『逢瀬は、プラットホームで。』 ~ epilogue ~
管理人さんとのチャットを約束した。
日にちや時間などを、何度かメールでやり取りをして、
互いの都合の良い時間帯で調整する。
管理人さんも、昼間は普通に勤めている人だから、
仕事が終わる、夕方頃からに決まる。
メールでも、終始穏やかな印象の人で、
緊張感もいくらかは薄れていた。
決められた日、時間を間違えないように確認して、
サイトのチャットに入室した。
私は、ほぼ時間通りに入室したけれど、
管理人さんは既に入室していて、私を待っていた。
『 こんにちは 』
すぐに反応があってビックリ!
私は、おぼつかない指先で、挨拶を入力していく。
事前に、入力が遅いと伝えているけど、
待たせたら悪いと思えば思うほど、指先が動いてくれない。
「 こんにちは。今日は、よろしくお願いします。 」
それだけを打ち込むのに、一苦労していた。
私の打ち込みが、思ったよりも遅かったのか、
管理人さんは、すぐにこう返してきた。
『 慌てなくていいですよ。ゆっくり入力してください。 』
「 はい。ありがとうございます。 」
あまりに速いレスポンスに驚きながらも、お礼を伝える。
( とりあえず、自分が聞きたい、伝えたいことを簡潔に纏めよう )
気持ちを落ち着けるように、ふうっと息を吐き出す。
管理人さんからのレスは 本当に早くて、
長文でも程よく区切って 画面にパパッと映し出された。
『 みゆさんは、脱会されてからは一度も教会に行ったり、
信者から連絡が来たりしたことは、無いんですか? 』
「 はい。行ったことも、連絡も一度もありません。 」
『 そうですか。友達と××(別の宗教団体)のアドバイスで、
脱会できたそうですが、そちらからの勧誘はありましたか? 』
「 いいえ。具体的な勧誘はありません。"遊びにおいで" とは
言われましたけど、しつこくされたことは無いです。 」
『 そうですか。そういう場合、普通なら誘われるところですが、
無かったんですね。 あの団体は、○×(脱会した教団)から
信者を脱会させることに力を入れているから、
"抜けたらこっちにおいで"と なることが多いんですよ。
良い友達を持ちましたね。 』
「 ありがとうございます。彼女は、今でも大切な友達なので、
そう言って貰えて嬉しいです。 」
脱会について、色々と助けてもらった まっちゃんには、
今でも感謝している。
第三者から、友達を褒められると やっぱり嬉しい。
そういったやり取りが続いて、話の流れは少しずつ、
井沢さんへと近づいた。
『 みゆさんを勧誘した人について、聞かせてください。
好きな人だそうですが、その彼とはどういう繋がりですか? 』
「 職場の同僚でした。私の先輩になります。 」
『 なるほど。では、毎日会う、身近な人だったんですね。
その彼に告白してから、勧誘されたんでしたよね?
つらい思いをしましたね。 』
「 そうですね。その時は、とてもショックでした。
利用されたと思いましたから。 」
『 色恋勧誘は、割とよく聞きます。
男女問わず、勧誘道具で使う人は多いですよ。
中には、身体を使う人もいますからね。
新規の信者を増やすことに、みんな必死なんですよ。 』
「 やっぱり、色恋ですよね。私は認めたくなくて、
ずっと "違う" って思ってきたけど、タイミングとしても、
それしか考えられないですよね。 」
ここまで話をしてみて、私は今更ながら、過去の事に諦めを感じた。
悲しくなってきて、キーボードを叩く指も重くなる。
『 以前いただいたメールで、少し気になったことがありました。
勧誘活動や、献金をしたことがないそうですが・・・? 』
「 はい。それは本当です。何も言われなかったので、
一度もやったことは無いです。言われても、断ったと思います。 」
『 紹介者の彼から、何か言われたり 脅されたりとか、
そういうことはありませんでしたか? 』
「 いいえ。一度もないです。 」
『 本当に?一度もないんですか? 』
「 はい。本当ですよ。今、嘘をついても意味がないですから。 」
『 そういえば、暴力とか嫌がらせが問題になっていることを、
信じられないと言われていましたよね? 』
「 そうなんです。今、管理人さんも言われていましたけど、
一度もないので・・・。だから、あちこちで言われていることも、
全然信じられないんです。 」
『 みゆさんとお話をしてみたいと思ったのは、そこなんです。
平和的に解決した人を、これまで聞いたことがなかったから、
とても興味を持ちました。 』
まるで、珍しい物を見つけたとでも言うような、管理人さん。
そう言われて、何と返せば良いのか、私は手を止めて考える。
・・・ が、管理人さんが、続けて入力をしてきた。
『 脱会することは、彼に伝えていないんですか? 』
「 それは勿論、伝えました。 それから・・・
集会に参加するようにって、私が所属するグループの人が、
何度も家に来たり、毎日のように電話を掛けてこられて
困っていることも伝えました。 」
『 うん。押しかけたり、執拗に電話をするのは当たり前の所だからね。
それで、何かいわれましたか?怒られた? 』
「 いいえ。 "俺に任せろ" って。そう言われただけでした。
それからは、家に来られることも、電話もなくなって・・・ 」
そこまで打つと、管理人さんの反応が無くなった。
というか、大きな間が空いた。
少し待ってから、
画面には、こんな一文が映し出された。
『 相談してくれた人に、言って良いのか迷うけど、、、
みゆさん、嘘をついて いませんよね? 』
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