“笑顔がある”在宅生活への一歩
呼吸器をつけた今も、僕は不自由さを感じることなく、自分らしく在宅で暮らしています。こうした生活の質を、気がつけば25年以上も保ち続けることができている。それは、決して偶然ではありません。とても早い段階からヘルパーさんの力を借り、妻ひとりに介護のすべてを背負わせない選択をしたこと。そして妻が、その時々の僕の身体の変化に合わせて、生活環境を整え、改善し、工夫を重ねてくれたこと。この二つが重なり合って、今の暮らしが形づくられてきたのだと思っています。ここで、ひとつ誤解のないようにお伝えしたいことがあります。「家族介護を減らす」ということは、家族の愛情を減らすことではありません。むしろ、介護の負担が軽くなることで、家族はより広い視野で関われるようになります。生活全体を見渡し、環境を整え、将来を考え、本人を支える“司令塔”のような役割を果たせる。そこにこそ、家族だからこそできる大切な存在意義があると、僕は今、はっきり思っています。とは言うものの、僕がヘルパーさんを受け入れるまでの道のりは、決して平坦ではありませんでした。当時の僕は、「他人の世話なんて受けられるか!」という思いを強く抱いていました。妻以外の人に介護してもらうなど、想像すらしていなかったのです。妻もその気持ちをよく分かっていたので、どんなに疲れていても、文句ひとつ言わず献身的に介護してくれていました。もし、それが永遠に続くのなら、何の問題も起きなかったかもしれません。けれど現実は違いました。仕事、家事、介護。途切れることのない忙しさの中で、妻の心から、少しずつ余裕が消えていったのです。もともと明るかった妻の顔から、笑顔が消えていくのを見るのは、本当につらかった。さらに、母親として向き合ってほしい年頃の娘にも、変化が表れ始めました。いつの間にか、家の中から笑顔がなくなっていました。僕は毎日のように、「どうして、こんな病気になったんだ」と自分を責めていました。進行していく体が、残酷なほどはっきりと教えてくれました。この病気を、妻ひとりで支えきれるはずがない、と。頭の中では、「でも、妻しかいない」「しかし、このままでいいのだろうか」「いや、いいはずがない」「でも、どうしたらいいのか分からない……」そんな思いが、ぐるぐると回り続けていました。まさに八方ふさがりの状態でした。そんなある日、新聞の広告に目が留まりました。そこには、妻と同じようなことをしているヘルパーさんの写真が載っていました。その瞬間、ふと、こんな思いが浮かんだのです。「もしかしたら、これで妻の顔に、もう一度笑顔が戻るかもしれない」僕は意を決して、そっと妻に言いました。「試しに、利用してみようか……」すると妻は、少し考えてから、「合わなかったら、無理しないでやめようね」と答えてくれました。妻自身も、家の中を切り盛りしてきた立場として、他人が入ってくることに戸惑いがあったのだと思います。正直に言えば、僕も自信はありませんでした。できることなら、このまま妻に世話をしてもらいたい。そんな気持ちが、心の奥底に残っていたのです。だから、僕も妻も、最初からヘルパーさんをすんなり受け入れられたわけではありません。それでもたった十日ほどで、僕はそのヘルパーさんに心を開いていました。さりげない気遣い。僕に合わせた食事介助。距離感の取り方。「介護する・される」を超えた、人としての関わり。妻も相性が良かったのか、少しずつ、自然に調理などもバトンを渡すようになっていきました。ヘルパーさんを利用したことで、妻の介護負担が減っただけではありません。家の空気が変わり、会話が戻り、笑顔が少しずつ戻ってきました。何より、僕自身の気持ちが、驚くほど軽くなったのです。今になって振り返ると、あのとき、新聞広告を見て一歩踏み出したことが、在宅生活の大きな転機でした。もしあのまま、「家族だけで何とかしよう」「他人に迷惑はかけたくない」そう言い続けていたら。間違いなく、今の在宅生活は実現できなかったでしょう。“笑顔がある在宅生活”への一歩は、派手な決断ではありませんでした。新聞の小さな広告をきっかけに、「試しに利用してみようか?」と、僕がそっと口にした、たった一言から始まりました。家族だけで頑張り続けることが「美徳」に見えるときもあります。でも、誰かの手を借りることは、決して弱さではありません。家族の笑顔を守りながら、自分らしい暮らしを続けるための、大事な戦略のひとつだと、僕は今は胸を張って言えます。ただ、理解者がまだ少数派。こっちは本気なのに、世の中の反応がのんびりすぎる(笑)◆自己紹介ALS生活31年の会社経営者です。皆さんからゲンゾウさんと呼ばれています。ALS患者の在宅の楽しさや、困らない生き方など書いています。書籍は下のURLをクリック。フォロー、お待ちしています!https://books.rakuten.co.jp/search?g=101&maker=%E4%B8%AD%E9%87%8E%E7%8E%84%E4%B8%89&x=33&y=5◆ALS生活約31年! 中野玄三のYoutube情報チャンネルALS生活約31年! 中野玄三のYoutube情報チャンネルALS患者。ALS生活31年の経験を持つ会社経営者です。 皆さんからゲンゾウさんと呼ばれています。 ALS患者の在宅生活の楽しさや ALSでも困らない生き方について書いています。 フォロー、お待ちしています! もし大切な人がALSになったら、この乗り越え方を教えます。ALS患者の様々な問題の解決方法については、僕の体験を通して電子書籍に書いています。 電子書…www.youtube.com