兵庫芸術文化センター管弦楽団 第93回定演 アルミンク ブラームス 交響曲第3番 ほか | 音と言葉と音楽家  ~クラシック音楽コンサート鑑賞記 in 関西~

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クラシック音楽の鑑賞日記や雑記です。
“たまにしか書かないけど日記”というタイトルでしたが、最近毎日のように書いているので変更しました。
敬愛する音楽評論家ロベルト・シューマン、ヴィルヘルム・フルトヴェングラー、吉田秀和の著作や翻訳に因んで名付けています。

兵庫芸術文化センター管弦楽団 第93回定期演奏会

アルミンク&クンウー・パイク 華麗なる第3番
 

【日時】

2016年12月18日(日) 15:00開演

 

【会場】

兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール

 

【演奏】
指揮/クリスティアン・アルミンク
ピアノ/クンウー・パイク (白 建宇)
管弦楽/兵庫芸術文化センター管弦楽団

 

【プログラム】

ハイドン:交響曲 第70番 ニ長調 Hob.I:70
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲 第3番 ハ短調 op.37
ブラームス:交響曲 第3番 ヘ長調 op.90

 

※アンコール(ソリスト)

シューマン:ピアノ・ソナタ第1番嬰へ短調より 第2楽章

※アンコール(オーケストラ)

ブラームス(Parlow編):ハンガリー舞曲第5番ト短調

 

 

 

 

 

PAC(兵庫芸術文化センター管弦楽団)の定期演奏会。

今回の指揮者はクリスティアン・アルミンク、ソリストはピアニストのクンウー・パイクである。

クンウー・パイクのピアノを聴くのは初めてだが、派手はピアノではないがなかなかに味わい深く、テクニック的にも磐石で好印象だった。

アンコールに、シューマンのピアノ・ソナタの美しい緩徐楽章を持ってきたのも、なかなかニクい。

しかし、今回特に驚いたのは、アルミンクの指揮である。

アルミンクは、昨年(2015年)10月にも聴いた(このときのオーケストラは名古屋フィル)。

そのときにはそこまで意識しなかったほどの素晴らしい才能を、今回感じたのだった。

最初のハイドンは都合により聴けなかったのだが、次のベートーヴェンの伴奏からして、いつものPACとは違う(PACは普段から素晴らしいのではあるが)。

音楽の表情が生き生きしているし、音色もみずみずしく美しいのである。

特に弦楽器は、すっきりと透明感のある美しい音で、聴き手を魅了する。

もちろん、管楽器だってうまく調和して美しい。

また、ティンパニも硬めの良い音色で、要所要所で音楽をぐっと引き締める。

何ともすっきりと充実したベートーヴェンになっているのである。

オーケストラから普段よりもすごい音を引き出すという点では、先日聴いたフルシャとも共通している。

ただ、フルシャがどこまでも自然なスタイルなのに対し、アルミンクの場合はおそらく意識的にクレッシェンドなどの表情付けを強調しており、工夫に満ちたスタイルになっている。

前述のように、去年の秋に名古屋フィルを指揮するのを聴いたとき、ベルクのヴァイオリン協奏曲で、第2楽章後半のバッハのコラール主題が現れるとき、なんと美しい木管のアンサンブルかと感銘を受けたのをよく覚えている。

そのときは、名古屋フィルってうまいんだなぁ!と思ったのだが、もちろんそれもあるだろうが、今思うとアルミンクの手腕も多々あったことだろう。

 

同じことが、メイン・プロのブラームスにも言える。

ブラームスの第3番というと、今年の5月にデュメイ指揮、関フィルの演奏で聴いた。

このときはデュメイの「濃ゆい」表情付けに苦笑しながらも、前述のアルミンク&名古屋フィルで聴いたブラームス第4番に比べ、大きな感銘を受けたのだった。

私の中で、アルミンクのあまりにもすっきりとしたスタイルが、ブラームスのあるべきイメージにそぐわなかったのだった。

しかし、である。

今回第3番を聴いてみると、やっぱり素晴らしいのである。

確かに、すっきりとしたスタイルは変わりがないし、私の中でブラームスは、もっと重厚でずっしりとした味わいがほしいと思ってしまうのも、やはり同じである(そういう意味では、先月聴いたシモーネ・ヤングのブラームスなどは、私の理想のブラームス像に近かった)。

しかし、このすっきりとしたブラームス、あまりに美しいのである。

いつも以上に美しいオーケストラ、そして例えばクラリネットの何気ないひとくさりが、繰り返しのときには繊細なピアニッシモにされ、はっとさせられたり、第2楽章でクラリネットのメロディの合いの手としてチェロが応答する短いパッセージが、これ見よがしにふくらまされはしないのに柔らかく豊かで、心に残ったりする。

本当に全編、美しいのである。

今や言わなければならないだろう、デュメイの第3番よりも、大きな感銘を受けたことを。

私は、素晴らしい演奏であっても、その曲における自分の中での理想像と異なる場合、感銘を受けないことがこれまで多かったし、私はそういう聴き方をするタイプなんだと思う。

しかし、圧倒的に素晴らしい演奏の前では、自分の中での理想像など問題にならない、そういう体験を今回することとなった。

一つには、去年・今年と意識的に多くの演奏会を聴いたのだったが、そうすることで、前回の名古屋フィルのときよりも、実演における鑑賞力が付いてきた、というのもあるかもしれない。

そうだとすると、嬉しいことである。

 

アンコールのハンガリー舞曲第5番、耳タコの超有名曲だが、これでさえすっきりと美しい名演であった。

アルミンク、さすがである。

聴く前は、アルミンクのブラームスは聴きに行かなくていいかな、とも一瞬思ったのだったが、今思うとそれは大きな間違いであり、聴きに来て本当に良かった。

今後も、彼のコンサートはぜひ聴きに行きたい。