ウチの妹は20代の頃、それはそれはモテていた。
姉の欲目が入っているだろうが元々愛くるしい顔立ちをしている。
短大卒業後に上京し、IT系の派遣社員としてあちこちの会社に半年くらいずつ出向していた。
20代のおぼこい田舎出の、しかも家を背負わない次女の派遣ちゃんとなれば「嫁候補」としては申し分ないだろう。
さらに妹は素晴らしい聞き上手なのだ。
私なら秒速でツッコんで瓦解させるだろうオヤジギャグ。
私なら爆睡間違いなしの、男の見栄が詰まったつまらない話。
それらにもニコニコして頷いてくれる楚々とした若い女性がモテないわけがない。
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だが妹自身は社交的な性格ではない。またそっちに敏い方でもないので、当時の話を聞く限り男達からの秋波は全て妹には「親切」の一言で括られていたようだ。
離れて暮らしてはいたものの同じ首都圏にいた私はよく妹と会っており、その度に「絶対にソレ誘われてるって〜!!」と腹を抱えて笑ったものだ。
同時にもちろん心配でもあった。
この世に2人きりの姉妹である。父母からも念入りに頼まれていた。私は万が一のことがないよう会う度に口を酸っぱくして注意を促した。
何かがあったれば、いつ何時であろうと包丁を持ち、タクシーを飛ばして駆けつけ、相手の男の喉元に切っ先を当てて我が妹への誠意と覚悟を問い正さねばならぬと、夜な夜な砥ぎ石と向き合っていた(真顔)。
その鬼気迫る姉の念が悪い虫を払ったかどうかは知らないが、妹は良い見合い相手と出会い、今は夫婦仲良く暮らしている。
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聞けども尽きぬ身辺の男性の話をしていた頃「何でそんなにモテるのか」的なことを妹に尋ねた。
すると彼女自身が「どうも聞き上手すぎるらしい」と漏らしたのだ。「それでみんな嬉しくなっちゃうんだって」と。
なるほどね、と納得する私に妹は恨めしげな視線を向けて「元はお姉ちゃんのせいだよ」と言った。
妹いわく「物心ついてから10年以上お姉ちゃんといたら、誰だって聞き上手になっちゃうよ」
何だ?その聞き捨てならない発言は?
という思いが顔に出たのだろう。妹は溜息をついた。
「だってお姉ちゃん、喋るの好きでしょ?」
それはまあ、そうだが……。
「私、お姉ちゃんの話を昔から全部理解できてたわけじゃないんだよ? だけどお姉ちゃん、いつも私が口挟む間も無く喋り続けるからさぁ…。小さい頃から、わからなくてもとりあえず頷いて聞くのが身に沁みついちゃって…」
恥ずかしながら、
思い当たる節は山程ある。
このブログが良い意味でなく安定の長文なのも、口頭なら相手が誰だろうとこれくらいは喋り倒す性質だからだ。
以前にも書いたが私の辞書に「人見知り」の文字はない。ましてや妹が相手となればその日の楽しかったことから悔しかったことまで、思いつくままに喋っていたことは想像に難くない。
それは……すまなかったねぇ。
と反省する私に妹は破顔した。
「まあ、それでこそお姉ちゃんだからいいんだけどさ」
そして釘も刺してくれた。
「もう少し簡潔に話す練習はした方がいいよ?」
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それから10年以上の月日が経ち、私も結婚し、仕事でも揉まれて「簡潔に話す訓練」は積んできたつもりだった。
しかしつい先日、故郷の父と電話で近況を話した時、切り際に言われた。
「それにしてもお前、もう少し話を短くした方がいいぞ」
齢80歳が近づく父の耳が元気なのは喜ばしいことだが、その貴重な聴覚をウンザリさせたかと思うと申し訳ない。
かなり努力はしているつもりなのだが……。このブログだってよっぽどの時以外、一度書いてから推敲して1/3は削っているのだが……。
(しばし黙考)
ま、大は小を兼ねるってことで……
ゴニョゴニョ。
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ひとつ、懺悔はしておこう。
45歳を越え「そろそろ名実共に“おばさん”だな」と考えた時、
実は私はニヤリとほくそ笑んだのだ。
これで電車の中「もう少し席を詰めてくれませんか?座りたいので」と、私にとっては十数年前から当然の提案をしても、
多少ユルい服装で近所を出歩いても、
ましてやちょっとくらい長話をしても、
その行動はもう「あの人、何? 変じゃない?」と私個人に帰す確率が少ないのだ!!!
だって“おばさん”だから(笑)!!
しょうがないじゃない!
ありがとう、社会の規範!
ありがとう、根強い偏見!
やっとそれを逆手にとって生きてゆける!
……もちろん、だからといって
・すすんでズボラにはなりません。
・人の気持ちを今迄以上に考えて、それでも言うべきと思った時のみ行動します。
・簡潔に話す術の努力は怠りません。
しかし「おばさんになったこれからの人生、きっとラクだわ〜」と思ったのは、
そして今でもベースとしてそう思っているのは事実である。
私は無宗教なので軽々しくその言葉を使ってはいけないのだろうが、懺悔をする。
神よ、なにとぞ
この愚かなほどに自由を渇望する
ひとりの傲慢な女を赦したまえ。