女子プロレス界の新団体・マリーゴールドがついにベールを脱いだ。

 

5月20日、後楽園ホールで開催された旗揚げ戦のチケットは完売。

1539人(札止め)という大観衆を集め、取材陣の数も凄まじいばかり。

 

後楽園ホールで初めてミラーボールによる演出が駆使されるなど、

華やかな演出面もふくめ、オープニングから会場全体が熱気に包まれた。

 

 

             ©マリーゴールド

 

まず練習生4名が紹介されてから、

所属13選手が背番号付きのジャージ姿でリングイン。

 

最後に入場したジュリアは感無量の面持ち。

代表して林下詩美が、「覚悟」を込めた挨拶。

 

 

                   ©マリーゴールド

 

つづいて、ロッシー小川代表がリングに上がり、

赤と白の新設されるチャンピオンベルトを披露した。

 

赤=マリーゴールド・ワールド選手権。

白=マリーゴールド・ユナイテッド・ナショナル選手権。

 

昭和の女子プロレス界からの生き字引である小川氏の信念に揺るぎなし。

赤と白は、全日本女子、スターダムと引き継がれてきた伝統の証でもある。

 

試合は、全6戦。

 

大会終了後に、小川代表はこんな総括を残している。

 

「全体的に激しい試合が続いたかなって。

これがマリーゴールドの試合なのかまだわからないですけど。

激しいのもあっていいんですけど、今日はそれに特化しちゃったかなみたいな。

それだけ力が入ってたってことですよ、旗揚げってことで」

 

そのコメントが大会のすべてを象徴しているなと感じた。

 

そう、激しかった。

全6試合、選手たちはすべてを出し尽くそうとしていた。

 

試合の結果はどうあれ、観客のボルテージと

リング上の熱気と闘志が一体化していたのだ。

 

第1試合では、高橋奈七永がビクトリア弓月の全力を受け止めた。

すべてを受けたうえで、冷蔵庫爆弾で叩き潰している。

 

第2試合の青野未来vs石川奈青には未来が見えた。

しかも、至って近い将来の未来である。

 

 

             ©マリーゴールド

 

アクトレスガールズの絶対的エースであった青野は予想以上の選手。

両者とも意地を張り合いながらも、緩急の利いたプロレスを披露する。

ハイスパート、ハイスパートの多い最近の女子プロでは珍しい展開。

 

そこで際立ったのは、青野の打撃…とくに蹴りのテクニック。

石川の逆足にカーフキックを打ちこむなど高度なスキルを見せる。

 

最後は、スタミナ充分の青野が得意のスタイルズクラッシュで決めた。

緩急のある試合運びの巧みさ、蹴りの技術、そして何よりもルックスの良さ。

 

この選手はもっと進化していくだろうし、

ごく近い将来のチャンピオン候補といっていい。

 

 

             ©マリーゴールド

 

第3試合は、MIRAIvsCHIAKIのシングル戦。

今大会のみ紙テープの投げ入れOKとなったが、

MIRAIカラーのブルーとシルバーの紙テープの量は圧倒的。

 

試合でも、元ワンダー・オブ・スターダム王者としての強さを発揮した。

元アクトレスガールズのCHIAKIのプロレスキャリアは実質1カ月ほど。

それでも全力で向かっていったが、やはりMIRAIには余裕がある。

 

最後は、痛烈なラリアットを叩き込んで力量差を見せつけた。

 

第4試合は、桜井麻衣&ゼイダ・スティールvs野崎渚&マイラ・グレース。

5・4ノア両国国技館大会でのノア女子vsマリーゴールドの8人タッグ戦で、

試合後にジュリアに迫る野崎に対し、そこに割って入り宣戦布告したのが桜井。

 

その因縁対決となった。

ただし、ともにタッグパートナーが初来日の

外国人選手ということもあってか、

なかなか試合が噛み合っていかない。

 

ようやく桜井vs野崎に火が点いたところで15分タイムアップのドロー。

おそらく両選手とも不完全燃焼だったと思う。

やはりシングルでの決着戦に期待したいところだ。

 

セミファイナルはある意味、実験的なカードだった。

天麗皇希&後藤智香vs翔月なつみ&松井珠紗。

元アクトレスガールズ同士のタッグマッチ。

 

はたして、元アクトレスガールズの4選手が

セミファイナルという大任を全うすることができるのか?

 

その答えは、実験カード大成功!

 

翔月はスターダム3期生であり、デビュー戦の相手が紫雷イオ(イヨ・スカイ)。

さらに宝城カイリ(カイリ・セイン)とのコンビで

ゴッデス・オブ・スターダム王座を戴冠した実績もある。

 

スターダム退団後、紆余曲折を経ながらもふたたびプロレス復帰を果たした。

松井も2018年デビューだからキャリアはあるし、スピードには定評がある。

 

対する皇希&後藤のロイヤルツインタワーは、ともに170㎝オーバー。

とくに、バランスのいい体格で身体能力の高い皇希はスター候補と目されている。

 

圧倒的な体格に対するは、スピード勝負。

試合は予想以上に白熱した。

 

 

             ©マリーゴールド

 

後藤が翔月を捉えたジャイアントスイングは、

相手の太腿付近まで抱えてぶん回すから軸がぶれることなくド迫力。

 

 

             ©マリーゴールド

 

それでも機動力で対抗していく翔月&松井。

そこで、ツインタワーによる合体リフトアップスラム。

パワーvs機動力の攻防がじつにおもしろい。

初めて見たであろう観客からどよめきと拍手が起こる。

 

 

             ©マリーゴールド

 

勝負を決めたのは皇希だった。

2人まとめてのバックドロップからトップロープへ。

松井を目がけアメジストバタフライ(旋回式ダイビングボディプレス)を見事に決めた。

 

キャリア2年とはいっても、実質プロレス経験は浅い。

ツインタワー……とくに天麗皇希は試合経験を積んでいけば、

必ずやトップ戦線に踊り出る逸材だろう。

 

会場が最高の空気感につつまれるなかメインイベントへ。

ジュリア&林下詩美vsSareee&ボジラのマッチアップ。

 

いうまでもなく、ジュリアと詩美はマリーゴールドのツートップ。

じつに3年半ぶりとなる2度目のタッグ結成である。

 

しかも、4年余も同じスターダムのリングにいながらにして、

シングルでは未対決という数奇な運命をたどってきた間柄。

 

対するSareeeは、ジュリアにとって特別な存在だ。

アイスリボン時代のジュリアは、

3人の先輩選手とシングルマッチで闘うことによって、

ある意味プロレスに開眼し急成長することができた。

 

その相手が、安納サオリ、山下りな、そしてSareeeだった。

互いに再戦を望んでいた2人が5年ぶりにリングで対峙する。

 

ドイツから初来日したボジラはとにかくデカイ。

キャリア2年でまだ20歳ながら、公称181㎝、91㎏という怪物。

だが、実際リングに上がってみると、もっと大きく見える。

 

父はECWで活躍した元レスラーのウルフ・ヘルマン。

師匠は第2代ワールド・オブ・スターダム王者にもなった

アルファ・フィーメルだから、サラブレッドといえるのかもしれない。

 

いやいや、今年1月まで半年間スターダムマットを席捲した

メーガン・ベーンより大きいのだから、やはり怪獣だろう。

 

序盤からボジラが大爆発した。

ジュリア、詩美をぶっ飛ばしブン投げる。

 

             ©マリーゴールド

 

開始から3分余、ジュリアがボジラを蜘蛛の巣に捕獲した。

ところが、圧倒的パワーでそれを解くと肩口まで持ち上げる。

それを見た詩美がボジラヘボディアタックを仕掛ける。

 

しかし、その詩美をキャッチしたボジラは

2人まとめて後方へ放り投げた。

 

最近ではメーガン・ベーン、男子ではマイケル・エルガンが

よく披露していた規格外のパワーを見せつけたのだ。

 

じつは、このときすでにアクシデントが起こっていた。

ジュリアが右手首を骨折していたのだ。

 

 

             ©マリーゴールド

 

 

場外へ転落した2人を目がけSareeeをリフトアップすると、

高角度プランチャの要領で投げつける。

 

あっという間にボジラは観客の心を鷲づかみにしてみせた。

脅威のパワーに館内は盛大な「ボジラ」コールに包まれる。

まるで、オンナ版ベイダーか、オンナ版ハンセンといった趣き。

 

場外でダウンしていたジュリアは右手首に異変を感じすぐに処置を施した。

右腕に装着していたアームカバーをはずし、手首にグルグルとテーピング。

ふたたびアームカバーを装着してリングに戻ってきた。

 

 

             ©マリーゴールド

 

このまま試合が進めば、ボジラの独り舞台、独壇場となる。

ここで詩美が大奮闘した。

ジュリアとの連携、合体、さらに身体を張ってボジラの突進を止める。

 

リング上で、ジュリアとSareeeが真っ向勝負。

火の出るようなエルボー合戦へ。

途中、ジュリアが右腕のアームカバーをはずし投げ捨てた。

 

「手首の痛みと熱っぽいっ感じがキツくて、はずしてしまったんです」

 

あとで、そう語っている。

 

             ©マリーゴールド

 

おそらく、ほとんどの観客はそこに気づかなかったと思う。

ただ、時おり右手首を気にする様子、

手首をダラリとさせながらも全力でエルボーを打ちこむ姿を観て、

ジュリアが相当厳しい事態に陥っているのは想像できた。

 

それでも闘いは止まらないし、攻防は激化する一方だった。

Sareeeが雪崩式フィッシャーマンズバスターを決めれば、

ジュリアも雪崩式ダブルアームスープレックス。

 

Sareeeがジャーマンスープレックスを放てば、

ジュリアはバックドロップ。

 

25分が経過して、一進一退。

 

怪獣ボジラという抜きん出た存在がいながらにして、

このタッグマッチは試合として成立しているどころか、

あまりに激しく、噛み合っているのだから凄まじいばかり。

 

だが、詩美のフォローもここまでだった。

ジュリアが摑まり集中攻撃を受ける。

 

 

             ©マリーゴールド

 

 

Sareeeの裏投げ3連発を食らっても意地でキックアウト。

しかし、ダウンしたジュリアに向かってセカンドロープから怪獣が飛ぶ。

90㎏超えのウェートを乗せたムーンサルトプレス炸裂。

 

トドメは、Sareeeのリストクラッチ式裏投げ。

28分06秒、3カウントが入りジュリアが沈んだ。

 

 

             ©マリーゴールド

 

敗れたジュリアはSareeeにマリーゴールドへの定期参戦をリクエスト。

Sareeeがそれに応じると、さらにジュリアは一騎打ちを要求。

 

場内ビジョンでは、7・13両国国技館大会の開催が発表された。

翌日、ジュリアvsSareeeの両国一騎打ちが早くもアナウンスされている。

 

メイン終了後、報道陣に囲まれたロッシー小川代表が総括をしている間、

ジュリアと詩美は階段に座って、コメント待ちをしていた。

 

ジュリアは右手首をアイシングバッグで冷やしていた。

その右腕を見せてもらったのだが、驚いた。

 

手首からヒジ付近まで青紫色に変色し、

尋常ではないほどに腫れ上がっている。

 

「はい、2人まとめて投げられたときですね。

受身をとる以前にそのままボジラが乗っかってきて…

手首が後ろ側に曲がってビチっていう音が聞こえたんです」

 

 

 

それでも、ジュリアは気丈にコメントを残した。

最後まで、怪我云々はいっさい口にしなかった。

 

翌日、ジュリアは都内の病院で検査を受けた。

結果は、右橈骨遠位端骨折と診断された。

 

橈骨とは、手首からヒジに直結している親指側の太い骨。

尺骨というのが、手首から少し離れヒジまで伸びている

小指側にある細い骨のこと。

 

プロレスラーや格闘家は、

尺骨骨折する場合が多々ある。

 

相手の蹴りなどをブロックした際に折れてしまうケースだ。

 

橈骨骨折は高齢者や子どもなどが負う場合が多い。

転倒した際に手を付いて、手首に全体重が乗って折れてしまう。

とくに、女性高齢者に多い怪我だといわれている。

 

あとから写真で確認してみると、よくわかった。

投げるというより、ボジラはそのままジュリアの上に落下している。

右ヒジをついた状態のジュリアの手の平に全体重が乗っているのだ。

 

「尺骨ならともかく、橈骨を骨折したら普通は痛くて動けませんよ」

 

担当医からはそう言われ、呆れられたという。

そんな状態で観客に気づかれることもなく、

骨折したまま24分以上も闘っていたということ。

 

いくらアドレナリンが出ていたといっても、

通常ならドクターストップでもおかしくはない状態であったのだ。

 

橈骨遠位端骨折は、全治2~3ヵ月とも言われる。

現在のところジュリアは右手首をプレートで固定し、

ヒジまでギプスを装着している状態で、

患部に超音波治療を受けているという。

 

「絶対に両国に間に合うように復帰します!」

 

その覚悟は変わらない。

 

もし仮に手術に踏み切れば、

全治1カ月半~2カ月ともいわれている。

 

そこはもう、ジュリアと医師、会社サイドの判断だろう。

 

大成功の旗揚げ戦と同時に大きな試練を迎えてしまった

ジュリアとマリーゴールド。

それでもジュリアは全試合に帯同する予定。

 

鋼のメンタルを持つオンナ。

ジュリアの復帰はいつになるのか?

 

7・13両国国技館の大舞台に堂々と立っているのか?

 

 

神は乗り越えられる試練しか与えない

          (新約聖書より)

 

 

見守る側も覚悟し、それを信じて、

待っていようではないか!