前に副業って程の事もないんですが、メインの仕事とは別に仕事をしてましてね。
その仕事の時は大体、泊まり掛けで行くんですよ。
いろんな所に行ったりしましたし、いろんな事があったりしたんですが、今回は三重のホテルに泊まった時の話です。
新幹線で名古屋まで行きまして、そこからワイドビューでしたっけね…特急に乗って行ったんですよ。
結構時間も掛かったような…
目的の駅に着くと、お土産屋さんがちょこっとあるくらいで、他に何もないんですよ。
泊まる宿は仕事関係の人が用意してくれてるはずですから、その辺りの心配はせず、仕事をちゃちゃっと済ませたんですね。
宿は聞けば、駅前のビジネスホテルだって言うんですがね、お世辞にも綺麗とは言えないホテルでした。
二階にフロントがあって、そこへ行くとぶっきらぼうなおばさんが、部屋の鍵を渡しながら
『チェックアウトは10時ですからね』
鍵を受け取って、部屋へ向かったんですが…
廊下の空気が淀んでるんですよ。
部屋の鍵を開けて、中に入るとここも空気が重いんです。
でも、泊まる所はここしかないですからね…仕方なくベッドに腰かけたんです。
何て言うんですかね…一言で言えば昭和のビジネスホテルって感じでしたね。
ブラウン管のテレビなんですが、100円入れなきゃ観れないあれです。
それに、部屋も暗いですし…何度も言うようですが、空気が重いんです。
とりあえず、荷物を置いて、夕食を食べに行こうと思いましてね、外へ出たんですが、やってるのは居酒屋さんくらい。
そこで夕食を済ませまして、ホテルに戻ったんです。
部屋に戻って、とりあえず、シャワーを浴びようとドアを開けると…
ユニットバスにお湯が貯まってるんですよ。
水じゃなくて、お湯なんですよ。
今、浴室は初めて開けたところなのに…気味が悪くなりましてね、フロントに電話したんです。
フロントのおばさんは『知らない』の一点張り。
気持ち悪いもんだから、そのお湯を流して
シャワー浴びてたんですがね…
今度は、部屋の方から声がするんですよ。
例のテレビは点けてないですから、声がするはずない。
けど、内容は聞き取れないけども話し声はハッキリと聞こえるんです。
『なんてとこに泊まっちゃったんだろうな…』
そんな風に思いながらも、体を拭いて…浴室のドアを思い切って開けた瞬間、話し声がピタッと止まったんですよね。
ゆっくり部屋の中を見回すように浴室を出ると、一ヶ所気になるモノを見付けました。
テレビの裏なんですがね…何故か人形が置いてある。
昔の子供が遊んだ着せ替え人形みたいな…そんなモノなんですよ。
『これだ。』
さっきの話し声、絶対にその人形から発せられたものだって確信しました。
なんでかって?
だって、その人形…私が持ってるにも関わらず、表情がコロコロ変わるんですよ。
微笑んだり、眉をひそめたり、目をつり上げたり…
よく人形には魂が入るって言うじゃないですか。
正にその状態なんですよね。
私はその人形を持って部屋のドアを開け、部屋から離れた場所に置いて、そして部屋に戻ったんです。
「これで大丈夫だろ」
疲れのせいか、ベッドに横になると…いつの間にか眠っちゃったんですよ。
「ん?うう…」
すると、気付いた時には金縛りに遭ってましてね…
身体が動かない。
なんとか金縛りを解かないと…そう思っていると…
次の瞬間「ドンドンドンドンドン!」
部屋のドアを外から叩かれてるんですよ。
あの人形だ…
直ぐ分かりました。
でも、どうする事も出来ないんですよ。
金縛りにかかってますからね、
すると、不思議な事に部屋のドアの映像が浮かんできましてね、人形が部屋のドアを開けて中へ入って来るんですよ。
そして、私の方へやって来て、お腹の上で笑いながら跳び跳ねてるんです。
力ずくで金縛りを解いて、部屋を出て先程置いた人形の元へ行ったんですが…ないんですよ。
確かに置いたはずの人形が…
急いで部屋に戻ってみると、何故かテレビが点いてるんですが、砂嵐の画面。
まさかな…そう思ってテレビの裏を見ると…
人形がそこにあるんです。
『もう無理だわ…』
その後、一睡もせず朝一で宿を後にしましたが…
もう二度と泊まりたくないホテルの一つです。
