【49】リセット | 〈 追 憶 の 向 こ う 側 〉

〈 追 憶 の 向 こ う 側 〉

筆者のリアル体験物語。「社内恋愛」を題材にした私小説をメインに、創作小説、詩を綴っています。忘れられない恋、片思い、裏切り、絶望、裏の顔―― 全てが入った、小説ブログです。


それはきっと、 “心の隙間” なんだ。

岩田さんと上手く行かないのは、私に原因がある。
彼との間で何かが起こる度に、自分に言い聞かせていた。

意志の疎通が出来ていないから、変に拗れたりするんだ、って。


それとは反対に、私はまだ、井沢さんを心の拠り所にしていた。

あの人の声が、幻聴がしただけで、
心に落ち着きを取り戻すとは、どういう事なのか。

現実の彼氏とは、別の男性の想い出に、
心についた小さな引っ掻き傷を、癒されているなんて・・・。


あの頃の想い出は、小さな青い缶に詰めて、
しかも、開けないように、テープで巻きつけていた。



――― あれから、数年が過ぎている。

もう、大丈夫だろう。
完全にではなくても、幾らかは想い出に変わっているはず。


缶にピタリと巻きつけていた、テープを剥がした。

カタン、と音をたて、蓋を開ける。


私は、本当に馬鹿だ。

忘れるなんて、想い出に変わるなんて、無理なのに・・・。


懐かしい想い出に、涙が溢れ出した。
感情が抑えきれず、雨のように大粒の涙が落ちてくる。

数々の想い出の中で、一番大きな物。

井沢さんが意味もなく、私に差し出した銀色の腕時計。
時は止まり、動かないそれを手に取る。

ずっと缶にしまっていたからか、ほんの少しだけ、
僅かに、あの人のコロンの香りが残っていた。


( どうしてこんなに、道が違ってしまったの・・・? )


“縁が無かった”
その一言に尽きるのに、認めたくない自分がいる。


もし、恋人と順調に上手くいっていたら、
この想い出を、全て捨てられる・・・?

その時にならなければ判らないけれど、きっと私は捨てない。

何か、大きな決断を下す時ではないと、捨てない。

・・・捨てたくない。


その夜、私は、凍りついた心を溶かすように、
寂しい心を埋めるように、
私の大切な想い出を抱きしめて泣き、抱いたまま眠りについた。


ココロをリセットするために。




・「この人誰?」と思ったら → 登場人物
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