「そしてお前が不思議な能力を持っている事も薄々は感じていた。ヒカルが子供の頃、お前はいつも誰かと会話しているようだった。そこにはなんの気配などなかったのに、なんとも奇妙なものだと思ったものだよ。そしてあるとき、お前は突然苦しみだした。その原因がなんだか皆目検討はつかなかったが、あのペンダントがまばゆいくらい光輝いていた。だから慌ててお前からそのペンダントを離した。するとヒカルはまた静かな眠りについた。その日からお前の不思議な行動はやんだ。私は確証した。この石には不思議な力がある、そしてこれはお前自身の不思議なパワーを引き出すものだ。」
ヒカルは胸にかけていたペンダントを握り締めた。ペンダントは微動だにせず、ただの石におもえた。
「そして私は、ヒカルの不思議な力をどうしたものか不安に思い、キャルサンで有名な巫女のもとにお前を連れて行った。その御方は、その石を預かっておくようにと命じた。時が来るまで大事に保管することと…。『その時は、16歳になれば訪れる。彼女は青い都を追い求めるであろう。それが合図である。』その予言通り、お前は誕生日を迎え青い民を探すミッションを受けた。私はそのときうかつにも動揺してしまった。実はお前の母親サイファについて、長年調べていた。ちょうどその時に、捜し求めていた手がかりを見つけたばかりだった。それはサイファに似た特徴の女性が、今はテレサと名乗り、アミュータウンにいるという知らせだった。その日は、そのことを伝える勇気が持てなかった。お前がいなくなることが怖かったからだ。」
ヒカルはどうしたらよいのか分からなかった。ただ青い民についてゼロについてまだもっと知りたいと無性に思っていた。
「おじさん、私一度はじめたことを途中で投げだしたくない。ミッションは中止になったけど、これは私のルーツを辿る旅でもあるの。おじさんごめんなさい。おじさん期待に答えられなくて。たぶん命令にそむき渡航すると二度と私は諜報部には戻れない。何よりもおじさんに迷惑をかけてしまう。それでも知りたいという気持ちを抑えられない。でもね、おじさん。私は母も大切だけど、私をここまで育ててくれたおじさんを実の父親だとこれまで思ってきたの。それは生涯変わらない。それでも、だから…。」
「ヒカル、すまない。お前をここに置いておきたいなど私のエゴにすぎない。お前にはお前の行くべき道がある。そして帰る場所がある。お前はもう自由だ。私の跡など継がなくてもよい。お前の好きな場所で好きなことをすればよい。お前が元気でいてくれること、どこかで幸せでいてくれるだけで十分だ。ヒカル、元気で。」
ゲオルクは手を差し出した。ヒカルは両手で握り締めた。
「おじさん。私、おじさんのこと忘れないわ。何があっても忘れない。だからおじさんも覚えていて。」
ヒカルはその夜、身ひとつでアリシパンを向け出した。ありがたいことにルピナスから、潜水艦が極秘に彼女を迎えに来てくれていた。これはゲオルクがセネカに頼みこんでくれたおかげだ。ヒカルはこれまでの感謝の気持ちを胸に、懐かしいふるさとをあとにした。
「もう二度と戻れない。だからこの全ての景色を胸に刻みたい。」
ヒカルは両目が涙で見えなくなっても必死に目をあけて、いつまでも高台のゲオルクの家を見つめていた。