【107】前 日 | 〈 追 憶 の 向 こ う 側 〉

〈 追 憶 の 向 こ う 側 〉

筆者のリアル体験物語。「社内恋愛」を題材にした私小説をメインに、創作小説、詩を綴っています。忘れられない恋、片思い、裏切り、絶望、裏の顔―― 全てが入った、小説ブログです。


いよいよ、明日。
岩田さんが待ちに待っている、総務部への異動の日。

私にはもう、成す術が無い。
時間の流れに沿って、私も流れていくだけ。

バレンタインから一年も経たないうちに、私を囲んでいた世界が変わった。
見事なまでの、暗転。
手探りの関係からでも、一年後は互いに理解を深めて、楽しく過ごしていたいと思っていた。
…が、最終的には、彼の価値観を全て押し付けられる形で、散々な状態になるなんて。

私が岩田さんの全てを受け入れるのは当然だけど、その逆は無かった。

そもそも彼は、私の何処を気に入ってくれたんだろう?
“気になっていた”という大雑把な理由ではなく、もっと具体的な何かは無かったのか…。
付き合い始めの頃、それとなく聞いたことがあったが、軽い調子ではぐらかされて。
「まあ、いいじゃん」――そう言って笑っていたが、単なる“照れ”だったのだろうか?

こんな事を考えてしまうのは、今が幸せではないから。
二人の始まりから、全てが疑わしく思えてしまう。

そういった意味でいえば、浅尾くんの方が私の心をこじ開けようと、扉を叩いてくれているような―― 私と向き合ってくれそうな印象を受ける。

雨の日の喫茶店で、たくさんの事を話した。
たわいない話から、会社のこと―― もはや誰も異常とは感じない、特異な人間関係について、男性には話したことのない本音まで、浅尾くんに聞いて貰った。

もう、浅尾くんが誰かに私との会話を漏らすかもとか、そういう不安などは頭に無く、パンクしそうな胸の内を吐き出した。
彼が誰かに内通していたとしても、そんなのは、どうでもよく思えて…。

――なんて、本当は、社内で唯一のマトモな人だと感じたから話が出来たんだけどね。

社員旅行の時、浅尾くんは岩田さんと同室で、自由行動の時も行動を共にしていた。
グループの中には、田浦さんもいて、浅尾くんは例の二人の様子も見ていた訳で…。
彼は、他の男性社員のように、ペラペラと喋る人ではないから、多くを語らなかったけど、私が見ない、知らないでいた方が良い事もあったようだった。

浅尾くん自身も、社員旅行を境に、岩田さんの印象が変わったと話していたし。
ただの“人当りの良い人ではない”と、知ってしまったから。


喫茶店での事を思い出しながら、指先は別の物を探っていた。

懐かしい写真。

夏の日に写った、若くて健康そうな私とは、見た目にも別人になってしまった、今の私。
あの人は、今の私を見たら、何と言うだろうか。

綺麗になった、と思ってくれるのかな?

いや、そもそも、私を覚えていてくれるのか――。


自然に頬が緩み、心があの日に戻っていく。
ほんのひととき、癒されるのなら、過去に戻るのも有りかな。

記憶を遡ると、涙が溢れ出した。

友達には、これ以上頼りたくない。
泣き事や、甘えるばかりでは迷惑を掛けてしまうから嫌だ。

私が涙を流せる場所は、もう現在(ここ)には無い。

膝を丸め、自分自身を隠し守るように蹲ると、声を抑えて涙を流した。




・「この人誰?」と思ったら → 登場人物
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