(アレクサンドル・メルニコフの新譜 Four Pianos, Four Pieces) | 音と言葉と音楽家  ~クラシック音楽コンサート鑑賞記 in 関西~

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クラシック音楽の鑑賞日記や雑記です。
“たまにしか書かないけど日記”というタイトルでしたが、最近毎日のように書いているので変更しました。
敬愛する音楽評論家ロベルト・シューマン、ヴィルヘルム・フルトヴェングラー、吉田秀和の著作や翻訳に因んで名付けています。

今回は演奏会の感想でなく、別の話題を。

好きなピアニスト、アレクサンドル・メルニコフの新譜が、最近発売された(NMLApple MusicCD)。

シューベルト、ショパン、リスト、ストラヴィンスキーという4人の作曲家の、技巧的にとりわけ難しい作品を、それぞれ4種類のピアノを弾き分けて録音するという、マニアックな彼らしい企画である。

詳細は下記を参照されたい。

 

 

 

 

 

メルニコフが難曲4篇を4種のピアノで弾き分けた!

何ごとにも深いこだわりを見せるメルニコフが、ピアノの機能を最大に発揮した難曲4篇を、4種の楽器で演奏・録音することにチャレンジしました。
 メルニコフによれば、作曲者が意図したことはふさわしい楽器を用いなければ忠実に再現できないとのこと。そのためには、作曲者が使っていたピアノ、もしくはその時代に周囲にあったものということで4つの楽器、グラーフのフォルテピアノ、色彩豊かなエラール、深みのあるベーゼンドルファー、華麗なスタインウェイを弾き分けています。
 どれもメルニコフならではの個性的解釈で面白さの極みですが、ショパンの練習曲が真骨頂。意外なほど思い入れのない「別れの曲」、七色にきらめく「黒鍵」と第1曲、凄みに満ちた「革命」まで一瞬も聴き手を飽きさせません。
 またかつてソ連でネイガウスが「ミスなく弾けるのはギンスブルクだけ」と言った恐るべきリストの『ドン・ジョヴァンニの回想』(オリジナル版)の凄まじい技巧は師リヒテルを彷彿させる大きさ。これも金縛りにあったように動けなくなる演奏です。
 さらに凄いのはストラヴィンスキー。スタインウェイがうなりをあげる効果と、やはりロシア物はさすがの説得力。ピアノがメーカーによってこんなにも異なる楽器なのかと実感させてくれます。(写真c Julien Mignot)(輸入元情報)

【収録情報】
● シューベルト:さすらい人幻想曲(グラーフ・フォルテピアノ使用)
● ショパン:12の練習曲 Op.10(エラール使用)
● リスト:ドン・ジョヴァンニの回想(ベーゼンドルファー使用)
● ストラヴィンスキー:ペトルーシュカからの3楽章(スタインウェイ使用)


 アレクサンドル・メルニコフ(ピアノ)

 録音時期:2016年10月、2017年5月、7月
 録音場所:ベルリン、テルデックス・スタジオ
 録音方式:ステレオ(デジタル/セッション)

 

 

 

 

 

なお、上記はHMVのサイトより引用した(引用元のページはこちら)。

 

 

聴いてみての感想は、シューベルトは最高の演奏、それ以外はまずまず、といったところ。

シューベルトのピアノ曲は、フォルテピアノ(ピアノの古楽器)が必ずしも合うとは私は思わないのだが、この「さすらい人幻想曲」については、フォルテピアノの音色が合っているように感じた。

フォルテピアノならではの軽い音のおかげで、重厚な和音を弾いても重くなりすぎず、ウィーンの鄙びた味わいが出ている。

そして、メルニコフは快速テンポと明瞭なアーティキュレーションによって、この曲にふさわしい躍動感を生み出す。

さらに、彼ならではの細部の表現へのこだわりも随所に光っている。

それでいて、やりすぎにならない。

私の中で、この曲の最も好きな演奏の一つとなった。

 

 

それに対し、ショパン、リスト、ストラヴィンスキーは、どちらかというと全体にややまったりとした、おとなしめの演奏となっている。

これはこれで良いのだが、せっかくの難曲中の難曲なのだから、もっとぐいぐい攻めてほしかったような気もしないでもない。

あるいは、これらの曲は、彼ほどのテクニシャンであっても難しいということだろうか。

また、彼ならではの細部の工夫は健在なのだが、それがちょっと行き過ぎのように感じられる場合がある。

例えば、ショパンのop.10-2など、フレーズが進むにつれてテンポが遅くなって、フレーズが変わると急に速いテンポに戻って、を繰り返すのだが、これも工夫の一環なのか、それとも弾けなくてこうなってしまっているのか、よく分からなくなる。

もう少し安定したテンポで弾いてくれると、安心して聴けるのだが。

ストラヴィンスキーの「ペトルーシュカ」も、「なるほどここを強調するのか」とところどころ感心するのだが、その分もったいつけたような表現になることも多く、やっぱりストラヴィンスキーの演奏はからっとストレートに進んでほしい、とも思ってしまう。

そして、リストの「ドン・ジョヴァンニの回想」、これはもう相当な難曲だから仕方ないのかもしれないけれど、最後の「シャンパンの歌」の部分はかなり遅めのテンポの演奏になっている。

この曲はガンガンとこけおどしのように大味に奏されることも少なくなく、その意味ではメルニコフのように細部にこだわった丁寧なやり方はとても良心的とは思う。

思うのだが、それでもここまで遅いと、ドン・ジョヴァンニらしい「悪魔的な快活さ」が引っ込んでしまう。

十分に速いテンポでありながらも細部のコントロールの緻密な、ダニエル・シューのような演奏を期待したのだが。

 

 

と、期待が高かった分、つい不平を並べてしまったが、これは贅沢な次元での話。

細かいことを言わなければ、十分に良い演奏だと思う。

ショパンではエラールのピアノが使用されており、例えば横山幸雄が弾いたプレイエルのピアノによる同曲録音と音色を比較することもできる(横山幸雄盤についてはこちら)。

ちなみに、横山幸雄はペダルを多用しているのに対し、メルニコフのほうはペダルが少なめではきはきしている、という違いもある(演奏自体の出来は同程度と思われる)。

はきはきしたop.10-3「別れの曲」やop.10-6は、普段とは違った味があるし、はきはきしながらも十分に情熱的なop.10-12「革命」は、かなりの名演となっている。

リストも、ベーゼンドルファーのピアノで奏されると、どこか鄙びた味わいが出る(そういう意味では、上述のようなまったりとした「シャンパンの歌」もありなのかもしれない)。

入手して損のない一枚だと思う。

 

 


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