【169】想い出を捨てる時 | 〈 追 憶 の 向 こ う 側 〉

〈 追 憶 の 向 こ う 側 〉

筆者のリアル体験物語。「社内恋愛」を題材にした私小説をメインに、創作小説、詩を綴っています。忘れられない恋、片思い、裏切り、絶望、裏の顔―― 全てが入った、小説ブログです。


『逢瀬は、プラットホームで。』 ~ epilogue ~



教団の「被害者の会」サイトの、

管理人さんとチャットで会話をしてから、

案の定・・・

私はまた、抜け殻のような 放心状態。


井沢さんと離れてから、10年も経つのに・・・

それでもこんなに、ダメージを受ける自分に驚いた。



私には、婚約者がいるのに・・・。


来年、結婚を控えているのに、こんな気持ちじゃダメ!!



頭と心の中が、婚約者の彼ではなくて、

井沢さんでいっぱいになっている自分が怖かった。


何か、行動を起こそうなんて思わなかったけど、

こんな気持ちのまま 結婚なんて・・・。


井沢さんの声は、10年経っても耳に残っているし、

あの笑顔も、全てが最近の出来事のように思い出せる。

色褪せない想い出が、胸に重くのしかかった。



もしかしたら、私は間違った事をしたのかもしれない。

ネットで、教団のことを、被害者の会にアクセスしたことは、

大きな誤りだったのではないか・・・。


そう思ったら、急に 自分が不純な生き物に思える。


何かに急かされるように、

引き出しの奥にしまい込んでいた、小さな箱を取り出した。



青い薔薇の模様の箱は、二度と開けないようにと、

蓋をテープで巻いていた。


本当は このまま、この箱を持って、結婚をしようと思っていた。


二度と開けなければ、問題ないと思っていた。

でも、それじゃいけない。


気持ちを固めて、テープを剥がしていく。



カタン・・・

蓋を開けると、缶が音を立てた。



「 ――――― っ ・・・!!」



10年の封印を、解いてしまった瞬間・・・。



イルカとクジラの、ガラス細工

20歳の誕生日プレゼントの指輪

彼に押し付けられた、紳士物の腕時計

スーツ姿のモノクロ証明写真が付いた入構証

携帯電話の番号のメモ




あんなに好きだったのに、

今でも、こんなに想い出せて、

こんなに想いが残っているのに ―――・・・



どんなに心に残っていても、処分しなければいけないんだ。

単に、 “昔好きだった人” ではないのだから。


井沢さんの写真がついた入構証なんて、

誰が見つけても不自然すぎるよね?


それに、婚約者のでもない、紳士物の時計とか。


指輪は・・・

ファッションリングとして、持っていても良いかもしれないけど、

想いが詰まりすぎている。



「 全部、処分しなきゃ ―――・・・ 」



そう呟いて、想い出を全て、

ゴミ箱に捨てた・・・。



私 ・・・

来年、人生で一番、幸せになろうとしているのに、

どうして、こんなに寂しいんだろう。

どうして、こんなに泣いているんだろう。

どうして、あの人を想って、こんなに泣けるんだろう・・・。




本当は、

本当は ・・・

もっともっと、井沢さんと想い出を作りたかった ―――。




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