中学生のころ、自宅の近くで一番大きな文房具屋の棚の上に、ひときわキラキラ輝くものを見つけました。
「世界の鉛筆50本セット」。
透明なプラスチックケースに、色とりどりの軸の海外の鉛筆がバラで50本入ったセットです。
赤や緑、虹色と、日本の鉛筆では見かけない美しい軸に彩られた鉛筆たち。
見つけた時のワクワク感ときたら……
鉛筆って、どうして、こんなに、ソソる存在なのでしょうか。
世界には、こんなに綺麗な鉛筆があるんだなあ……と、一つだけしかないそのセットを、毎日眺めて約半年。
ねだってねだって、クリスマスプレゼントにもらいました。
だって1万円もしたのです。お小遣いでは、ちょっと辛いでしょう。
たぶん、親からもらった中で、一番うれしいクリスマスプレゼントです。
「こんなの、絶対使いきれないじゃない!」という、母親のあきれ顔も、よく覚えています。
……母親というのは、なんと正しいことを言うのでしょうか。
そのセットの鉛筆は、それからン十年たった現在でも、ワタクシの手元にあります。
なくなってしまったものも多いですが、それは使いきったのではなく、単に、どこかへ行ってしまったのです。
ああ。
子供のころ、佐藤さとるさんの「えんぴつ太郎のぼうけん」という絵本が大好きでした。
使い込まれて短くなった鉛筆が、部屋の隅でトランプのジョーカーに魔法をかけられて手足をもらい、ほったらかしにされていたぬいぐるみの望みをかなえるために冒険する物語です。
主人公のえんぴつ太郎は、削って削って小指くらいの大きさになった鉛筆。
最後に、お母さんがえんぴつ太郎を包丁で削って台所の引き出しにしまうシーンが、なぜだか、うっとりしてたまりませんでした。
手元に残った「世界の鉛筆50本セット」の残りを眺めると、
これがえんぴつ太郎になるまでに、あと何十年かかるかねえ……。
使われずにとっておかれるのは、ワタクシの鉛筆だけではないようで……
30分ほど時間があるから、ちょっと骨董市に寄っていくか~。
ある日、ふと、思い立ちました。
……骨董市って、そういう行き方するもんじゃないと思いますが……
急ぎ足で会場を一周するワタクシの目の端に、それが、稲妻のように飛び込んできました。
「SWAN」と書かれた紙の帯に包まれた、赤と黄色の鉛筆。それぞれ1ダースです。
足を止めて、素早く手を伸ばし、持ち上げた時には、もう購入を決めていました。
決断に要した時間は、約5秒。
ほら、骨董市なんて、30分あれば十分なんですよ。
……骨董市って、そういう買い方するもんじゃないと思いますが……
ごほん。
「SWAN」の鉛筆といえば、あれですよ!
現在まで続くドイツの鉛筆メーカーであるスワン・スタビロの、前身ではないでしょうか???
このスワンのマークは、見覚えがありますよ。
……ほんとかなあ。
赤くて丸い軸の一ダースは、最初から削ってあります。海外の鉛筆のデフォルトのスタイルですね。
軸には「Schwan-Bleistift Fabrik」という文字が。
「Bleistift」は、ネットで検索すると「鉛筆」、「fabrik」は「工場」という意味のドイツ語なので、これはまさしく「シュバン鉛筆工場」。
一方、黄色く六角形の軸の一ダースは、削ってありません。ちょっと日本の鉛筆な雰囲気ですが、軸には「SCHWAN GERMANY」と書いてあります。
うむ。これは、おそらく、ほぼ間違いなく、スワン・スタビロの前身であるシュバン鉛筆工場社の鉛筆です!
……まあ、そういうことにしておこう。
SCHWANの社名が消えたのは、スワン・スタビロのカンパニーヒストリーによれば、1976年だそうです。
つまり、赤いのも黄色いのも、少なくともそれより前に作られたものですね。
どちらも、おそらく輸出されたものではないかと思います。
一ダース、きれいにまとまっていると、使うのに勇気がいりますよね。
この鉛筆も、ワタクシのような持ち主の手元で、何十年も机の引き出しの片隅に眠っていたのでしょう。
わかるわかる。
古い鉛筆に出会ったことで、なんとなく、また鉛筆を使いたい気分になりました。
ペン立てや机の隅っこに転がっていた鉛筆たちを集めてみます。
上から3本が、「世界の鉛筆50本セット」のメンバーだったヒトたちです。
イギリスのベロール社は、最近、日本で見かけませんが、ステッドラーとスワン・スタビロは定番ですね。
セットの中で珍しい鉛筆はみんなどこかへ行ってしまい、定番だけが手元に残っているわけです。
……なんだか、しみじみと悲しさを覚えます……
三菱鉛筆は、まあ、三菱鉛筆で、
LYRAは、最近買ったもの。最近、カワイイ系の鉛筆といえば、LYRAが多いように思います。あとはチェコのコヒノールでしょうか。
どれも、ワタクシの子供時代の定番であるHBです。
昔は、学校に持っていくペンケースの中身はHB、ちょっとオトナな雰囲気を醸し出したいときはFかHだったものですが、
今のペンケースの中身の定番はBとか2Bなんだそうですね。
今の子供は筆圧が弱いので、HBやHだと薄すぎるという話を聞きました。
……筆圧が弱い。ふむ。
今の子は、もしかすると万年筆向きなのかもしれません。
同じHBでも、実は、メーカーによって書き心地が違います。
まずは、ド定番の3本で比べてみましょう。
同じコーヒーカップを、一個5分くらいで殴り書きしてみました。
……あ、コーヒーカップのつもりです。芸術的過ぎて、なんだかよくわからないかもしれませんが……
鉛筆は、芯の粒子を紙の繊維に絡ませて書いていく筆記具なわけですが、
STABILOのOperaは、粒子が一番、紙に乗りにくい印象です。粘りがあるといいますか……
その代わり、書いたらしっかり定着する感じで、むかいのページへの色移りはそれほどありません。
消しゴムで消しやすいのも特徴のように感じます。
三菱のuniは、どんどん芯が削れて紙に粒子がうつっていく感じ。乾いた感触の書き心地です。
真っ黒に塗りやすいのですが、粒子が定着しない感覚で、むかいのページへの色移りが激しいです。
ちょっと手で擦ったら、すぐ真っ黒になってしまいそうですね。
ステッドラーは、その中間。バランスがよい感じがします。粘りがある書き心地ですが、濃い色を乗せやすい。
デッサンの画材の定番に選ばれるのも、わかります。
続いて、カワイイ系と、今は見かけない系で、描いてみましょう。
LYRAもBerolも、粉がなかなか紙につかない書き心地です。
書いた線の光の反射が大きく、薄い色に見えます。
HBだけど、もうちょっとH寄りというか、薄くて硬い芯のように感じます。
ぐりぐり塗っても、真っ黒になりにくいようです。
絵よりも、文字を書くのに向いた鉛筆かもしれません。
さてさて。それでは。
いよいよ、骨董市で買ってきた、シュバン鉛筆工場の鉛筆を、試してみようじゃありませんか!
……おそるおそる、きっちりくるまれた赤い1ダースから一本引き抜きます。
これは「No.2」というのが、おそらく硬度の表記なんでしょうね。
ネットで調べると、主に米国での表記方法で、HBに相当するようです。
書いてみますと……
(あっ、Fabrikのスペル間違ってる……)
やっぱり、STABILOに似た書き味です。薄くて粘りがある感覚です。
ただ、今のスタビロよりは、粉が乾いた感触を感じます。紙へののりがよく、塗りつぶしもしやすいです。
………古いから、時間とともに、芯の水分が抜けて乾いたんでしょうかねぇ………
黄色いほうは…………………
………………日本有数の貧乏性、座右の銘は「もったいない」のワタクシに、削ってない1ダースセットの、しかも現行品でない鉛筆を、削って使うなんてできるわけがないじゃありませんか!!!
開き直り。
鉛筆は、削らないと書けません。
でも、芯を木に包むという単純な構造だから、何年放置しても、書こうと思ったらすぐ書けるんですね。
万年筆のように、保存の仕方が悪いと故障して書けなくなってしまう……なんてことは、ありません。
いつでもどこでも、思い立ったらパッと書ける。
偉いヤツです。
……ま、落っことして、軸の中で芯がバキバキに割れてしまう、なんてことが、子供のころにはありましたが……
おや。昔の鉛筆は、今の鉛筆と、軸の文字の印刷の方向が逆なんですね。
削った先を保護するために、鉛筆キャップが必要です。
ただ、海外の鉛筆は、日本のものより少しだけ軸が細いようで、日本の鉛筆キャップが緩すぎてはまりません。
そこで、エルバマットの端切れで作ってあげましょう。
色とりどりの鉛筆キャップです。
……って、分厚い……
エルバマットの原厚、約2ミリ。
鉛筆よりも、キャップのほうが、もしかしたら重いかもしれません。
「えんぴつ太郎のぼうけん」の作者、佐藤さとるさんは、2月に亡くなったそうです。
ワタクシの子供時代は、佐藤さとるさんワールドで彩られておりました。
素敵な物語を、ありがとうございます。
ご冥福をお祈りします。
「世界の鉛筆50本セット」。
透明なプラスチックケースに、色とりどりの軸の海外の鉛筆がバラで50本入ったセットです。
赤や緑、虹色と、日本の鉛筆では見かけない美しい軸に彩られた鉛筆たち。
見つけた時のワクワク感ときたら……
鉛筆って、どうして、こんなに、ソソる存在なのでしょうか。
世界には、こんなに綺麗な鉛筆があるんだなあ……と、一つだけしかないそのセットを、毎日眺めて約半年。
ねだってねだって、クリスマスプレゼントにもらいました。
だって1万円もしたのです。お小遣いでは、ちょっと辛いでしょう。
たぶん、親からもらった中で、一番うれしいクリスマスプレゼントです。
「こんなの、絶対使いきれないじゃない!」という、母親のあきれ顔も、よく覚えています。
……母親というのは、なんと正しいことを言うのでしょうか。
そのセットの鉛筆は、それからン十年たった現在でも、ワタクシの手元にあります。
なくなってしまったものも多いですが、それは使いきったのではなく、単に、どこかへ行ってしまったのです。
ああ。
子供のころ、佐藤さとるさんの「えんぴつ太郎のぼうけん」という絵本が大好きでした。
使い込まれて短くなった鉛筆が、部屋の隅でトランプのジョーカーに魔法をかけられて手足をもらい、ほったらかしにされていたぬいぐるみの望みをかなえるために冒険する物語です。
主人公のえんぴつ太郎は、削って削って小指くらいの大きさになった鉛筆。
最後に、お母さんがえんぴつ太郎を包丁で削って台所の引き出しにしまうシーンが、なぜだか、うっとりしてたまりませんでした。
手元に残った「世界の鉛筆50本セット」の残りを眺めると、
これがえんぴつ太郎になるまでに、あと何十年かかるかねえ……。
使われずにとっておかれるのは、ワタクシの鉛筆だけではないようで……
30分ほど時間があるから、ちょっと骨董市に寄っていくか~。
ある日、ふと、思い立ちました。
……骨董市って、そういう行き方するもんじゃないと思いますが……
急ぎ足で会場を一周するワタクシの目の端に、それが、稲妻のように飛び込んできました。
「SWAN」と書かれた紙の帯に包まれた、赤と黄色の鉛筆。それぞれ1ダースです。

足を止めて、素早く手を伸ばし、持ち上げた時には、もう購入を決めていました。
決断に要した時間は、約5秒。
ほら、骨董市なんて、30分あれば十分なんですよ。
……骨董市って、そういう買い方するもんじゃないと思いますが……
ごほん。
「SWAN」の鉛筆といえば、あれですよ!
現在まで続くドイツの鉛筆メーカーであるスワン・スタビロの、前身ではないでしょうか???
このスワンのマークは、見覚えがありますよ。
……ほんとかなあ。

赤くて丸い軸の一ダースは、最初から削ってあります。海外の鉛筆のデフォルトのスタイルですね。
軸には「Schwan-Bleistift Fabrik」という文字が。
「Bleistift」は、ネットで検索すると「鉛筆」、「fabrik」は「工場」という意味のドイツ語なので、これはまさしく「シュバン鉛筆工場」。

一方、黄色く六角形の軸の一ダースは、削ってありません。ちょっと日本の鉛筆な雰囲気ですが、軸には「SCHWAN GERMANY」と書いてあります。
うむ。これは、おそらく、ほぼ間違いなく、スワン・スタビロの前身であるシュバン鉛筆工場社の鉛筆です!
……まあ、そういうことにしておこう。
SCHWANの社名が消えたのは、スワン・スタビロのカンパニーヒストリーによれば、1976年だそうです。
つまり、赤いのも黄色いのも、少なくともそれより前に作られたものですね。
どちらも、おそらく輸出されたものではないかと思います。
一ダース、きれいにまとまっていると、使うのに勇気がいりますよね。
この鉛筆も、ワタクシのような持ち主の手元で、何十年も机の引き出しの片隅に眠っていたのでしょう。
わかるわかる。
古い鉛筆に出会ったことで、なんとなく、また鉛筆を使いたい気分になりました。
ペン立てや机の隅っこに転がっていた鉛筆たちを集めてみます。

上から3本が、「世界の鉛筆50本セット」のメンバーだったヒトたちです。
イギリスのベロール社は、最近、日本で見かけませんが、ステッドラーとスワン・スタビロは定番ですね。
セットの中で珍しい鉛筆はみんなどこかへ行ってしまい、定番だけが手元に残っているわけです。
……なんだか、しみじみと悲しさを覚えます……
三菱鉛筆は、まあ、三菱鉛筆で、
LYRAは、最近買ったもの。最近、カワイイ系の鉛筆といえば、LYRAが多いように思います。あとはチェコのコヒノールでしょうか。
どれも、ワタクシの子供時代の定番であるHBです。
昔は、学校に持っていくペンケースの中身はHB、ちょっとオトナな雰囲気を醸し出したいときはFかHだったものですが、
今のペンケースの中身の定番はBとか2Bなんだそうですね。
今の子供は筆圧が弱いので、HBやHだと薄すぎるという話を聞きました。
……筆圧が弱い。ふむ。
今の子は、もしかすると万年筆向きなのかもしれません。
同じHBでも、実は、メーカーによって書き心地が違います。
まずは、ド定番の3本で比べてみましょう。
同じコーヒーカップを、一個5分くらいで殴り書きしてみました。
……あ、コーヒーカップのつもりです。芸術的過ぎて、なんだかよくわからないかもしれませんが……

鉛筆は、芯の粒子を紙の繊維に絡ませて書いていく筆記具なわけですが、
STABILOのOperaは、粒子が一番、紙に乗りにくい印象です。粘りがあるといいますか……
その代わり、書いたらしっかり定着する感じで、むかいのページへの色移りはそれほどありません。
消しゴムで消しやすいのも特徴のように感じます。
三菱のuniは、どんどん芯が削れて紙に粒子がうつっていく感じ。乾いた感触の書き心地です。
真っ黒に塗りやすいのですが、粒子が定着しない感覚で、むかいのページへの色移りが激しいです。
ちょっと手で擦ったら、すぐ真っ黒になってしまいそうですね。
ステッドラーは、その中間。バランスがよい感じがします。粘りがある書き心地ですが、濃い色を乗せやすい。
デッサンの画材の定番に選ばれるのも、わかります。
続いて、カワイイ系と、今は見かけない系で、描いてみましょう。

LYRAもBerolも、粉がなかなか紙につかない書き心地です。
書いた線の光の反射が大きく、薄い色に見えます。
HBだけど、もうちょっとH寄りというか、薄くて硬い芯のように感じます。
ぐりぐり塗っても、真っ黒になりにくいようです。
絵よりも、文字を書くのに向いた鉛筆かもしれません。
さてさて。それでは。
いよいよ、骨董市で買ってきた、シュバン鉛筆工場の鉛筆を、試してみようじゃありませんか!
……おそるおそる、きっちりくるまれた赤い1ダースから一本引き抜きます。
これは「No.2」というのが、おそらく硬度の表記なんでしょうね。
ネットで調べると、主に米国での表記方法で、HBに相当するようです。
書いてみますと……

(あっ、Fabrikのスペル間違ってる……)
やっぱり、STABILOに似た書き味です。薄くて粘りがある感覚です。
ただ、今のスタビロよりは、粉が乾いた感触を感じます。紙へののりがよく、塗りつぶしもしやすいです。
………古いから、時間とともに、芯の水分が抜けて乾いたんでしょうかねぇ………
黄色いほうは…………………
………………日本有数の貧乏性、座右の銘は「もったいない」のワタクシに、削ってない1ダースセットの、しかも現行品でない鉛筆を、削って使うなんてできるわけがないじゃありませんか!!!
開き直り。
鉛筆は、削らないと書けません。
でも、芯を木に包むという単純な構造だから、何年放置しても、書こうと思ったらすぐ書けるんですね。
万年筆のように、保存の仕方が悪いと故障して書けなくなってしまう……なんてことは、ありません。
いつでもどこでも、思い立ったらパッと書ける。
偉いヤツです。
……ま、落っことして、軸の中で芯がバキバキに割れてしまう、なんてことが、子供のころにはありましたが……
おや。昔の鉛筆は、今の鉛筆と、軸の文字の印刷の方向が逆なんですね。

削った先を保護するために、鉛筆キャップが必要です。
ただ、海外の鉛筆は、日本のものより少しだけ軸が細いようで、日本の鉛筆キャップが緩すぎてはまりません。
そこで、エルバマットの端切れで作ってあげましょう。
色とりどりの鉛筆キャップです。

……って、分厚い……

エルバマットの原厚、約2ミリ。
鉛筆よりも、キャップのほうが、もしかしたら重いかもしれません。

「えんぴつ太郎のぼうけん」の作者、佐藤さとるさんは、2月に亡くなったそうです。
ワタクシの子供時代は、佐藤さとるさんワールドで彩られておりました。
素敵な物語を、ありがとうございます。
ご冥福をお祈りします。
