家族が多いと、楽しみも多い半面、心配ごとも増えますね。

たくさんの万年筆と暮らしていると、毎年、必ず、誰かは体調を崩してしまうものです。

生活環境……つまり、扱いが悪いんじゃないかとか、
中古品ばかり買うからだとか、
しごくごもっともな理由には、目をつぶることにします。

体調を崩した万年筆は、ドクターに診ていただきたいものですね。




東京でも、関西ほど頻繁ではありませんが、ときどき、万年筆を診療するペンクリニックの機会があります。
代表的なのが、3月に丸善日本橋店で開かれる「世界の万年筆展」。今年も、いま開催中です。
こちらでは、セーラー万年筆とパイロットのペンドクター、そして名医・サンライズ貿易の宍倉潔子さんが、日替わりで万年筆を診てくださいます。

丸善のペンクリニックの素晴らしいところは、診てくれる万年筆のメーカーに条件がないことです。
中旬から日本橋三越でも「世界の万年筆祭」があり、そちらでもペンクリニックがありますが、パイロットは「パイロット社製に限る」、セーラーは「セーラー万年筆社製に限る」、ダイヤモンドの仲谷佳登さんは「デルタ、スティピュラ、ディプロマット、コンクリン社製に限る」と注意書きがあります。

今年、体調を崩してしまったのは、最近、家族に加わったラミーのスカラくん。
三越では残念ながら対象外のようなので、丸善のペンクリニックを狙いました。
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診てくださったのは、宍倉先生です。
なんか最近、毎年のようにお世話になっております。廃盤になったものばかりお持ちして、いつも誠に恐縮です。
どんなものでも優しい笑顔で診てくださる宍倉さん、「万年筆の女神」と、ワタクシ勝手に呼ばせていただいております。




実は、ラミーを買うのは、スカラくんが初めてでした。
サファリを筆頭に、モダンで無駄がないラミーのデザインは、古いもの好きのワタクシには、なんとなく近代的すぎるような気がして、いまひとつ近寄りがたかったのです。

でも、このスカラくんは、どことなくクラシカルな香りがただよっています。
チタンのほのかな金色の輝きと、ステンレスのクリップの曲線。
そして、上下をすっぱりと切り落とした直線のラインは、タルガ一族に通じる雰囲気です。
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ブランドのサイトによると「ドイツの兄弟デザイナー、sieger design(ジーガーデザイン)によるデザインで、Chicago Athenaeum: Museum of Architecture and Design(シカゴ学術振興協会:建築デザインミュージアム)によるグッドデザインアワードを受賞」だそうです。
現代的でもあり、50年前のペンだと言われてもおかしくないたたずまいでもあり、ワタクシのツボを的確に突いたのでした。




んで、ネットで中古を買いました。
……って、現行品なのに、また中古……

だって、中古のほうが安くて気軽に使えるもん。

……そういう買い方をするから、体調不良になる確率が上がるのだよ……




ま、ともかく。
スカラくんには、入れるインクは決まっていました。
群馬県のジョイフル2新田のオリジナルインク、浅間セピアです。
チタンの金色を煮詰めて煮詰めて抽出したら、きっとクラシックなセピア色になるはず。
だから、スカラくんには、セピアです。
さっそく、コンバーターに満タンに詰めました。
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ペン先は、すっきりシンプルで無駄がないライン。
スチールペン先です。
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………鉄ペンなのに、新品だと2万円………
国産なら余裕で金ペンのいいやつを買えるお値段ですよ。
舶来の万年筆って、お高い……
だからついつい、中古に手が伸びます。




鋭利なナイフで削り落としたかのようなペン芯のラインが印象的。
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そのペン芯は、なんの装飾もなく、すっきりとペン先におさまっています。
……………か??
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この「??」が、今回、重要なポイントです。




「F」ながら、舶来品らしく、スカラくんのラインは太めでした。
国産ならMくらいだと思われます。
鉄ペンだし、この太さだし、これは、だ~~~っとメモを取るのに使いやすそう。
そう思って、だ~~~っとメモを取ってみたところ………

ん?
なんだ、この引っ掛かりは??
カリカリというか、ガリガリするのは、鉄ペンだから???

万年筆を使い始めてから、ほとんど鉄ペンで書いたことないもんな~。
金ペンに慣れちゃうと、鉄ペンって、こんなにガリガリするものかな???
えセレブなワタクシは、高貴な違和感を感じました。

そして、しばらく書き続けると、右手が痛くなってしまい、諦めて、いつものペリカンM101Nちゃんに持ち替えたのでした………
おかしいなあ。
やっぱり、これは、ガリガリのせい???




3月のペンクリニックを待ちわびて、スカラくんはペンケースで待機することになりました。
インクを入れっぱなしたままで。
……って、アンタね。しばらく使わないなら、インクを抜いておきなさいよ。




さて。
宍倉先生は、スカラ君のペン先をちょっと確かめると「ああ、ペン先がずれてますね」。
手で、くいくいとペン先をたわませ、素早く調整してくださいました。

「手が痛くなるほどの引っ掛かりって、やはり何かあるもんなんですねぇ」と、ワタクシ。
宍倉先生は、「ええ。これ、ペン先全体が、ペン芯からずれてしまっていた状態なんですね」



………そんなに、根本的な問題でしたか………
あらためてペンの裏側の写真を見ると、言われてみれば、左右で影の出方が不自然に違うような気もします。

「てことは、メーカー修理でしょうか?」と、恐る恐る尋ねると、宍倉先生はにっこり笑って「もう直しましたから、大丈夫ですよ」と、スカラくんを返してくださいました。



試し書きしてみると………
あの手を痛めるほどのガリガリが嘘のように消え、ふわふわとインクが紙の上に滑り出てきたのでした!!

鉄ペンでも、こんなに気持ちよく書けるんだなあ……
たしかに、金ペンより紙への当たりが硬い感触ではありますが。
「インクフローがたっぷりしているペン先ですね」と、宍倉先生がおっしゃるとおり、とても滑らかな書き心地です。




ステンレスとチタンに覆われ、スカラくんの体重は、キャップをはめた状態では、なんと41グラム。
万年筆・ザ・スタンダード、パイロットのカスタム74とほぼ同じ大きさなのに、体重は倍もあります。
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これだけ重いと、書くときはキャップを外した方がバランスがいいですね。
キャップを外すと、体重は24.5グラムに減ります。カスタム74(21.5グラム)より少し重めです。
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「重さがしっかりある軸で、インクフローがたっぷりしているので、本来は疲れを感じずに書けるペンだと思います」と、宍倉先生。
あのガリガリは、スカラくんからのSOSのメッセージだったのでしょう。

宍倉先生の手によって、ペン芯とペン先は、こんなにきれいに収まりました。
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ペンクリニックがなかったら、スカラくんは、このまま「やっぱり鉄ペンは書きにくいのぉ」で終わって死蔵されてしまったことでしょう。
初・ラミーがこれでは、私の中で、ラミーは「デザインばっかで書きにくいブランド」とインプットされてしまったかもしれません。
………いやいやいやいや。中古を買っておいて、その評価はないだろう。

万年筆が、本来の持てる力を存分に発揮して活躍してくれるために、
ペンドクターは、なくてはならない存在です。
宍倉先生、本当に、ありがとうございました!!!




こうして、我が家の万年筆一家に、晴れて、ラミーのスカラくんが、主力メンバーとして加わったのでした。
頑張れスカラくん!
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ラミーというのは、すっきりしたデザインで、書きやすいペンを作るブランドなんですね。
宍倉先生のおかげで、ワタクシの中に、ラミーはそのように刻まれました。




こうなると、みんな持ってるサファリとか、金ペンとかも、試してみたくなってくるのぉ………

ペンクリニックは、新たな万年筆の世界への扉でもあるようです。
…………って、まだ増やすの???

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