【167】彼が背負っていたもの | 〈 追 憶 の 向 こ う 側 〉

〈 追 憶 の 向 こ う 側 〉

筆者のリアル体験物語。「社内恋愛」を題材にした私小説をメインに、創作小説、詩を綴っています。忘れられない恋、片思い、裏切り、絶望、裏の顔―― 全てが入った、小説ブログです。


『逢瀬は、プラットホームで。』 ~ epilogue ~



『 みゆさん、嘘をついて いませんよね? 』



その文字を見て、私は固まった。

嘘って、なに?

嘘をついて、私になんの利益があるの?



「 嘘なんて言いません!ここで嘘を言って、何になるんですか。 」


『 そうですよね・・・。すみませんでした。
  ただ、どうしても 信じられなかったもので、聞いてしまったんです。
  しかし、その彼は、そこまで言うからには、
  一般信者ではないですよね?役職とか、聞いたことありませんか? 』


「 はい、聞いたことがあります。×××だそうです。 」



そう打ち込むと、また少し間があって・・・



『 ああ。なるほど・・・ それで、よく解りました。 』


『 ×××だと、活動が大変だったんじゃありませんか?
  私が活動していた頃は、△×という職に就いていましたが、
  それでもハードでしたし、身体を壊してしまいましたから。
  自分はそれが教団を離れるきっかけになったし、
  客観的に見られるようになりましたけどね。 』


「 彼も同じでしたよ。入院もしたし、仕事も辞めてしまいました。 」


『 当時は、活動が一番盛んでしたからね。
  私の周りでも、身体を壊したり、仕事を辞める人は多かった。
  全てを捨てても・・・ということが、普通でしたから。 』



そこで私は、井沢さんが就いていた役職が どういうものなのか、

当時、教団では何があったのかを聞いてみた。



私と井沢さんが知り合った頃、

とある一大イベントが近づいていて、教団中が沸き立っていた。


教団代表の生誕祭。

それに向けて、信者は一丸となり、

新規信者の獲得に必死になっていた。


代表への奉納・・・ そんな感じになるのかな。


新規の信者を獲得するには、信者総出が大原則で、

末端信者を どう動かすかは、上に立つ者次第。


各地の支部で、かなりの差がつくことも多いのだとか。


必要とあれば、時間を問わず 勧誘の応援に

駆けつけるのは勿論・・・

出来ない信者を、スパルタで締上げる幹部も当然いた。



勧誘をして、新しく入信させた人数によって、地位は上がる。

1人、2人・・・とノルマが増えていき、

最終的には数十人~100人以上を入信させて、幹部クラスになれる。

そこまで辿り着くのは、かなり大変なことなんだって・・・。



幹部になるには、勧誘を達成した人数の他にも、

教団に関する教養が必要になるらしくて、

日々の勉強も欠かせないのだそう。

その辺は、井沢さんから聞いた事と一致していた。


幹部になると、個人での勧誘ノルマは勿論あるけど、

支部でのトータル達成数によっても、評価度合が違うらしい。

配下の信者の功績は、自分の功績でもある。


だから、毎日毎日、配下の信者に目を光らせないといけないし、

妥協なんてしていられない。


それに、一大イベントが近づくにつれて、緊迫感がものすごく、

統制や規律などの締め付けが半端なかった。

毎月のノルマに上乗せされるから、信者たちは黙々と

勧誘に明け暮れていた。


それはまるで、呪縛にかかったように・・・。



そんな、常にギリギリの精神状態で、

ごく普通に、当たり前の生活を送れるわけがない。

管理人さんは、当時の自分を振り返るように話してくれた。



「 それでも、あの人は普通の暮らしをしていました。
  そう見えるように、会社では装っていたのかもしれませんが、
  私には、普通の人に見えたし、普通に接していました。 」



当時、井沢さんから、教団内部のことを詳しく聞いたことが無かった。

管理人さんから聞く話の殆どが、初めて聞くことばかりだったし、

それでも、彼の疲労度合などを見ていれば、

聞いたことも全て納得がいく。


けど、井沢さんは、私には普通の人でいてくれた。

好きな人だから、心情としても贔屓が入っているだろうけど、

少し、反論をしたかった。

だから、つい、そんなことを言ってしまった。



「 管理人さん。すみませんが・・・
  少し、私の話を聞いて貰えますか? 」


『 勿論です。話したいことを、全て話してください。 』



聞いた私に、管理人さんは頷いてくれた。

私は、打ち始める前から、涙がこぼれて止まらなかった。


だって、井沢さんとのことは、普通の人に話しても、

解って貰えないから。

同じ教団に在籍していて、彼に近い地位までいたという人なら、

きっと解ってくれる、何かを教えてくれる。

そう思ったから。



これまで、友達にしか話さなかったこと、

友達にさえ言わなかったこと、

井沢さんと、あんなことやこんなことがあった・・・と、

堰を切ったように、タイピングをしていった。




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