サラバンド。
五嶋みどりのための曲と言いたいほどの彼女の得意曲であり、その演奏の素晴らしかったことは言うまでもない。
(画像はこちらのページからお借りしました)
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