『逢瀬は、プラットホームで。』 ~ epilogue ~
『 みゆさん、嘘をついて いませんよね? 』
その文字を見て、私は固まった。
嘘って、なに?
嘘をついて、私になんの利益があるの?
「 嘘なんて言いません!ここで嘘を言って、何になるんですか。 」
『 そうですよね・・・。すみませんでした。
ただ、どうしても 信じられなかったもので、聞いてしまったんです。
しかし、その彼は、そこまで言うからには、
一般信者ではないですよね?役職とか、聞いたことありませんか? 』
「 はい、聞いたことがあります。×××だそうです。 」
そう打ち込むと、また少し間があって・・・
『 ああ。なるほど・・・ それで、よく解りました。 』
『 ×××だと、活動が大変だったんじゃありませんか?
私が活動していた頃は、△×という職に就いていましたが、
それでもハードでしたし、身体を壊してしまいましたから。
自分はそれが教団を離れるきっかけになったし、
客観的に見られるようになりましたけどね。 』
「 彼も同じでしたよ。入院もしたし、仕事も辞めてしまいました。 」
『 当時は、活動が一番盛んでしたからね。
私の周りでも、身体を壊したり、仕事を辞める人は多かった。
全てを捨てても・・・ということが、普通でしたから。 』
そこで私は、井沢さんが就いていた役職が どういうものなのか、
当時、教団では何があったのかを聞いてみた。
私と井沢さんが知り合った頃、
とある一大イベントが近づいていて、教団中が沸き立っていた。
教団代表の生誕祭。
それに向けて、信者は一丸となり、
新規信者の獲得に必死になっていた。
代表への奉納・・・ そんな感じになるのかな。
新規の信者を獲得するには、信者総出が大原則で、
末端信者を どう動かすかは、上に立つ者次第。
各地の支部で、かなりの差がつくことも多いのだとか。
必要とあれば、時間を問わず 勧誘の応援に
駆けつけるのは勿論・・・
出来ない信者を、スパルタで締上げる幹部も当然いた。
勧誘をして、新しく入信させた人数によって、地位は上がる。
1人、2人・・・とノルマが増えていき、
最終的には数十人~100人以上を入信させて、幹部クラスになれる。
そこまで辿り着くのは、かなり大変なことなんだって・・・。
幹部になるには、勧誘を達成した人数の他にも、
教団に関する教養が必要になるらしくて、
日々の勉強も欠かせないのだそう。
その辺は、井沢さんから聞いた事と一致していた。
幹部になると、個人での勧誘ノルマは勿論あるけど、
支部でのトータル達成数によっても、評価度合が違うらしい。
配下の信者の功績は、自分の功績でもある。
だから、毎日毎日、配下の信者に目を光らせないといけないし、
妥協なんてしていられない。
それに、一大イベントが近づくにつれて、緊迫感がものすごく、
統制や規律などの締め付けが半端なかった。
毎月のノルマに上乗せされるから、信者たちは黙々と
勧誘に明け暮れていた。
それはまるで、呪縛にかかったように・・・。
そんな、常にギリギリの精神状態で、
ごく普通に、当たり前の生活を送れるわけがない。
管理人さんは、当時の自分を振り返るように話してくれた。
「 それでも、あの人は普通の暮らしをしていました。
そう見えるように、会社では装っていたのかもしれませんが、
私には、普通の人に見えたし、普通に接していました。 」
当時、井沢さんから、教団内部のことを詳しく聞いたことが無かった。
管理人さんから聞く話の殆どが、初めて聞くことばかりだったし、
それでも、彼の疲労度合などを見ていれば、
聞いたことも全て納得がいく。
けど、井沢さんは、私には普通の人でいてくれた。
好きな人だから、心情としても贔屓が入っているだろうけど、
少し、反論をしたかった。
だから、つい、そんなことを言ってしまった。
「 管理人さん。すみませんが・・・
少し、私の話を聞いて貰えますか? 」
『 勿論です。話したいことを、全て話してください。 』
聞いた私に、管理人さんは頷いてくれた。
私は、打ち始める前から、涙がこぼれて止まらなかった。
だって、井沢さんとのことは、普通の人に話しても、
解って貰えないから。
同じ教団に在籍していて、彼に近い地位までいたという人なら、
きっと解ってくれる、何かを教えてくれる。
そう思ったから。
これまで、友達にしか話さなかったこと、
友達にさえ言わなかったこと、
井沢さんと、あんなことやこんなことがあった・・・と、
堰を切ったように、タイピングをしていった。
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