「朝の並木路」(1936年)
成瀬巳喜男:監督
出演:千葉早智子、大川平八郎
Youtubeで観る。

~あらすじ~
都会に憧れて田舎から上京してきた千葉早智子。
仕事は見つからずカフェの女給に。
純粋な田舎娘だった千葉早智子も世間に揉まれる。
客である大川平八郎に恋をして二人は相思相愛になりそうだったが。。
~感想~
面白かった!
成瀬監督の千葉早智子主演作はどれも名作で
「妻よ薔薇のように」が一番好きでしたが
いやーこの「朝の並木路」も仲々いいですね。
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最近、自分の中で「千葉早智子祭り」を勝手に開催していて
Youtubeで探しては、毎晩、再鑑賞していたのですが
「朝の並木路」もいいですね。
さすが成瀬監督
ちょっとした失恋話しだけど
成瀬監督の手にかかると
上映時間は夢のように過ぎてたっぷり楽しませてもらいました。
セリフ運び、カメラワーク、場面引継ぎ、デンポ、すべてが良い。
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今回は 赤木蘭子という女優が私の中で大きな発見でした。
私この人の映画初めて観たのかな。

とにかく
セリフが、演技に聴こえない!!
本当に生活に疲れたカフェの女給をドキュメンタリー映画のように見せてくれました。
凄い演技力の女優さんですね。
恐らく他の役者さんが同じセリフを言っても、この人ほど説得力は出ないでしょう。
ある意味、この人のお陰で、この映画はグッと深みを増したと思う。
赤木蘭子は千葉早智子の同郷の友人。
千葉早智子は丸の内のオフィスで立派に働いてるはずの赤木蘭子を頼りに上京してきた。
ところが赤木蘭子はカフェで女給をしていた。
しかも赤木蘭子の彼氏はダメンズで、貧しい赤木蘭子から金をせびってばかりいる。
お汁粉屋での赤木蘭子と千葉早智子の会話。

赤木蘭子
あたし。。うちへもアンタにも内緒にして悪いと思ったんだけど
女給なんかなるつもりはなかったのよ。
でも田舎から出てきて、
おいそれといい仕事なんか見つかりゃしなかったわ。
随分、探し歩いたんだけど。
千葉早智子
仕事ってそんなにないもんなの?
赤木蘭子
田舎から出てきた人間なんかわざわざ使わなくたって
東京で働きたくって困ってる人間がうじゃうじゃいるんだからね
千葉早智子
そう。。。
(千葉は下を向く。ここで赤木、煙草に火をつける。千葉との対比。)
赤木蘭子
駄目ね、こうなったら。
食べなきゃ困るし、一時凌ぎにこんなことするようになったけど、
抜けらんないのね。。
千葉早智子
女給さんて、お金になるの?
赤木蘭子
ならいいんだけど、惨めなもの。
でもお陰様でいろんなこと知ったわ。
ずいぶん。。。
(鏡(窓?)で、自分の顔を見ながら
(震えるような声で)
変わったでしょう?
(気を取り直したように)しゅうちゃん、なんか
早く田舎で結婚した方がいいと思うんだけど。
千葉早智子
でも私、田舎は嫌なの
うちだって楽じゃないんだし、
それに兄さんがお嫁さんでも貰えば
どうせ邪魔な人間になるんだし。
同じ貧乏暮らしするなら東京でやってきたいの。
でもそんなに仕事がないんじゃ。。
赤木蘭子
まだ がっかりすることないわ
まるきり仕事が無いってんじゃないんだから
探してごらんなさい ね?
千葉早智子
ええ
赤木蘭子
しばらく私のとこに泊まるといいわ。
頼んであげるから。
うーん素晴らしい。
この短いセリフのなかで赤木蘭子は、
運命から抜け出そうと藻掻く人間の無力さ・強さ、を見事に表現しています。
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もちろん、千葉早智子も素晴らしい。
全編魅力的ですが、あえて2つあげると
1つ目は、
千葉早智子が、カフェから出て、夜ひとり月の下で散歩しながら「旅愁」を歌うシーン。
更け行く秋の夜(よ) 旅の空の
わびしき思いに 一人悩む
恋しや故郷(ふるさと) 懐かし父母(ちちはは)
夢路にたどるは 故郷(さと)の家路

NHKの「歌のお姉さん」のように清らかな声で歌います。
ここいいですねぇ。
千葉早智子が、この唱歌を歌うと、まるでマリア様のよう。
対比するように、ぐでんぐでんに酔っ払っている男二人組が登場。
男達は、美しい千葉早智子を見て「よう姉さん、付き合わないか」と口説きにかかります。
びっくりした千葉早智子は、歌をやめて慌てて逃げ出します。振り返りながら。
この時の千葉早智子がかわいい。
やがて東京で女給として働き続ければ、千葉早智子も又他の女給と同様に
酔っ払い男を上手にあしらう日が来るのでしょうか。。。
もうひとつは
千葉早智子も女給となり、お店で深酒をして
客からそっと離れ、ひとり鏡の前で「ふー」と頬っぺたを膨らませるシーン。
私には胸キュン(死語)でした。
千葉早智子なんと可愛らしい。
成瀬監督は実際、このあと千葉早智子と結婚したくらいだから、彼女の良さを誰よりもわかってたんでしょうね。

私も若い頃、接待・接待でお客さんとお姉ちゃんのいるお店をよく飲み歩いた時期がありまして
こっそりトイレの鏡の前で「ふー」と深呼吸して
「酔うな酔うなしっかりしろ、仕事だぞ、家族を思い出せ」
と自分に言い聞かせて頑張ったもんでした。
酔うとスケベで意地悪なお客さん(お役人)がいてつらかったなー。
そういう時、ホステスさんには随分助けてもらいました。
昔の話しです。
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新婚旅行を夢に見るほど好きだった大川平八郎に振られる千葉早智子。
私もショックでした。
(しかも別れ際に、まだ可能性があるようなそぶりを千葉早智子に見せる大川平八郎。
この演出が心にくい。
すっかり千葉早智子の視点で映画を観てる私の心はグラングラン揺さぶられました)
大川平八郎に捨てられた後も明るくふるまう千葉早智子(健気なんだよね~)
メモ紙が河に浮かんでることで
我々観客は、千葉早智子が大川に貰った連絡先のメモをみずから河へ捨てた事を知る。
ああ、このシーンもいい。
セリフが無いのがいい。
この映画は
恋物語なんですが
同時に一人の女性の別れと成長物語でもあるんですね。
「それでも ここで、生きてゆく」という決意宣言というか。
いやー良い小品でした。
がんばれ早智子さん
拙者も頑張るよー
という気にさせてくれた映画でした。
~JustLikeWomanの評価~
★★★★★ 星5っつです。
私の好きな成瀬監督作品群
みんな面白かったなあ。。でもこの中で一番好きなのは「驟雨」です。
映画よ今夜もありがとう