それはきっと、 “心の隙間” なんだ。
岩田さんと上手く行かないのは、私に原因がある。
彼との間で何かが起こる度に、自分に言い聞かせていた。
意志の疎通が出来ていないから、変に拗れたりするんだ、って。
それとは反対に、私はまだ、井沢さんを心の拠り所にしていた。
あの人の声が、幻聴がしただけで、
心に落ち着きを取り戻すとは、どういう事なのか。
現実の彼氏とは、別の男性の想い出に、
心についた小さな引っ掻き傷を、癒されているなんて・・・。
あの頃の想い出は、小さな青い缶に詰めて、
しかも、開けないように、テープで巻きつけていた。
――― あれから、数年が過ぎている。
もう、大丈夫だろう。
完全にではなくても、幾らかは想い出に変わっているはず。
缶にピタリと巻きつけていた、テープを剥がした。
カタン、と音をたて、蓋を開ける。
私は、本当に馬鹿だ。
忘れるなんて、想い出に変わるなんて、無理なのに・・・。
懐かしい想い出に、涙が溢れ出した。
感情が抑えきれず、雨のように大粒の涙が落ちてくる。
数々の想い出の中で、一番大きな物。
井沢さんが意味もなく、私に差し出した銀色の腕時計。
時は止まり、動かないそれを手に取る。
ずっと缶にしまっていたからか、ほんの少しだけ、
僅かに、あの人のコロンの香りが残っていた。
( どうしてこんなに、道が違ってしまったの・・・? )
“縁が無かった”
その一言に尽きるのに、認めたくない自分がいる。
もし、恋人と順調に上手くいっていたら、
この想い出を、全て捨てられる・・・?
その時にならなければ判らないけれど、きっと私は捨てない。
何か、大きな決断を下す時ではないと、捨てない。
・・・捨てたくない。
その夜、私は、凍りついた心を溶かすように、
寂しい心を埋めるように、
私の大切な想い出を抱きしめて泣き、抱いたまま眠りについた。
ココロをリセットするために。
・「この人誰?」と思ったら → 登場人物
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