関西フィルハーモニー管弦楽団 第276回定期演奏会 飯守泰次郎 「トリスタンとイゾルデ」第3幕 | 音と言葉と音楽家  ~クラシック音楽コンサート鑑賞記 in 関西~

音と言葉と音楽家  ~クラシック音楽コンサート鑑賞記 in 関西~

クラシック音楽の鑑賞日記や雑記です。
“たまにしか書かないけど日記”というタイトルでしたが、最近毎日のように書いているので変更しました。
敬愛する音楽評論家ロベルト・シューマン、ヴィルヘルム・フルトヴェングラー、吉田秀和の著作や翻訳に因んで名付けています。

関西フィルハーモニー管弦楽団 第276回定期演奏会


【日時】

2016年7月15日(金) 19:00開演


【会場】

ザ・シンフォニーホール


【出演】

指揮:飯守泰次郎

独唱:テノール/二塚直紀(トリスタン) ソプラノ/畑田弘美(イゾルデ) バス・バリトン/片桐直樹(マルケ王) メゾ・ソプラノ/福原寿美枝(ブランゲーネ) バリトン/萩原寛明(クルヴェナール) テノール/松原友(メーロト) テノール/谷浩一郎(牧童)


【曲目】

ワーグナー:楽劇「トリスタンとイゾルデ」第3幕






関西フィルの定期演奏会で、ワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」第3幕の演奏会形式である。

このような演奏会形式でのオペラの取り組みを、飯守&関西フィルは年1回の頻度でもう10年ほども続けているそうな。

素晴らしい取り組みだと思う。

そして、私にとっては今回は、生演奏で聴くワーグナーとしては2回目の体験だった。

1回目は今年春のびわ湖ホールでの「さまよえるオランダ人」だったが、これは演出はなかなか面白かったものの、演奏のほうは比較的淡白なスタイルだったのと、聴くほうの私がもともと疲れていたのとで、あまり楽しむことができなかった。

しかし、今回は本当に感動してしまった。

演奏自体には、不満は色々あった。

クルヴェナールは声量が小さくてあまりよく聴こえなかったし、牧童の哀しげな笛のメロディが歓喜のそれに変わる際にけっこうミスがあったし、最後の山場「イゾルデの愛の死」でイゾルデの歌とオーケストラがずれて危うかったし、クライマックスの絶頂での音量が控えめだったし(ただここは、大オーケストラがイゾルデの歌をかき消さないようにするためという目的もあるだろう)、等々。

こういったことが気になって感動できない、というのは私にはよくあるのだが、今回は不思議なことに、このような欠点はまったく些細なことに感じた。

何よりも、ワーグナーの圧倒的に偉大な音楽!

第3幕だけでもなかなか長大だが、最初から最後まで全く集中が途切れることなく聴き通した。

イングリッシュホルンの哀しい調べ、トリスタンの絶望的なモノローグ、クルヴェナールの誠実、寛大な王マルケの苦悩、いずれも本当に感動的である。

そして最後にイゾルデの愛の死にさしかかる部分、ここは転調の妙に思わず鳥肌が立ったし、そこから恍惚のフィナーレになだれこんでいく恐るべき数分間には涙が出るほど感動してしまった。

彼は第3幕を書き上げた際、「リヒャルト、お前は悪魔の申し子だ!」と思わず叫んだと伝えられているが、全くその通りだと思う。

この音楽を生演奏で聴くことは、音の広がりといい生々しさといい、録音で聴くのとは全く違った充実感があるということを強く実感した。

この格別の音楽を生で演奏してくれるということに、心から感謝するほかなかった。

飯守の演奏は、前述のような不満はあったものの、縦の線を気にしてこぢんまりまとめてしまうことなく、ゆったりとした音楽づくりで、かつやりすぎることなく、大音量でこけおどしをするわけでもなく、誠実に音楽を進めていくといった印象で、伝説的な巨匠とはいわないまでも、プログラムにもあったようにまさに「カペルマイスター」の名に恥じない演奏だと思った。


今年の秋には、ウィーン国立歌劇場とドレスデン国立歌劇場が来日し、それぞれワーグナーを上演する。

今回のコンサートのおかげで、今からとても楽しみになった。