もう、気温は夏ですね。暑いです。
日向を歩いていると、首筋がじりじりと音を立てて焦げていくのがわかります。
ええと5月、ですよね? まだ。
ああ暑い暑い。



んがっ。

いきなり体感温度が5度くらい下がることって、ありませんか?



ワタクシは、ありました。
頭が一気に冷たくなって、ざーっと血が引く音が聞こえ、顔にわかりやすく縦線が入ったのがわかりました。



そう。

やっちまった……………ああ。

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革モノを見ると、なんでもかんでも構造を確かめてしまうお年頃。
ふむふむ。ここに切れ目を入れてマチを挟み込むことで、全体の厚みを出さずに開きやすくしているのね。
なるほど。蓋を持ち手にこうかぶせることで、重量バランスをとりつつ見た目をすっきりさせているのね。

中には、
ほ~。シンプルで面白い構造。よく考えたもんだな~。
これなら、作れるかも?
……と、創作意欲をそそるものも。



たとえば、ヘルツの兄弟ブランドであるOrganのブックカバー。
https://www.herz-bag.jp/webshop/products/detail890.html
また勝手にリンク貼ってしまいました。ごめんなさい。

表からは一切、縫い目が見えない構造で、上下2枚のフラップと革で本を固定する変わった仕組みです。
これを1年使い込んだスタッフさんの持ち物が、また、かっこいいのです。
フラップのアタリがくっきりと、オイルたっぷりのレザーに現れた、その風合いが。

う~ん。いいなあ。

よく見ると、一枚の横長の革に、上下合計4枚のフラップを縫い付けただけの、シンプルなつくり。
……ま、ブックカバーで複雑怪奇な構造のものというのは、あまり見かけませんが……




これなら、横長の革さえあれば、自分で作れるかもしれない!

もちろん、横長の革ならありました。それも、たくさん。
……って、おい。

このブックカバーは、通常の表側にポケット部分を横に並べた全体が一枚革になるため、通常よりかなりの長さが必要です。
それでも、あったんですよ。それも、たくさん。ええ。
……って、アンタね。どんだけ革を溜め込んでるの。



豊富なストックの中から、選び出したのは、ワインレッドのツヤツヤの一枚。もちろんタンニン鞣しです。
厚みが1.5ミリほどと、この構造にちょうどよさそうだったのです。

ミネルバ・リスシオで作られたOrganのブックカバーは、わりと薄い本にぴったりフィットする感じで、サイズをかなりぎりぎりに攻めています。
けれど、ワタクシは考えました。
何をくるむか決まっていない以上、やはり、ある程度の厚みを持った本に装着できるようにした方がよいであろう。
うむ。ここは、厚さ2センチ程度で、ハヤカワ文庫のアガサ・クリスティ―の本くらいの天地も収まるように、サイズに余裕を持たせるのが望ましい。

……この判断が、吉と出るか凶と出るか。



さて。
5つのパーツを切り出しました。
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まずはトコを磨きまして……
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アタリが出た時にカッコよいよう、角は直径2センチほどの円周を正確に出したいものです。
以前、ヤフオクで買っておいた角落としを使いましょう。
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曲尺の直角の内側に角落としを合わせて叩けば、きれいな4分の1の円周が再現できます。



そうしましたら、フラップのコバをきっちり仕上げておきます。
残念ながら芯まで染まっていない革なので、手持ちのこげ茶のローバスバチックで染めてトコノールで磨きます。
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……って、きっちり???
ま、ま、ま、そのへんはおいといて。




ここまでできれば、あとは、すぐ。
四枚のフラップを縫い付けるだけなので、縫う距離は通常のブックカバーよりずっと少なくてすみます。
作業時間を抑えたうえで、デザイン的にもすっきり美しい。
商品として考察を尽くされた構造だなあと、あらためて感心します。
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最後に、ぐるりと周囲のコバを染めて磨いたら……
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できあがりです!!
お? お? なんか、けっこうコバを綺麗に磨けてない?
このコバ、ちょっと、ワイルドスワン的な??
いや、そんなことはない。ぜったいに、ない。


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……う~む。なんだか、ぷっくりしている……



さっそく、挟んでみましょう。
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ヘルツのスタッフさんがノートカバーとして使っていたのを真似して、ミドリのMDノートを挟んでみました。
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上下、かなり余ります。

ううむ。ゆとりが、ありすぎるようにみえる……
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ここで、ワタクシは、ようやく悟ったのでした。
Organのこのブックカバーが、ヘルツに何種類かあるブックカバーより、なぜ小ぶりでキツキツにサイズを攻めているのかを。


両端を折り込んだうえでフラップで止める構造は、あまりゆとりがありすぎると、包んだものの安定がよくないし、アタリがきれいに出ません。

アタリを美しく出すために、おそらく、Organは、あえてこのブックカバーのサイズをギリギリまで小さくしたのではないか、と。



なるほど~。
商品として開発されたモノは、合理的なサイズを考え抜かれているんですね。
勉強になりました。



薄めの革で作ったため、ぱかぱかした余りがあると、バッグの中で変な折癖がついてしまいそうで心配です。
それに、ハリのある革なので、ぷくぷくしてMDノートにちっとも沿ってくれません。

ううむ。どうしよう。




そうだ! アタリを出したい部分を、あらかじめ折っておけばいいんだよ!

ワタクシがそのとき思い出したのは、エルメスの職人さんの技でした。
バッグのマチにあらかじめ折癖をつけるため、ハンマーでやさしく叩いていた光景です。
あれだ。
よしよし。



やおらハンマーを取り出しまして、
たたきました。フラップが内側に折り込まれる部分を。

さあ。どうなったでしょうか?




………………………

………………………

…………………ああ。

そのときでした。
ワタクシの体感温度が、一気に5度下がったのは。

気づけよ。叩く前に。

そう。
ハリがある革を、むりやり叩いて折ろうとすると、どうなるか。

伸びきれなかった表面が、
割れる。
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理の当然ですね…………………

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思えば、エルメスの職人さんが叩いていたのは、シボがはっきりして、クロムも入った感じの鞣しの、柔らかそうな革でした。
硬めのハリがある革を折って叩くなんてことは、ぜっっっっったいに、しないでしょう。




裏側までは割れは貫通していないようです。ああ、よかった。切れちゃう心配はなさそう。
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でもね……………………………

きれいにトコを磨いて、きれいにコバを磨いて、縫って…………
最後の仕上げで、すべて台無し。
が~ん。



頭が冷たくなって、ざ~っと音を立てて血が引いて、顔にわかりやすく縦線が入るのが、はっきりわかる。




そのとき、ワタクシの頭の中に、
この状況にぴったりな慣用句が、
落語のフォントみたいなぶっとい文字で、
浮かんできたのでした。




生兵法はケガの元。

ああ。昔の人は、偉かった。2000年くらい先の現代で、ワタクシという愚か者が何をしでかすか、はっきり言い当てておられたのだから。