【173】時を越えて | 〈 追 憶 の 向 こ う 側 〉

〈 追 憶 の 向 こ う 側 〉

筆者のリアル体験物語。「社内恋愛」を題材にした私小説をメインに、創作小説、詩を綴っています。忘れられない恋、片思い、裏切り、絶望、裏の顔―― 全てが入った、小説ブログです。


『逢瀬は、プラットホームで。』 ~ epilogue ~



どれくらいの時間、考えていたんだろう。


淳ちゃん伝いに、

『携帯番号、憶えていたら掛けてきて。番号変わってないから』

という、彼からの言葉を聞いてから、ずっと考えていた。


他の事など、考えられないほどに、

私の頭の中は、井沢さんに捉えられて・・・。


もう、彼以外を考えられなくなった。


夫と向き合う時は、一旦は頭の中から追い出すけれど、

それは長続きせず・・・

少し間が空けば、

若き日の、あの人の姿が脳裏を掠めていく。



携帯電話から、

井沢さんの番号を消すことも、

掛けることも出来ないまま、時間だけが過ぎて・・・



私は、もう一度、自分に問いかけてみた。



( 本当は、どうしたいの? )



夫も仕事に出掛けた、ある昼下がり。

目を閉じて、そんな事を考える。


答えなんて、考えなくても判るのに、

考えたかった。


考える “素振り” をしたかった・・・。



チラリと、壁に掛かった時計を見上げる。



( この時間なら・・・ お昼休み、だよね? )



彼の都合を考えれば、掛けても良さそうな時間帯は、

それくらいしか思いつかない。


淳ちゃんの家に、旦那さんを訪ねて行ったのも、

勧誘だということは明白で・・・。


今でも、現役で活動をしているのだと知り、

夜の時間帯は、有り得ないと思っていたから。



携帯電話を握りしめ、気持ちを固める。



( 掛けて、出なかったら・・・ 諦めよう )



通話ボタンを押すのは、一度きりにしよう。

そう、勝手に約束事を決めた。


相手が出なくても、着信履歴には残るから、

何度も掛けたら、それが判ってしまう・・・でしょう?



私は元々が悲観的だから、

そんな事をして、

「ちょっと言っただけなのに、何度も掛けてきてる」

なんて、思われたくなかった。



携帯電話のフリッパーを開き、

アドレス帳を開けて・・・

表示された、井沢さんの名前を押す。


この携帯電話で、

一度も押すことのなかった、彼の番号。



息を整えて、

静かに <通話> ボタンを押した。



少し間が空いて、呼び出し音が聞こえてきた。


TRRRR TRRRR ......


ボタンを押す時より、耳に聞こえる呼び出し音で、

鼓動が高鳴りはじめる。


だって、これは・・・

大好きだった、、、

大好きな人を、呼び出している音だから。



3回 ・・・ 4回 ・・・

呼び出し音が聞こえる度に、

いつ・・・

機械的な “留守番電話の応答メッセージ” に切り替わるのか、

少しだけ・・・ 不安が胸を締め付ける。




TRR...


呼び出し音が消えた。


呼び出し音が聞こえてくる間、

目を閉じて、その回数を数えていた、私・・・。



ハッ・・・ と、目を開けた瞬間、



「・・・ もしもし」



受話器の向こうから、

懐かしすぎる、あの人の声が聞こえた。



15年もの、永い歳月を越えて、

もう一度 ・・・

二人の “人生が重なった” 瞬間だった。




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