言葉のマジック、なのでしょうか?




レザークラフトと、木のキレッパジを削って何かを作ることにハマって以来、これまでになく頻繁に使うようになったものがあります。
砥石です。

レザークラフトといえば、革包丁。
木を削るといえば、小刀や鑿。
これらは、いくらいいもの、切れるものを買ったとしても、使えば切れ味が落ちてしまいます。
快適に切ったり削ったりし続けるためには、どうしても逃れられないのが、「研ぐ」という作業です。


使い方によるのではないかと思いますが、ワタクシの場合、たとえば小刀は2時間くらい使ったら何となく研ぎたくなる感じです。
削り方が上手な人なら、もっと切れ味が長持ちするかもしれませんが……

木を削る時間は1日1時間までと決めていますが、削るのに熱中している時期は、一週間に二本くらいは小刀を研ぐことになります。
そうすると、ほぼ毎週末、砥石を取り出すことになるわけです。

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もちろん、うちにはもともと砥石がありました。
料理の包丁を研ぐために買った、シャプトンの「刃の黒幕」青です。
ちょっと細かめの中砥ですね。

ただ、出番はそうそうありませんでした。日本を代表するざ・ずぼら~なワタクシが、そうそう頻繁に包丁を研ぐわけがありません。
せいぜい年に数回でしょうか。


それが、アナタ。
小刀を使いだしたら、「削り熱」な時期は、研ぎが週に一回ですよ。
恐るべし、マイブーム。




でも、ですね。
小刀を研ぐには、足りないものがありました。
仕上げ用の仕上げ砥石です。

ううむ。仕上げか。シャプトンの紫を買い足すか……………
………………でも、なんか、つまんない。

わけのわからない物足りなさを感じていたワタクシの目に、ある日、魅力的なものが飛び込んできました。
東急ハンズの店頭で見つけたそれは、天然砥石。
天然の、砥石の、かけらです。

10センチ四方くらいの不定形のそれは、黄土色に朱色のまだら模様が、なんだかとても綺麗で、かわいく見えました。
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ネットで調べてみると、天然砥石として今、出回っているものの大半は、仕上げ砥石なのだそうです。

職人さんが使う、大きくて形が整った上質なものは、何十万円もするようです。
天然砥石を採掘する業者さんが減って、貴重なものになっているためです。



でも、ワタクシのような素人にも使いやすい天然砥石がありました。
形が不定で、大きさも小さめの、こっぱと呼ばれる欠けらです。

ただ、天然砥石は、同じ産地のものでも、ひとつひとつ性質が微妙に違うとのこと。
そこで、まずは専門店に行ってみることにしました。




……「まずは」って、東急ハンズで買った小さなかけらが、すでにあるではないか。




ごほん。
訪ねたのは、浅草橋にある森平という専門店です。
ホームページを拝見すると、専門店ですが初心者にも親切に教えてくださいそうな雰囲気でした。
http://www.morihei.co.jp/
(勝手にリンク張っちゃってごめんなさい)

店のたたずまいは、いかにも専門家向け。ガラスの引き戸のむこうの棚に、ずらりと砥石が並んでいます。



「あのう……革包丁とか小刀とかを研ぐ砥石がほしいのですが……」と、おずおずと声をかけると、
「予算はどのくらいですか?」と、ご主人が笑顔で応対してくださいました。
よかった~。ど素人でも、大丈夫そう。
「ええと、……できれば1万円くらいまでで……」
玄人には、きっとありえない低額予算だったことと思いますが……ど素人にとっては、けっこうな金額です。

「一万円くらいまでね。形はきれいでなくてもいいですか? それなら、大丈夫です。ありますよ」
ご主人は、2階に案内してくださり、手前に並ぶ「こっぱ」の中からよさそうなのを選んでくださいました。
「小刀と革包丁、ですね。それじゃあ、あまり硬すぎず柔らかすぎないもので……このへんがいいんじゃないかな。形もわりあいきれいだし」
さらに、持って行った小刀を、実際に店頭で研いで試してくださいました。
「うん。よさそうですね」



選んでいただいたのは「水木原」と書かれた、オリーブグリーンの滑らかな砥石。
片隅が欠けていますが、使いやすそうな長方形です。
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さらにさらに。
「天然砥石は割れやすいから、水につけたまま放置しないでね。使い終わったら布巾でふいてしまってくださいね。使う前に、研ぐ面以外の面を養生して、砥石台につけるといいですよ」
と、扱いも教えてくださり、砥石台をおまけにつけてくださいました!!
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なんて親切なんでしょう。ぱっと入った一見のど素人だというのに。感動です。




おお。よかったね。いい買い物ができたではないか。天然砥石は、これで決まりだね。

………そうだったら、よかったんですがね………




なんだか、ほかにも天然砥石があるのは、なぜ?
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いや~。ネットで販売している天然砥石の専門店とヤフオクで、ものすごく安くてきれいなのを見つけちゃって……
ほら、専門店の「相岩谷」は、大きめだから、包丁にいいかなって。


……って、アンタね。




気を取り直して、森平のご主人に教えていただいたとおり、まずは養生から始めましょう。

森平のは、いただいた砥石台があるからいいとして。
ほかのものは、うちにあった木のキレッパジから、よさそうなのをみつくろって、てきとうな大きさに切りました。
たぶんビーチだと思います。
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養生には、耐水性がある塗料を塗ります。
プロは漆を塗るそうですが、うちにはもちろん、そんなものはありません。
そこで、森平のご主人が教えてくださったのは、ニスです。

おお。ニスならあるぞ。ほら、黒柿の板皿を作るのに使った、シェラックニスが。
https://blogs.yahoo.co.jp/glirulusjp/33958655.html
シェラックも、それをとくエタノールも、板皿一枚では使いきれないほどあったので、ちょうどいいですね。
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溶いたニスを使いきるべく、研ぐ面以外の5面に一気に塗ります。
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……ここで、はやくも失敗。
側面を塗るときに、研ぐ表面に、ニスが付いてしまいました……マスキングテープを貼っておけばよかったよ……

まあ、砥石の表面は、研ぐ前に平らに削っちゃうからね。ニスもすぐとれるさ。大丈夫大丈夫。
……ほんとか?




気を取り直して、
一日置いて、ニスが乾いたら、砥石台に貼り付けます。

森平のご主人が「つかうといいよ」と教えてくださったのは、コンクリート用のボンドでした。
その際、気を付けるのは、全面をべったり貼らないこと。
砥石が湿気で少し形を変えることがあるので、べったり貼ると割れてしまう恐れがあるとのことでした。
なるほど……天然砥石、なかなか繊細なヤツですね。
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砥石台に、ボンドを二カ所に分けてこんもり盛って、砥石をぽんと置けば、自重でぴったりくっつきます。
念のため2日くらい放置すれば、できあがり。




さっそく研いでみましょう。


まずは、シャプトンの青で、小刀の表側をよく研ぎます。

研ぐ前に、ダイヤモンド砥石で砥石の表面をごりごり擦って、平らにするのを忘れてはいけません。
砥石がゆがんでいれば、研いだ刃物もゆがんでしまいます。
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……とはいえ、ざ・ずぼら~の仕事ですから……
いちおう、金属定規をあてて平らかどうか確かめますが、木工職人さんみたいに完璧に真っ平にはできていないと思われます。


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さて。
小刀を中砥で研いで、裏側にカエリ、つまり研いだカスのバリが出てきたら、いよいよ天然砥石の出番です。

天然砥石も、ダイヤモンド砥石の1000番の面で擦って平らにしまして……
まずは、裏側をぴったり当てて、が~~~~~っと擦ります。
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すると、今度は表側にカエリが出るので、それがなくなるまで表側を研いで、
今度は裏側に出たカエリをとるように裏側を研いで、
また表側を研いで、
裏側を研いで、
………の、くりかえし。
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このあたりの研ぎ方は、すべてネットで学びました。
いろいろな木工職人さんや大工道具の販売店さんが、詳細なノウハウを公開してくださっています。
「小刀 研ぐ」や「かんな 研ぐ」で検索すれば、動画で研ぎ方を見せてくださっている職人さんもいます。
本当に、いい世の中になりましたね。




研ぐ腕を棚の最上段にあげていえば、天然砥石は、研いでいてとても気持ちがいいです。
オリーブグリーンや黄色や赤みがかった茶色のなめらかな表面に、あっという間に黒いとぎ汁が出てきて、うまく研げたときは刃が吸い付くように石の表面を走ります。
……うまく研げないときは、「ぴ~~~~っ」という甲高い音がして「やっちまった……」と、冷や汗が出ますが。

だいたい、表側を8割くらい、裏側を2割くらいの配分で研ぐとよいようです。




不思議なことに、3つの天然砥石は、どれも研ぎ心地が違いました。

相岩谷の黄色いのは、とても硬く感じます。研ぐ刃が、うっかりすると石の表面を「つる~っ」と無駄に滑って行ってしまう感じ。
ヤフオクで買った赤みがかったのも、わりに硬い感じです。
森平のオリーブグリーンは、研いでいると、刃と一緒に砥石が減っていくのが感触でわかります。とはいえ、砥石がどんどん削れてしまうほどではありません。
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きっと、それぞれ刃との相性があるんでしょうねぇ…………




なるほど。では、それを極めてみてはどうかね。
青紙の小刀にはこれ、白紙にはこれ、ステンレスの包丁にはこっち、とか。



………………
そうですねぇ。そのうち………

なんだ、その間は。

………………
いやぁ……まあ………




………………

日本を代表するざ・ずぼら~なワタクシは、
今のところ、
「きっとそれぞれ相性があるんだろうな~」と思いながらも、
適当に、気分で使い分けております。
「今日は森平の気分」「今日は相岩谷にしよっかな~」「ちょっとヤフオク出身の研ぎ心地が恋しいかも」



……って、アンタね。




そもそも天然砥石というものは、職人の世界のものである。
研ぐだけならば、現代では人工砥石で十二分にことたりる。
むしろ、わけのわからない素人が、「天然砥石」という言葉に惹かれて、腕に見合わないものをコレクションしはじめたことが、プロにとっては迷惑である。いいものをプロが入手しづらくなってしまうからである。
天然砥石に目の色を変えるなら、まずは一本、砥石を使いつぶしてからにすべきではないか。

ある木工職人さんのブログに、だいたいこんなような、核心をついたお叱りの言葉が掲載されていて、ワタクシは冷や汗をかきました。




ご、ご、ご、ごめんなさい。
まだ小刀も革包丁も満足に研げないワタクシは、まさに「天然砥石」という言葉のマジックで、砥石をあれこれ買ってしまいました。

ただ、まあ、ワタクシが買ったのは、プロが使わないと思われる、安い砥石の木っ端なので……
許してください。



罪滅ぼしに、頑張って、小刀と革包丁を研ぐ練習をすることにしましょう。
いつか、買った砥石に喜んでもらえるようなウデを目指して。

……ま、たぶん、一生かかっても使いきれないと思うけど。




ちなみに、東急ハンズで買ったキレッパジは、
あまりに小さすぎて小刀には向かず、彫刻刀を研ぐのに使っております。
かなり柔らかい研ぎ心地です。