電話がけたたましく鳴った。
「ジョージ、なにしてるんだ!もう下にいるよ!」
寝ぼけて時計を見る。時刻は4:12AM。
状況を把握しきれない。
「え?」
「下にいるから、早く降りてきて」
「う?うん。降りるね。」
トニーにせっつかれて状況を確認する。前日、エイミー達と共にJakarta Java Jazz Festivalに一日いたため、かなり疲れてシャワーも浴びずに寝てしまった。パッキングはまだだし、PCや着替えや脱いだ服はだらしなく部屋のあちこちに転がっている。
昨夜の最後、トニーとの最後の会話を思い出す。
「じゃ、ジョージ明日はセマランで演奏だから、4時にピックアップするね。おやすみ。」
細かいスケジュールは教えられてないので、16時にホテルを出て、夕方セマラン入りして夜遅くに演奏をするのか…と思い込み、アラームもかけずに寝た。そうして起きた現在、4:12AMにトニーがもう下に来てるということは、もしや早朝フライトでセマランに向かうのか…
ということは、オタオタしてると飛行機出ちゃうじゃないか!
やっべえぞ!
やっべえぞ!
と、高い声が脳内にこだまする。
ざっとスーツケースを開き、歯を磨きながら部屋のあちこちに散らばっているものをぶっこむ。他は忘れても財布、携帯、パスポートだけは最低限持っていかねば。
もう一度、部屋の電話が鳴る。トニーだということはわかっているが、出て話しても時間ロスするだけなので作業続行。3分後に部屋を出て、エレベータに向かっている間に再度電話が鳴る。トニーごめん。
いつもは笑顔しかないトニーが今日は厳しい顔をしている。急いでUberに乗り込むが、普段は超フレンドリーなエイミーも無言。やっべえぞやっべえぞ…
空港に向かうときも、トニーが運転手に急いで…とインドネシア語で言ったのか超高速で他の車をびゅんびゅんと右に左に追い抜いていく。
これで飛行機に三人が乗れなかったら完全に僕の責任だ、嗚呼と頭を抱えながらも運転手のやっべぇ運転に気が気じゃない。
5時、空港に到着した。車から飛び降りてスーツケースをおろしたら、路上で他のバンドメンバーが、焦りひとつなく和やかに談笑している。怒って黙っていたと思われたエイミーも「あーよく寝たわ~」と起きてきて「ジョージおはよ、今日よろしくね~」といつも通りだ。
「あのー…フライトって何時なの?」
「7時50分だよ」
まだ3時間もあったので、余裕でチェックインを済ませ、空港ターミナルの中でビアードパパを食べながら他のメンバーと談笑。
「ずいぶん集合早いんだね。日本だと5時に空港ってなかなかないよ。」
「そう、ジャカルタは渋滞すると時間読めないからね。ジョージ、覚えておくと良いよ。"Rubber Time"って言ってね、インドネシアは時間が伸び縮みするから。」
ゴム時間…なるほど。
「で、今日は何時集合だったの?」
「4時だよ。」
4時…トニーよ、最初から時間に間に合う気ないじゃないか…
って詳細の時間調べずに寝てた僕が言うのもなんだけど。
その後無事にセマランに9時につき、ゆっくりとサウンドチェックをし、ゆっくりとランチを食べ、ゆっくりチェックインし、ゆっくり昼寝し、17時にロビーに集合し、18時に全員揃い、20時半に本番を迎えたのでした。
僕の参加曲も無事、大盛り上がり。
なにごともゆっくりと進むのが、
インドネシアのスタイルのようです。
ラバータイム。
覚えておこう。