【1】想いは雪よりも白く | 〈 追 憶 の 向 こ う 側 〉

〈 追 憶 の 向 こ う 側 〉

筆者のリアル体験物語。「社内恋愛」を題材にした私小説をメインに、創作小説、詩を綴っています。忘れられない恋、片思い、裏切り、絶望、裏の顔―― 全てが入った、小説ブログです。


 小学生の頃に、父が他界した。
 そして先月、長年の苦労が災いして、母も突然の病で亡くなった。

 「川村さん! 今後のことを考えてもらわないと困るよ。お母さんも亡くなってしまったし、まだ十六歳の娘さん一人じゃあねえ」

 五十歳代らしいのだが、すっかり禿げ上がった頭と顔のシワで、一層老けて見える男性。アパートの大家である。
 ただでさえ声が大きい人なのに、輪を掛けて玄関口で声を張り上げている。

 残された高校一年の一人娘、川村美緒(カワムラミオ)は、責められていることが恥ずかしくて俯いてしまう。顔を真っ赤に、涙ぐんでしまい…。

 「ああ。泣かれてもねえ、困るんだよ」

 ここで暮らして三年が経つ。更新月ということもあり、一人残された美緒を追い出すつもりだ。

 「あのっ。私が高校を卒業するまでの間の家賃は、母が遺してくれています。…大家さん。どうか、このまま置いてください。お願いします」

 母親が生きていた頃は、家庭菜園で採れた野菜を分けてくれるなど、優しい面を見せていた。それなのに、子供だけになった途端、あっさりと手のひらを返してきた。

 まあ、近所では〈大家の下心〉と言われていたのだが…。

 「そんなこと言われてもね。これからはアンタ一人だろう? 何か問題でも起されたら困るしさ。保証人、いるの? 親戚とか」

 美緒は、黙って首を横に振る。頬ならず、耳まで真っ赤。手の甲で涙を拭いた。
 子供だから信用してもらえない。それくらいは美緒にも理解出来る。

 だけど――。


 「何の騒ぎですか? 階下(した)まで聞こえていますよ」

 丁度、仕事から帰宅したばかりの隣人が声を掛けてきた。
 大家は振り返り、愛想笑いで通路を譲る。

 「いやあ、牧村さん。お帰りなさい」

 牧村という隣人を、美緒はこの時初めて見た。
 二十歳代半ばといったところだろうか。柔らかそうな黒髪の、優しい雰囲気を持つ男性だった。


-------------------------------------------------------
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。m(*- -*)m

当ブログは、ランキングサイトに登録をしています。
お帰り前にクリックをして頂けると嬉しいです♪
(*-ω人)オネガイシマス♪