英国ロイヤル・オペラ・ハウス 2017/18シネマシーズン
ビゼー「カルメン」
【上映期間】
2018年5月11日(金)~5月17日(木)
【演奏・スタッフ】
作曲:ジョルジュ・ビゼー
演出:バリー・コスキー
指揮:ヤクブ・フルシャ
管弦楽:コヴェントガーデン王立歌劇場管弦楽団
出演
カルメン:アンナ・ゴリャチョーヴァ
ドン・ホセ:フランチェスコ・メリ
エスカミーリョ:コスタス・スモリギナス
ミカエラ:クリスティナ・ムヒタリアン
他
上演時間:3時間52分
ロイヤル・オペラの映画を観に行った。
オペラの映画上映としては、ニューヨークのメトロポリタン歌劇場の「METライブビューイング」が有名だけれど、ロンドンのロイヤル・オペラも実は同じようなことをやっている。
私はこれまで観に行ったことがなかったけれど、今回好きな指揮者のヤクブ・フルシャが演奏するということで、行ってきた。
ビゼー作曲のオペラ、「カルメン」。
この曲で私の好きな録音は、
●C.クライバー指揮ウィーン・フィル 1978年12月9日ウィーンライヴ盤(Blu-ray)
●レヴァイン指揮メトロポリタン歌劇場管 1987年2月ニューヨークライヴ盤(DVD)
●ネゼ=セガン指揮メトロポリタン歌劇場管 2010年1月ニューヨークライヴ盤(Blu-ray)
あたりである。
勢いのあるクライバー盤、ゴージャスなレヴァイン盤、緻密でスタイリッシュなネゼ=セガン盤。
そして、今回のフルシャ。
彼の音楽性は、「カルメン」には合わないのではないかと心配もしたけれど、聴いてみるとそんなことはなかった。
カルメンの強烈さをことさらに強調しない、上品な解釈である。
「カルメン」が苦手な人にこそ、むしろお勧めできるかもしれない。
第1幕の子供たちの合唱における、フルートのオブリガートの美しい扱い。
兵士たちと女工たちの合唱での、ゆったりとしたテンポによる豊かな情感の表現。
こんなに美しかっただろうか、と思う箇所がいくつもあった。
有名な第3幕への間奏曲も、メロディの呼吸の取り方が絶妙だった。
こうしたゴリゴリしない「カルメン」も、なかなか良い。
歌手は、これぞというほどのすごい人(例えば上記ネゼ=セガン盤におけるガランチャのような)はいないけれど、逆に全然駄目という人もおらず、穴のないキャスティングだった。
演出は、これから観る方もいるだろうからあまり詳しくは書かないけれど、上記3盤に比べ抽象的なものだった。
1920年代のブエノスアイレスや、1930年代のベルリンをイメージしたとのことだが、観ていてもあまりよく分からない。
カルメンの登場シーンなど、「なぜこうなるのか」と訝る箇所もあった。
ただ、強烈すぎて音楽より前に出てしまう演出というわけではなく、比較的シンプルなものだったのは良かった。
なお、「カルメン」にはブルックナーの交響曲よりもさらに複雑な版問題がある。
台詞で物語を進めていくオペラ・コミーク版と、ビゼーの死後にギローが台詞にレシタティフを作曲したグランド・オペラ版とがあって、例えば上記のクライバー盤はおそらく前者に、ネゼ=セガン盤はおそらく後者に基づいている。
ただ、これらにはカットされた部分が多いため、前者はアルコア社から、後者はシューダンス社から、それぞれ新たに校訂された版があるという。
上記レヴァイン盤は、台詞が多いのでおそらくアルコア社版に基づいているのだろう。
今回のフルシャの演奏では、第1幕のミカエラ登場後のちょっとしたシーンや、ハバネラの後のアリアが復活されており、これらはシューダンス社新校訂版に特徴的であるため、おそらくこの版が用いられているものと思われる。
ただし、レシタティフはなくて、代わりにナレーションによって物語が進行していた。
新校訂版とはいえ上記の通りレシタティフはギロー作曲のものなので、割愛したのかもしれない。
このナレーション自体の正統性はよく分からないけれども。
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