新国立劇場 東京交響楽団 コールマン 細川俊夫 「松風」 (日本初演) | 音と言葉と音楽家  ~クラシック音楽コンサート鑑賞記 in 関西~

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クラシック音楽の鑑賞日記や雑記です。
“たまにしか書かないけど日記”というタイトルでしたが、最近毎日のように書いているので変更しました。
敬愛する音楽評論家ロベルト・シューマン、ヴィルヘルム・フルトヴェングラー、吉田秀和の著作や翻訳に因んで名付けています。

松風 [新制作・日本初演]

 

【日時】
2018年2月18日(日) 開演 15:00

 

【会場】

新国立劇場 オペラパレス (東京)

 

【スタッフ&キャスト】
指揮:デヴィッド・ロバート・コールマン

演出・振付:サシャ・ヴァルツ

美術:ピア・マイヤー=シュリーヴァー、塩田千春

衣裳:クリスティーネ・ビルクレ

照明:マルティン・ハウク

ドラマツルグ:イルカ・ザイフェルト

 

松風:イルゼ・エーレンス

村雨:シャルロッテ・ヘッレカント

旅の僧:グリゴリー・シュカルパ

須磨の浦人:萩原 潤

 

音楽補:冨平恭平

ヴォーカル・アンサンブル:新国立劇場合唱団

管弦楽:東京交響楽団

ダンス:サシャ・ヴァルツ&ゲスツ

 

【プログラム】

細川俊夫:「松風」

 

 

 

 

 

細川俊夫のオペラ「松風」日本初演を聴きに行った。

平安時代、在原行平が都から兵庫の須磨に流された際の、同地の姉妹(名は松風・村雨)との恋物語の伝説は、その他「源氏物語」などの影響も受けながら、室町時代に観阿弥・世阿弥によって謡曲「松風」として製作された。

この伝説は御伽草子にもなり、また江戸時代には浄瑠璃に、大正・昭和時代には映画にもなって、時代が下っても人々に親しまれてきたという。

ちなみに、百人一首にも含まれている、「古今和歌集」収録の「立ち別れ いなばの山の 峰に生ふる まつとし聞かば いま帰り来む」の歌は、行平が都に戻り姉妹と離別する際に詠んだものとされている(この歌はオペラにも登場する)。

今回の細川俊夫のオペラは、この伝説に基づいている。

あらすじは、下記のとおり。

 

 

【海】秋の夕暮、旅の僧が須磨の浦を訪れる。僧は、松風・村雨という女の名と詩が記された札の付いた一本の松に目を留める。土地の者にいわれを尋ねると、数百年前、松風・村雨という名の貧しい汐汲み女の姉妹が在原行平を愛したが、帰京した行平がほどなく没し、姉妹の思いは成就しなかったのだという。僧は読経して松を弔う。

【汐】浜の小屋で夜を明かそうと小屋の主を待つうち、汐汲み女の姉妹が現れる。姉妹は汐汲みの仕事と行平への思いに憑かれながら、月明かりの下で汐を汲む。

【暮】僧が宿泊を願い出ると姉妹ははじめ断るが、相手が僧と知って承諾する。一陣の風が吹き、行平の詩を思い起こさせる。気の昂ぶった姉妹は涙ながらに、3年間共に暮らした後、都へ召喚されてすぐ突然亡くなった恋人へ寄せる思慕の念を語る。僧は目の前の二人こそ松風・村雨の霊だと気付く。二人は僧に、魂の平安を祈って欲しいと請い願う。

【舞】松風は行平の形見の狩衣と烏帽子を身につけ恋心を募らせ、浜の松の木を行平と見違え、ついに半狂乱となる。姉妹の叫びが風雨と共に響く。

【暁】僧が目を覚ますと、小屋も姉妹も姿を消しており、ただ松を渡る風だけが残るのだった。

 

 

なお、上記は新国立劇場のサイトより引用した(引用元のページはこちら)。

 

 

細川俊夫というと、武満徹の後、現代の日本の作曲界において、第一人者といっていいだろう。

私は、近年のクラシック音楽の作曲理論については、少しも知識がない。

けれど、ブライアン・ファーニホウに師事したという彼の曲を聴いていると、なるほど確かにファーニホウの音楽の「ミシミシ、ギシギシ」したようなところは、受け継がれている気がする(表現が稚拙で申し訳ないが)。

ただ、細川俊夫の場合、「ミシミシ、ギシギシ」ではありながらも、ファーニホウやその後のいわゆる「ポスト・ファーニホウ」の人たちのようにひたすら乾いた音楽が続くというよりは、むしろ全体的にどこか柔らかで神秘的な響きに包まれるような感じがある。

また、細川俊夫はしばしば「静寂」をきわめて大切に扱う。

こういった特徴により、彼の音楽からはどことなく「和」の精神が感じられるのである。

これは、私の勝手な感想であり、理論に基づいたものではないけれど、それでも彼の「遠景」や「ランドスケープ」のシリーズなど聴いていると、そのように思える。

その意味で、彼の音楽は武満徹に通ずるところがなきにしもあらず、と私は考えている(武満徹のような、聴きやすい新ロマン主義的なメロディは聴かれないにしても)。

 

 

そんな彼のオペラ「松風」は、今回初めて聴いたが、上述のような彼の音楽の特徴がよく表れた曲だと思った。

水や風の音を効果的に挟み込みながら、弦楽器の超高音や超低音、また小さな鐘のような楽器なども駆使して、彼はこの古い伝説に、神秘的・幻想的な音楽をつけていく。

そして歌も、松風・村雨の姉妹が上から降りてくる登場シーンの二重唱など、不思議な音楽ながら何とも哀しげで、姉妹の悲哀を美しく表現していた。

 

 

このオペラには、すじと直接は関係しない、イメージ的な舞踊が作品を通して行われるのだが、その不思議な踊りも曲の雰囲気によく合っていた。

全体に、21世紀のオペラの傑作の一つに数えていいかもしれない、個性的で魅力的な作品だったように思う。

 

 


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