第15回ルービンシュタイン国際ピアノコンクールが終わって | 音と言葉と音楽家  ~クラシック音楽コンサート鑑賞記 in 関西~

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クラシック音楽の鑑賞日記や雑記です。
“たまにしか書かないけど日記”というタイトルでしたが、最近毎日のように書いているので変更しました。
敬愛する音楽評論家ロベルト・シューマン、ヴィルヘルム・フルトヴェングラー、吉田秀和の著作や翻訳に因んで名付けています。

イスラエルで開催された、第15回ルービンシュタイン国際ピアノコンクールが、終わった。

これまで、ネット配信を聴いて(こちらのサイト)感想を書いてきたが、とりわけ印象深かったピアニストについて、忘備録的に記載しておきたい。

ちなみに、これまでの記事はこちら。

 

1次予選 第1日 前半

1次予選 第1日 後半

1次予選 第2日

1次予選 第3日

1次予選 第4日

2次予選 第1日

2次予選 第2日

2次予選 第3日

ファイナルA 第1日

ファイナルA 第2日

ファイナルB

ファイナルC 第1日

ファイナルC 第2日

 

 

 

POON Tiffany (China Age: 20)

私の中では、今大会のMVP。

彼女が優勝すべきだった、とまで思っているわけではないが、彼女の音楽的センスとそれに見合った表現力は、もしかしたらClaire Huangci(クレア・フアンチ)に匹敵するほどのものなのではないか、と考えている。

2人とも、驚くほど情感豊かな演奏をするのだが、このようなセンスはどのようにしたら培われるのだろうか。

Huangciの演奏がややからっと陽気な性質を持っているのに対し、Poonのほうはよりしっとりとした、たおやかな情感を湛えている、という違いはあるけれども。

また、テクニック的な華麗さはHuangciのほうがあるだろう。

それでも、Poonが技巧的に弱いということはなく、パワフルとまではいかないまでも、たいていの曲に対応できるテクはありそう。

ハイドンのピアノ・ソナタ 第46番 変イ長調、ショパンのバラード 第1番、ラヴェルの「ラ・ヴァルス」、いずれも大変エモーショナルで細やかな表現の行き届いた名演。

 

CHEN Han (Taiwan Age: 25)

スマート系技巧派。

とてもうまい。

それでいて、リストにふさわしいような充実した力強い音、ヴィルトゥオーソ的感覚を持ち合わせている。

リストの「ドン・ジョヴァンニの回想」とピアノ・ソナタの演奏が印象的だった。

 

HUANG Ruoyu (China Age: 28)

表情豊かなヴィルトゥオーゾ・タイプで、このタイプにしては嫌らしさのない、比較的ナチュラルな表現が魅力。

ショパンの舟歌、プロコフィエフのピアノ・ソナタ 第8番 変ロ長調ともに好演だった。

 

PARK Jaehong (South Korea Age: 18)

今回ファイナリスト。

スマート系技巧派。

表現がやや淡白だが、とにかくうまい。

リストの「ダンテを読んで」、プロコフィエフのピアノ・ソナタ 第6番 イ長調、ショパンのスケルツォ 第4番、ラフマニノフのピアノ協奏曲 第3番 ニ短調が良かった。

 

LIU Xiaoyu (Canada Age: 19)

今回ファイナリスト。

こちらもスマート系技巧派。

音がやや軽め・硬めだが、とにかくうまい。

ラヴェルの「道化師の朝の歌」、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ 第21番 ハ長調「ワルトシュタイン」、カプースチンの変奏曲 op.41、リストの「スペイン狂詩曲」、フォーレのピアノ四重奏曲 第1番 ハ短調、ベートーヴェンのピアノ協奏曲 第2番 変ロ長調あたりが印象的。

 

KONG Qi (China Age: 23)

端正で真面目なタイプのピアニスト。

技巧的にもかなり優れており、打鍵にも余裕があって、よくコントロールされている。

モーツァルトの幻想曲 ニ短調 K.397、ショパンの幻想ポロネーズ、ラヴェルの「夜のガスパール」、いずれも好演。

 

YANG Xiaohui (China Age: 25)

音はやや細身だが、細部まで完成度の高い、かつ情感豊かな演奏が魅力。

モーツァルトのピアノ・ソナタ 第2番 ヘ長調 K.280、バルトークの「ハンガリー農民の歌による即興曲」、ラヴェルのソナチネ、ショパンの舟歌、いずれも良い。

 

YONTOV Yevgeny (Israel Age: 28)

今回ファイナリスト。

現代音楽が得意そうな、淡々としたタイプだが、かといってぶっきらぼうではなく、ほのかな情感がある。

ドビュッシーのエチュード(第1~6曲)、プロコフィエフのピアノ・ソナタ 第6番 イ長調、ブラームスのピアノ四重奏曲 第1番 ト短調あたりが印象に残っている。

 

ZHDANOV Denis (Ukraine Age: 28)

こちらも現代音楽が得意そうなすっきりタイプだが、上のYontovに比べるとロシア的な重厚さ、熱さも備えている。

ベートーヴェンのピアノ・ソナタ 第5番 ハ短調、リゲティのエチュード II-4やIII-16あたりが良い。

 

NEHRING Szymon (Poland Age: 21)

今回の優勝者。

スラヴ風の分厚く力強い音が魅力。

といっても、リヒテルとかルガンスキーとか、今回のモントリオールコンクールに出場していたKosminovのように、ロシア風の強靭かつ透明な深々とした音を出す「ラフマニノフ弾き」タイプとは、少し違う(あくまでタイプの話であり、彼のラフマニノフだってもちろん素晴らしい)。

それよりはやや小ぶりで、かつ少しだけ乾いた音で、もしかしたらベートーヴェンあたりに最も適性があるかもしれない。

少し粗さがあるが、細部を磨けばアンスネスのような正統派ピアニストになる可能性もありそう。

ベートーヴェンのピアノ協奏曲 第1番 ハ長調、ラフマニノフのピアノ協奏曲 第3番 ニ短調が特に印象的だった。

 

YANG Yuanfan (United Kingdom Age: 20)

スマート系技巧派。

かなりうまい。

リストの「BACHの主題による幻想曲とフーガ」がとりわけ印象に残った。

 

 

以上、気に入ったピアニストは30人中11人だった。

今回同時に開催されていたモントリオールコンクールよりはやや低い確率だが、ファイナルでのコンチェルト演奏の充実ぶりはむしろモントリオールよりも上の印象だった。

そして、何よりもTiffany Poonの素晴らしい演奏が聴けた。

彼女はYouTubeに自身の演奏動画をたくさん載せているが、その中にはやはり素晴らしいものも少なくない。

 

例えば、バッハのフランス組曲 第5番。

 

 

あるいは、ショパンのノクターン 嬰ハ短調(遺作)。

 

 

とても美しい演奏だと思う。

リストの「ラ・カンパネラ」も、マルク=アンドレ・アムランのような無機的で硬質な美しさのある演奏が本来好きなのだが、Poonのような抒情的な演奏もなかなか良い。

 

 

彼女には今後もぜひ活躍してほしいものである。

 

また、今回のコンクールで個人的に、ハイドンのピアノ・ソナタ 第46番 変イ長調という曲の素晴らしさを知ることができた。

今回のルービンシュタインコンクールのコンテスタントではPoonとYontovが同曲を弾いたし、同時開催されたモントリオールコンクールでもGouinが弾いて、それぞれ三者三様の素晴らしい演奏を聴かせてくれ、この曲がすっかり好きになった。

中でも特に素晴らしい演奏が、やはりPoon。

からっと乾いたイメージのあったハイドンが、まるでモーツァルトのようにしっとりとした情感をもって奏されていて、モーツァルト好きの私には大変印象的だった(ハイドンファンの方々にとっては邪道?)。

 

そんな彼女のハイドンはこちら。

 

 

もうこの際なので、今回のコンクールで彼女が弾いた別の2曲もリンクを貼っておく。

ショパンのバラード 第1番。

 

 

そして、ラヴェルの「ラ・ヴァルス」。

 

 

細部まで情感の行き届いた名演だと思うのだが、いかがだろうか。

 

 


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