結局のところ、不倫とは・・・
嘘をつき通せば、どうにかなるのだろうか。
休み明けに、多部井さんは、旅行のお土産を抱えて出社した。
誰と一緒とは言わなかったが、
小笠原諸島でホエールウォッチングをしたと言っていた。
一方の武内課長も、似たような事を言っていて、
それだけでもう、一緒に旅をした相手を白状しているようなものだ。
楽しかった不倫旅行を、誰かに話したい、
知ってもらいたいのだろうが、相手を具体的にせず、
濁すあたりが、多少の罪の意識や不貞を感じている証なのか。
どちらにせよ、私には関係がない。
私的に付き合いがある訳でなく、仲良くもない相手の揉め事は、
むしろ、面白く聞ける。
キレイゴトを一切抜きで言えば、他人の不幸・・・ではなくて、
ゴタゴタは蜜の味だ。
自分があまり幸せでない時は、特に蜜の味が濃く感じる。
「え~!?武内課長に、ついていっちゃったの!?」
由里ちゃんが、驚きの声を上げた。
それもそのはず。
身持ちが堅く思われていた私が、
武内課長にホイホイとついて行ったのだから。
「信じられない・・・。椎名が、あの人に付き合うなんて」
“有り得ない” と、大袈裟に首を横に振る。
「でも、何もなかったよ!?」
「そりゃあ、解ってるけど・・・って、、あ。やっぱり、誘われたんだ?」
「え!? ん・・・ うん・・・」
返しながら、昨夜のことを思い出していた。
.
.
店を出て、人通りも疎らになった道路へ上がった。
予定通り、課長にご馳走になり、
形ばかりだが、礼を言って頭を下げる。
さて。
もうここからは、長居は無用。
駅の方へと歩きかけて、武内課長が前を遮った。
言葉もなく、ただ行く手を阻まれただけだが、
課長の表情は何処か寂しそうで、不安そうでもあり、
つい、心にもない言葉を言いそうになる。
“もう一軒、行きますか?”
――― だなんて、危険極まりない。
「ソッチには、行きませんからね」
高架下の先の、それこそ人通りが無い方を指さす。
ラブホテルが数軒並んでいる場所だ。
武内課長の、眉の形が変わった。
どれくらいだか、多少の思惑があったのか。
私は “落ちない女” だと知っているはずなのに、
それよりも、今の自分の心を埋める方に動いてしまったのか。
そうだった、というように、頬の力を抜いて笑う。
「解ってるよ」
お世辞にも綺麗とは言えない、川に架かる橋の上で足を止め、
欄干に寄り掛かる。
「椎名さんの好みは、どんな男なんだろうな。
――少なくとも、俺は、岩田くんじゃないと読んでるけど」
「そんな・・・ いいじゃん、私のことなんか」
「ちょっと、気になってね。聞かせてよ」
「優しい人とか、価値観が同じで・・・とか、そういうの?
それとも、真面目な話で?」
一人分の間を空けて、課長と同じように欄干に凭れる。
街灯が少なくて暗い橋の上は、川面に視線を落としても、
黒い水が見えるだけ。
課長は、おどけるような声色で顔を近づける。
「俺は、いつも真面目だけど?」
そういう課長に、何処か天性のものを感じる。
この人は、女性の扱いが上手いのだと思う。
私の中に、真っ直ぐな想いがなければ、
正直なところ、この先がどうなっていたのか判らない。
妻子がいて、不倫相手がいて・・・
さらに遊ぶ相手?になっていたかもしれない。
「んーと、そうだなぁ・・・」
少し考えるようにしてから、私は口を開いた。
「ひとつの事に、信念を持っている人が好きかな。
私には無いから、無意識に惹かれるのかも」
「・・・へえ。 そういう男が、いたんだ」
「私にも、色々あるんです」
全然可愛くない口調で、言い返した私。
この後、私はあれこれと聞いた。
私達の会社は、噂話好きばかりだ。
そんな状況で、よく私を誘えたものだと、
感心を通り越し呆れを感じる。
私が誰かに、事細かに漏らすことを考えなかったのか?
心配ではないのか、と。
すると、、、
「女の口に、戸は立てられないよ」
余裕すら感じる言い方に、ほんの少しの潔さを感じた。
まあ、私が話を流す相手など、由里ちゃんしかいないし、
武内課長も承知の上だろうが。
その由里ちゃんに、
予兆もなく、大きな変化が訪れようとしていた。
・「この人誰?」と思ったら → 登場人物
-------------------------------------------------------
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。m(*- -*)m
ポチッ♪が、励みになります!
ぜひぜひ応援クリックをお願いします♪
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |