【51】心に出来た壁 | 〈 追 憶 の 向 こ う 側 〉

〈 追 憶 の 向 こ う 側 〉

筆者のリアル体験物語。「社内恋愛」を題材にした私小説をメインに、創作小説、詩を綴っています。忘れられない恋、片思い、裏切り、絶望、裏の顔―― 全てが入った、小説ブログです。


7月に入った、ある休日。
岩田さんが、初めて私の家に来ることになっていた。

親に挨拶とか、そういう固いことではなく、
一度も行ったことがないから、行きたいというだけの事。

30歳にもなると、交際相手の親と顔を合わせるのも、
慎重になるのだろうか。

母親がいない日曜日は、その日しかなくて、
有無を言わさずに決められた。


とはいえ・・・
岩田さんの頭の中は、どうせ、セ ックスの事しかないだろう。

そう考えるだけで、溜息が出てしまう。


(今日こそ、断れるかなぁ・・・)


何度目になるのか、意志の弱い自分を、他人事に考えた。

.
.

「いってらっしゃい」


3~4時間だけ、旧友に会いに出掛ける予定の母親を見送り、
彼の携帯電話へと状況を知らせる。

家の近くに車を停め、待機していた岩田さんが、
母と入れ違いに家へと入ってきた。


「遅せえよ。待ちくたびれた」

「うん。ごめんね」


いつも、彼に謝ってばかり。

謝るようなことはしていなくても、場を収めるために言うことが、
岩田さんと付き合い始めてからの口癖になった。

感情など込めなくても、ただ口にすれば良いだけだから。


「お邪魔します。・・・ふーん。ここがお前の家か」

「古い家だけどね」


玄関を上がり、すぐ目の前の階段を上がれば
私の部屋があるのだが、初めて来た私の家を珍しそうに、
玄関の右手にある居間を覗き込んだ。

そこは仏間があり、亡くなった父がいる場所。

家に遊びに来た友達は、誰一人として欠かさず、
皆が進んで線香をあげ、手を合わせてくれた。

その気持ちが、とても嬉しくて、いつも励まされる。


きっと、その思い込みが、そもそもの間違いだったのだろう。


「・・・あ。 私の、父なの」


岩田さんの視線の先にある、仏壇を示して、軽く紹介をした。

私は、彼が線香をあげてくれると思っていた。
それでなくても、何かひとこと、言ってくれると。


しかし ――――・・


「ふうん。 ・・・で、お前の部屋、どこ?2階?」


顔を階段へと戻し、早く2階へ上がろうとする。

あまりにも意外な反応に、ちょっと・・・頭の中が混乱した。


父の存在を、 “ふうん” で済ませた人は、初めてで・・・。


そして、何事も無かったかのように、
初めて来た家を自分が先頭に、サッサと2階へ上がっていく。

慌てて彼を追い、私の部屋へと案内をした。


「綺麗にしてるんだなー。ちゃんとベッドだし」

「どういう意味よ、それ」


取り繕うように、適当に返して笑顔を作る。
でも、気持ちがついてこない。

価値観の違いというのなら、これがそうなのだろう。
こんなに、ぞんざいな人・・・ 初めてだ。


岩田さんという人が、本当に解らなくなった。


私の存在を・・・
私の親の存在を、踏みつけられたようで、
嫌な意味で、心臓がドキドキする。

まだ会ったばかりなのに、
彼と一緒にいることに、強い違和感を覚えている。


( このままじゃ、彼を嫌いになる・・・ )


―――― 嫌い?



私、彼のこと・・・ 好きだった?





・「この人誰?」と思ったら → 登場人物
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