何処までも、物分かりの良い女でいた。
都合の良い女でいた。
私の誕生日にカノジョの名前を出してからは、一度だって言うことも、聞くこともしないでいた。
私は何故、こんなにも岩田さんに遠慮をしているのか?
いつまで、心を潰すような生活をしているのか…。
岩田さんを好きだとか、愛しているだとか、そういう事ではない。
もうとっくに、そういう気持ちは消えている。
なら、私から彼のもとを去れば良い話だ。
――それが、出来ない。
怖い。 …ただ、それだけ。
岩田さんが、自然消滅を狙っているのだと解っていた。
私達の始まりは、ちょっとした勘違いからだったけど、幸せになりたいと思ったから頷いた。
私との関係は、周囲に伏せておこうと言っていたのに、田浦さんとは、今や公然のような雰囲気になっている。
扱いの差は、何?
私とは、最初から軽く遊ぶだけのつもりだった?
いや。
そもそも、私にそういう気持ちがなかったのだから、最初の段階で強く断れば良かったんだ。
報われない片想いでも、何年も心に秘めた想いだけで生きていけば良かった。
――今、後悔しても遅いけれど。
こんな状況でありながらも、岩田さんは考えられない事を言ってきた。
「何か、手作りの物が欲しいんだけど」――言っている意味が、全く理解出来なかった。
私だって、彼の心がとうに離れて、田浦さんへと移っている事は知っているし、肌でも感じる。
それが、この期に及んで、“手作りの物”…?
私の気持ちを、試されているのか?
疑問を持ちながら、どこまでも馬鹿だった私は、『彼を繋ぎとめられるのなら…』と考えてしまった。
ありがちな手編みは嫌だというから、クッションを作ろうと思った。
それなら、部屋に置いておけるし、それほど邪魔という事もないだろう。
裁縫は苦手だが、そうも言っていられない。
会社帰りに、手芸用品を見て回り、必要な材料を買い集める。
彼はバイクが好きだから、そういった刺繍のも良いかな…とか、もしかしたら、出来栄え次第では、気持ちが戻ってくるのかも、最後のチャンスなのかもしれないと、有りもしない望みを持った。
試し生地でステッチの練習をしてから、ひと針ひと針、丁寧に通していく。
不安を打ち消すように、家に帰ってからは刺繍に没頭した。
・「この人誰?」と思ったら → 登場人物
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