【171】神様の悪戯 | 〈 追 憶 の 向 こ う 側 〉

〈 追 憶 の 向 こ う 側 〉

筆者のリアル体験物語。「社内恋愛」を題材にした私小説をメインに、創作小説、詩を綴っています。忘れられない恋、片思い、裏切り、絶望、裏の顔―― 全てが入った、小説ブログです。


『逢瀬は、プラットホームで。』 ~ epilogue ~



宝物をひとつだけ残して、想い出を半分捨ててから、

5年の歳月が流れた。



――― 2007年


私と夫は、結婚した当初よりも仲良く、

毎日笑いながら、楽しく過ごしていた。


もう、この頃には、子供を諦めて、

ふたりで生きて行こうと、決めていたように思う。


旧友たちには、子供が2人、3人と産まれていて、

私だけが取り残されたようで・・・。

少し寂しい思いもしていたけど、

小鳥を雛から育てたりして、穏やかな日々を送っていた。



そんな中、

淳ちゃんとは、相変わらずの関係。

自宅に遊びに行ったり、電話やメールのやり取りをしたり。

昔のような付き合いではなくなっても、

私の大切な友達に 変わりはない。




ある日曜日・・・


お昼頃に、電話が鳴った。


受話器をあげたら、



『もしもしーーー?』


第一声で誰だか判る、明るい淳ちゃんの声。

電話で話すのは、久しぶりだったから、

つい私も大きな声になってしまう。



「お~! 久しぶりだね。 元気だったー?」


自然と笑顔になって、

受話器の向こうの声に、耳を傾ける。


“ どうしたの? ”

そう聞こうとした私より先に、

淳ちゃんは、少し興奮気味に用件を切り出した。



『さっき、ウチに井沢さんが来たの!!』



・・・ え ?


イザワさん ・・・?


井沢さん、って・・・ 言った?



ドクン・・・!と、心臓が大きな音を立てる。


久しぶりに聞く、その名字。


誰が禁じたわけでもないけれど、

まるで “禁句” のように、誰も触れることのなかった、

懐かしい、あの人の名前・・・。



( あの人が、、、 淳ちゃんの前に 現れた・・・!? )



それを合図に、鼓動の激しさが増していく。

心がざわめくなんて、いつ以来だろう。



淳ちゃんの家に、彼が訪ねて行くって・・・

まさか ―――・・・。


彼はもう、遠い昔の約束など、忘れてしまったのだろうか。

“ 友達を勧誘しないで ” そう言ったのに。

解ってくれたはずなのに・・・。



「なっ・・・、なんで!? まさか、勧誘しに行ったの?」


『それがね、旦那に用があったみたいで。

 留守にしてますって言ったら、何も言わなかったんだけど・・・』



そっか・・・。

淳ちゃんじゃなくて、旦那さんか。


私が井沢さんを追いかけていた頃、

淳ちゃんは、同じ職場の彼氏と、順調に愛を育んでいた。

その相手が、今の旦那さん。


結婚をしたのは、井沢さんが退職してからだし、

社内に友達と呼ぶ人はいなかったようだから、

詳しくは知らなかったのだろう。


ただ、彼女たちと同じ部署の人を勧誘して、

入信をさせたらしいから、個人情報が流れるとすれば

その人からなのだと思う。



『でね、井沢さん、私のこと憶えてなくてさー。

 玄関開けた瞬間に、驚いて、「井沢さん!?」 て言ったら、

 逆に驚かれちゃって・・・』



そりゃあ、そうだよ。

ふたりが結婚したなんて、知らないだろうし・・・。

それに、小さな子供を抱っこして 玄関を開けたというから、

余計に驚いてしまったのかもね。



『全然思い出してくれないから、

 「椎名ちゃんと、よく一緒にいたんですけど、憶えてませんか?」

 って言ったらね、 「ああ!」 って、ようやく思い出してくれたよ~』



「そう・・・ なの? 私のこと、憶えてくれてたんだ・・・」



『何言ってんの。 忘れるわけ、ないでしょ?

 あんな終わり方しておいて、忘れるはずがないよ』



そう・・・ なのかな。

だけど、淳ちゃんが羨ましくて仕方がない。


逢いたいのは、私なのに・・・

何とも思っていない、淳ちゃんが会えるなんて。


やっぱり、私と彼とは、

近づくことさえ 許されないんだな・・・。



『・・・ でね、椎名ちゃんのコト、聞かれたんだよ』


さっきまでの声の調子とは一転、少し抑えたようになる。



妙な緊張感が包んで、

鼓動がこめかみにまで 上がってきた。


淳ちゃんが、私の名前を出したから、

それで井沢さんは、私を思い出したんだろうし、

その流れで、彼女に聞いているだけなのに・・・。


ただ、それだけのこと。

他意なんて、きっとないんだから・・・。


それでも、ほんの僅かな時間でも、

井沢さんは、私を思い出してくれたんだ。


私には、もう・・・ それだけで、充分だよ・・・。



「うん。 それで・・・?」


『 「椎名ちゃんは、元気にしてる? もう結婚したのかな?」 って。

 でもね、勝手に答えていいのかな・・・って、迷っちゃって、

 「私からは言えません。けど、元気にしてますよ」 って言ったの』



うわぁ・・・ なんてコトを!!

ソレ、すごく意味深だよ・・・?

私からは言えない、って・・・。


だけど、それが淳ちゃんの優しさなんだよね。

私の消せない想いに、ずっと気付いていてくれたから。



「なんだか、気を使わせちゃったね。 ・・・ありがと」


『ううん。 だって、やっぱりさ・・・ 言えないよ』


「・・・―― 井沢さんは、結婚したのかなぁ ・・・」


『あ、そうそう! 気になって聞いたらね、まだ独身だって』



“ 独身 ” なんだ・・・。

ほんの少し、嬉しいような・・・ そんな気持ちになった。



『で、井沢さんから伝言があるんだよ。 椎名ちゃんに』


淳ちゃんの声は、悪戯っぽいというか、

うふふ・・・ と、笑みを含んで、

驚かせようというような、そんな声色になっている。



『 「携帯番号、憶えていたら掛けてきて。番号変わってないから」

 ・・・だってさ。 ちゃんと伝えたからね!』



・・・――― えっ?


電話番号、変えてないの・・・?

15年もの間、ずっと・・・?



淳ちゃんからの伝言が、頭の中で自然と、

記憶の中の 井沢さんの声で変換される。


あんな表情で言ったのかな・・・ とか、

頭の中はもう、彼でいっぱいになった。



『もうね、椎名ちゃんのことばかり聞いてくるから、

 私もどう答えていいか、困っちゃったよ~』



あの頃に時間を巻き戻したような、楽しそうな声。

だけど、私の頭の中は混乱していた。




これは、神様の悪戯 ・・・?



それとも、

私を 試しているのですか ―――・・・?




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