『逢瀬は、プラットホームで。』 ~ epilogue ~
教団の「被害者の会」サイトの、
管理人さんとチャットで会話をしてから、
案の定・・・
私はまた、抜け殻のような 放心状態。
井沢さんと離れてから、10年も経つのに・・・
それでもこんなに、ダメージを受ける自分に驚いた。
私には、婚約者がいるのに・・・。
来年、結婚を控えているのに、こんな気持ちじゃダメ!!
頭と心の中が、婚約者の彼ではなくて、
井沢さんでいっぱいになっている自分が怖かった。
何か、行動を起こそうなんて思わなかったけど、
こんな気持ちのまま 結婚なんて・・・。
井沢さんの声は、10年経っても耳に残っているし、
あの笑顔も、全てが最近の出来事のように思い出せる。
色褪せない想い出が、胸に重くのしかかった。
もしかしたら、私は間違った事をしたのかもしれない。
ネットで、教団のことを、被害者の会にアクセスしたことは、
大きな誤りだったのではないか・・・。
そう思ったら、急に 自分が不純な生き物に思える。
何かに急かされるように、
引き出しの奥にしまい込んでいた、小さな箱を取り出した。
青い薔薇の模様の箱は、二度と開けないようにと、
蓋をテープで巻いていた。
本当は このまま、この箱を持って、結婚をしようと思っていた。
二度と開けなければ、問題ないと思っていた。
でも、それじゃいけない。
気持ちを固めて、テープを剥がしていく。
カタン・・・
蓋を開けると、缶が音を立てた。
「 ――――― っ ・・・!!」
10年の封印を、解いてしまった瞬間・・・。
イルカとクジラの、ガラス細工
20歳の誕生日プレゼントの指輪
彼に押し付けられた、紳士物の腕時計
スーツ姿のモノクロ証明写真が付いた入構証
携帯電話の番号のメモ
あんなに好きだったのに、
今でも、こんなに想い出せて、
こんなに想いが残っているのに ―――・・・
どんなに心に残っていても、処分しなければいけないんだ。
単に、 “昔好きだった人” ではないのだから。
井沢さんの写真がついた入構証なんて、
誰が見つけても不自然すぎるよね?
それに、婚約者のでもない、紳士物の時計とか。
指輪は・・・
ファッションリングとして、持っていても良いかもしれないけど、
想いが詰まりすぎている。
「 全部、処分しなきゃ ―――・・・ 」
そう呟いて、想い出を全て、
ゴミ箱に捨てた・・・。
私 ・・・
来年、人生で一番、幸せになろうとしているのに、
どうして、こんなに寂しいんだろう。
どうして、こんなに泣いているんだろう。
どうして、あの人を想って、こんなに泣けるんだろう・・・。
本当は、
本当は ・・・
もっともっと、井沢さんと想い出を作りたかった ―――。
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