今回は演奏会の感想ではなく、別の話題を。
私は観ていなかったのだが、2018年10月9日(火)19時に、「芸能人格付けチェック ~MUSIC~ 秋の3時間スペシャル」というテレビ番組が放送されたらしい。
何人かの芸能人が、18億円のストラディヴァリウスのヴァイオリンや、777万円のフルート、500万円の三味線など、高級楽器の音をブラインドで聴いて、普通の楽器とどちらがどちらの音か言い当てる、というクイズ企画である。
ただし、声楽については楽器がないので、プロの声楽家とアマチュアの声楽家が歌い、それをブラインドで聴いて当てる。
芸能人たちは、他の楽器のクイズではそれなりに正解したが、声楽のクイズではなんと全員がアマチュアのほうをプロと答えてしまい、視聴者の間では「大惨事」「プロの人が気の毒」「放送事故なのでは」と騒動になったという。
この騒動、少し面白い。
出演したプロおよびアマチュアの声楽家は、それぞれ以下のような人であったという。
プロ:世界的なソプラノ歌手、Aさん
ニューヨークのジュリアード音楽院出身、YMCAコンクールで金賞
アマチュア:声楽歴15年のアマチュア歌手、Bさん
桐朋学園大学、修士課程、声楽専攻
この2人がガーシュウィン作曲「サマータイム」を歌うのを聴き比べたところ、全員がアマチュア声楽家の声をプロと答えた。
私は2人の歌唱を聴いていないので何とも言えないが、確かにプロの人は可哀想かもしれない。
何が可哀想かというと、人選である。
おそらく問題なのは、以下のようなことだろう。
1. 年齢に開きがある
詳しくは不明だが、AさんはBさんよりそこそこ年上のようである。
年齢が進むと、どうしても技術的に衰えるのはやむを得ない。
もちろん、年齢が進むと円熟した味わいが出る、という面もあるけれど。
また、世代が進むにつれ、テクニックの水準は上がっていく(スポーツで世界新記録がどんどん更新されていくのと似ている)。
基本的には、上の世代のほうが不利になる場合が多いだろう。
2. 「アマチュア」の設定に問題がある
Bさんは、桐朋の声楽首席卒業とのことである。
桐朋のような、国内とはいえ一流の音大を首席で卒業というと、もはやほとんどアマチュアとはいえない。
演奏活動で食べているわけでないという意味ではアマチュアかもしれないが、実力はそんじょそこらのプロよりも上のはず。
「アマチュア」は、音大出身者以外から選ぶか、あるいは一流以外の音大の首席でない人を選ぶかしない限り、大きな実力差は生じない。
「声楽だから仕方ない」という意見もあったようだが、おそらくそれはあまり当たらない。
確かに声楽では特に顕著かもしれないが、声楽のみならず器楽においても、(楽器の質でなく演奏者の質を比べる場合には)同じような問題が生じうる。
というわけで、試しにピアノ・バージョンでクイズを作ってみた(暇人)。
プロ:世界的なピアニスト、マウリツィオ・ポリーニさん
ミラノ音楽院出身、ショパン国際ピアノコンクールで優勝
アマチュア:ピアノ歴○○年のアマチュアピアニスト、中川真耶加さん
東京音楽大学、修士課程、器楽専攻
そして演奏曲目は、ショパンのバラード第4番。
いかがだろうか。
この2つの演奏を画面を見ずに聴き、どちらの演奏がプロか当ててもらったら、クラシック音楽によほど精通した人でない限り、十中八九間違えるのではないか?
もちろん、巨匠ポリーニを貶したいわけでは毛頭ない。
演奏の好みを言うのと違い、演奏者の優劣を決めるのは、世代など一定の条件をそろえて比較するのでない場合、ときにきわめて困難だということ。
また、クラシック音楽におけるプロとアマチュアの実力差が、一般に考えられているよりも、ときにずっと小さいということ。
こういったことを如実に表す、面白い例だと思うのである。
ただしこれは、プロもアマチュアも、クラシック音楽家はみな同じくらいの実力である、ということを意味しない。
クラシック音楽は、一定の条件をそろえて比較した場合、同業者間の実力の個人差が最も大きいジャンルの一つだと思う。
こんなにうまい人がいるのかと思っても、さらにその上が多数いる。
しかし、その果てしないまでの実力差の割には、プロかアマチュアかの運命決定に際して、その実力差の寄与するところが小さい、ということなのだろう。
他のジャンルとまったく同様に、他の要素(金、運、コネ、ルックス等)がそれなりのウェイトを占めている。
こういった他の要素も含めて才能だ、と言う人さえいるほど。
厳しい世界である。
なお、このクイズ、全員が間違えたということは、きっとこの番組はヤラセではないということなのだろう。
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