(トリフォノフの新譜 ショパン ピアノ協奏曲集) | 音と言葉と音楽家  ~クラシック音楽コンサート鑑賞記 in 関西~

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クラシック音楽の鑑賞日記や雑記です。
“たまにしか書かないけど日記”というタイトルでしたが、最近毎日のように書いているので変更しました。
敬愛する音楽評論家ロベルト・シューマン、ヴィルヘルム・フルトヴェングラー、吉田秀和の著作や翻訳に因んで名付けています。

今回は演奏会の感想でなく、別の話題を。

前回の記事で、ドイツ・グラモフォン創立120周年のピアノ・マスターズ・シリーズの一環である、チョ・ソンジンのドビュッシーの新譜を取り上げた。

せっかくなので、今回も同じくピアノ・マスターズ・シリーズの、別の新譜(発売されて少し経っているけれど)を取り上げたい。

ダニール・トリフォノフの弾く、ショパンのピアノ協奏曲集である(NMLApple MusicCD)。

詳細は下記を参照されたい。

 

 

 

 

 

往年の巨匠の風格を漂わせる若きヴィルトゥオーソの磨きぬかれたショパン

「若手ナンバー・ワンの実力!」スター・ピアニスト/作曲家であるトリフォノフは2010年混戦のショパン・コンクール第3位入賞で国際舞台に踊り出し、翌年ルービンシュタイン・コンクール優勝&チャイコフスキー・コンクール優勝&グランプリでその地位を不動にしました。テクニックと音楽性において、そして個性の輝きにおいて、突出した存在感を示しています。
 「ピアノ表現の地平に革命を起こしたショパンの作品」ショパンの2曲のピアノ協奏曲に加え、ソロ作品と、モンポウ、シューマン、チャイコフスキー、グリーグ、バーバーによるショパンへのオマージュといえる作品を収録。選曲のセンスも並ではありません。
 「鬼才×鬼才」コンポーザー・ピアニストの鬼才、プレトニョフのオーケストレーションによる協奏曲の初録音で、指揮もプレトニョフが担当しています。なんと魅力的な強力タッグでしょう!
 「師との共演」『2台のピアノのためのロンド』では師であるババヤンと共演しています。(輸入元情報)

【収録情報】
Disc1

1. ショパン:ピアノ協奏曲第2番ヘ短調 op.21
2. ショパン:『お手をどうぞ』による変奏曲 op.2(ピアノ独奏版)
3. シューマン:『ショパン』(謝肉祭 op.9の第12曲)
4. グリーグ:練習曲 op.73-5『ショパンへのオマージュ』
5. バーバー:夜想曲 op.33
6. チャイコフスキー:ショパン風に(18の小品 op.72より)

Disc2
7. ショパン:2台のピアノのためのロンド ハ長調 op.73
8. ショパン:ピアノ協奏曲第1番ホ短調 op.11
9. モンポウ:ショパンの主題による変奏曲
10. ショパン:幻想即興曲 嬰ハ短調 op.66

 ダニール・トリフォノフ(ピアノ)
 セルゲイ・ババヤン(ピアノ:7)
 マーラー室内管弦楽団(1,8)
 ミハイル・プレトニョフ(指揮:1,8)

 録音時期:2017年4-5月(1,8,10)、2016年7月(7)、2017年4月(2-6,9)
 録音場所:ドルトムント、コンツェルトハウス(1,8,10)、ハンブルク(2-6,9)、他
 録音方式:ステレオ(デジタル/セッション)

 

 

 

 

 

なお、上記はHMVのサイトより引用した(引用元のページはこちら)。

 

 

このアルバムには、上記引用文の通り、ショパンのピアノ協奏曲第1、2番と、あとショパンにまつわるさまざまな小品が収録されている。

このうち、協奏曲第1番は、彼は2010年のショパンコンクールのファイナルで弾いている。

この年のショパンコンクールに参加したピアニストのうち、私がこの上なく気に入ったのがクレア・フアンチであることは、このブログでもいやというほど書いてきた。

この年にフアンチに次いで好きになったのが、トリフォノフである。

このとき彼が弾いた協奏曲第1番のライヴCDを持っているが、ところどころタッチが荒削りなのが惜しいものの、ファツィオリのピアノをよく活かした音色が大変美しい。

このライヴ盤に比べて、今回の新盤はどうか。

 

 

昨日の記事でも少し書いたが、チョ・ソンジンの弾いたショパンのピアノ協奏曲第1番のCDは、ドイツ・グラモフォンによる録音の音質がいまいちであり、ショパンコンクールのライヴ盤のほうがずっと良い。

それに対し、トリフォノフのほうはどういうわけか、同じドイツ・グラモフォンによる録音なのに、音質は悪くない。

彼らしい美しい音を聴くことができる。

セッション録音だけあって細部まで明瞭に聴こえるし、録り直しできるためか、上記のショパンコンクールライヴ盤のような荒削りなタッチもかなり改善されている。

例えば、第2楽章冒頭のピアノ・ソロでの右手のアルペッジョ(分散和音)がそっけなかったのが、やや丁寧になっている。

他にも、終楽章コーダでは、荒っぽい打撃的な音があったり、両手のユニゾンにムラがあったりしたのが、だいぶ滑らかになっている。

ただ、ライヴ盤で聴かれた、ファツィオリのあの美しくもさわやかな極上の音色が、この新盤でもそっくりそのまま聴かれるかというと、そうではなかった。

新盤では、甘美ではありながらも、やや落ち着いた、大人っぽい音になっている。

「青春」から「成熟」へと変化した、ということか。

 

 

また、ライヴ盤では若々しい、直線的な演奏だったのに対し、新盤ではより濃厚な解釈となっているのも、顕著な違いといえるだろう。

かつて、ツィマーマンの弾くショパンの協奏曲集の新盤が出たとき、なんと個性的な解釈なのだろうと驚かされたものである。

今回のトリフォノフは、ツィマーマン新盤ほど奇抜な解釈ではないけれど、全体的にゆっくりめのテンポで、ルバート(テンポの揺らし)も頻用しながら濃厚に歌い上げていく。

上記コンクールライヴ盤とは、だいぶ違っている。

 

 

コンクールライヴ盤と今回の新盤、どちらが良いかということになると、もはや好みの問題だろう。

完成度としては、今回の新盤のほうが高い。

しかし、私としては、多少荒削りではあっても、ライヴ盤の素直な解釈とファツィオリの美しい音色を採りたい。

 

 

協奏曲第2番のほうはライヴ盤がないため比較はできないけれど、演奏全体の印象としては第1番と同様である。

濃厚に熟した甘美さ、といったところ。

なお、これら2曲は、指揮者プレトニョフによるオーケストレーション改変版が用いられている。

ショパンのオーケストレーションは稚拙であるとよく言われるが、その改善のために手を加えたのかもしれない。

しかし、私としては原曲のオーケストレーションに特に不満を感じておらず、稚拙とも思わない。

オーケストラがピアノに比べて控えめなのは当時のロマン派協奏曲の常套の手法であって、ショパンの稚拙さのためではないと思う。

プレトニョフ改訂版は確かに色々と工夫がみられるが(例えば、第1番第1楽章第2主題や第2番冒頭主題がクラリネットになっている)、そのぶん音楽が豊かになったとはあまり思えない。

面白いといえば面白いけれど、私としては原曲が好きである。

 

 

その他、ショパンにまつわる曲がいくつか収録されているが、珍しいものもあってなかなか面白い。

他の作曲家が「ショパン風」に作った曲もいくつかあるが、その中ではやはりシューマン作曲の「ショパン」(「謝肉祭」の一曲)が、ショパンの特徴を最もよく押さえていて秀逸だと感じた。

トリフォノフの演奏だと、この曲はだいぶ「ショパン寄り」に聴こえる。

シューマンの「物まね上手」をよく体現した演奏である。

 

 


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