大盛況で幕を閉じた新日本プロレスの10・14両国国技館大会を

今回も新日本プロレス・オフィシャルスマホサイトにて総括。

 

今大会で最大のサプライズは、第6試合終了後に起こった。

『棚橋弘至デビュー25周年記念試合』と銘打って行なわれた

棚橋&海野翔太&エル・ファンタズモvsEVIL&高橋裕二郎&金丸義信。

 

例によってH.O.Tのセコンドとしてディック東郷も介入するなか、

海野とファンタズモが3選手を場外へ排除している間に棚橋が躍動。

 

スリングブレイドからハイフライフローのフルコースを決め、

裕二郎から3カウントを奪いハッピーエンドと相成った。

 

ところが、その後マイクを持った棚橋が爆弾発言。

 

「棚橋のゴールを決めました。

2026年1月4日、だからあと1年2ヵ月あります!

あと1年2ヵ月、全力で走りますんで、

新日本プロレスをよろしくお願いいたします!」

 

最初は、「エー!?」、「辞めないでくれ!」など、

客席から驚きと悲痛な叫び声が飛び交った。

 

ただし、棚橋の決めたゴールが再来年だと分かったこと、

また当の棚橋が笑みを浮かべ覚悟を語ったことで、

観客の発する声も大歓声へと変わった。

 

昨年12月23日、棚橋が新日本の代表取締役社長に就任した時点で、

そう遠くない将来にその日がやってくるであろうことは、

ファンもマスコミも予感していたからである。

 

ひとまず、安心。

もしゴールが来年早々の1・4東京ドームだとしたら、

会場はパニック状態に陥ったかもしれない。

 

 

バックヤードでも棚橋は笑顔を絶やすことがなかった。

囲み取材を終えて、立ち去ろうとする棚橋と視線が合った。

 

私が笑顔で頷くと、棚橋も笑みを浮かべ大きく頷いてくれた。

手前みそになるが、これだけで意思の疎通ができる関係だと思っている。

 

1999年10月10日、棚橋は後楽園ホールでデビューした。

その日のことも、ハッキリと記憶している。

 

じつは翌11日に新日本は東京ドーム大会を開催している。

セミのカードは武藤敬司vs中西学のIWGPヘビー級選手権。

同年の『G1』優勝戦で武藤を破り初優勝を達成した中西が、

その実績を持って王者・武藤に挑んだ一戦だった。

 

メインイベントは、小川直也vs橋本真也のNWA世界ヘビー級選手権。

同年の1・4東京ドームで小川の暴走ファイトによって、

最強神話を崩された橋本のリベンジマッチであった。

 

新日本が時代の節目を迎えつつあるなかで、

棚橋はプロとしての第一歩を踏み出したのだ。

 

また、同日には柴田勝頼と井上亘もデビュー戦対決を行なっている。

棚橋は、3年先輩にあたる真壁伸也(現・刀義)に挑んでいった。

 

なぜ、その試合を鮮明に覚えているかというと、

棚橋デビュー戦の試合レポートを私が担当したから。

 

当時の私は、週刊ゴング編集長という立場にいた。

ふつうなら編集長がデビュー戦の試合レポートを

担当するというのはあり得ない。

 

なぜ、そういう状況になったのかというと、

10・11東京ドームが月曜日開催であり、週刊だけではなく

東京ドーム特集増刊号も制作することになっていた。

 

締切りが厳しいうえに、各記者の負担が余りに大きすぎる。

そこで編集長ながら私が真壁-棚橋戦を引き受けることになった。

 

もう、棚橋がリングインした瞬間に驚いた。

ホールの客席にもどよめきが起こった。

新人離れした肉体美を見せつけられだれもが愕然としたのだ。

 

これ以上ないほどにパンプアップしたボディ。

肉体だけならメインイベンター並みか、それ以上だった。

あとで知った話なのだが、そのときの棚橋は102㎏あって、

過去最高のウェートでデビュー戦に臨んだという。

 

             ■写真提供/新日本プロレス

 

これが、そのときのボディ。

いやはや、いま見ても凄まじい。

 

試合のほうは6分ほどで真壁に敗れているが、

パワーで堂々と渡り合う棚橋の姿はじつに頼もしく映った。

 

そこで編集長権限を発動した(笑)。

ヤングライオンのデビュー戦としては異例ともいえる

カラーグラビア2ページを真壁-棚橋戦に割いている。

 

「目指せ!和製ダイナマイト・キッド」

 

たしか、そんなタイトルを付けたと記憶している。

 

そう、この肉体美を見た瞬間に、1980年代中盤~後半に

WWF(現WWE)でスーパーヘビー級の選手たちを相手に

大活躍したダイナマイト・キッドの全盛期を思い出したのだ。

 

無名の新人だった棚橋のデビュー戦にカラー2ページを割いたこと。

のちのち、私の目に狂いはなかったと、結果論ながら思っている(笑)。

 

それ以降、決して順風満帆とは言えない波乱万丈のレスラー人生を送りつつも、

2010年代には新日本〝冬の時代”から大復活の立役者となった棚橋。

 

また、彼のライバル、盟友として同時代に大奮闘した中邑真輔。

この2人による功績は新日本プロレス史に永遠に刻まれると思う。

 

……と、棚橋の話題ばかりでは総括にならない。

試合のほうでは、3試合に絞ってレポートしている。

 

             ■写真提供/新日本プロレス

 

まず、NEVER無差別級選手権の鷹木信悟vs大岩陵平。

ノアで約1年の武者修行を経て新日本マットに凱旋し、

鷹木のNEVER王座への挑戦を表明した大岩。

 

結果的に、この挑戦は大正解だった。

鷹木のパンピングボンバーと互角以上に渡り合った

大岩のパワフルなラリアットはインパクト満点。

 

それでも、最後は鷹木がラスト・オブ・ザ・ドラゴンで貫禄勝利。

今さらながら、鷹木は名勝負製造機にして、

新日本の象徴的存在にまで成り上がった。

 

石井智宏が海外に出ている期間が多いなか、

新日本の門番的な役割まで担っていると思うのだ。

 

セミのIWGP GLOBALヘビー級選手権も白熱した。

今回、挑戦者となった後藤洋央紀には追い風が吹いていた。

後藤推しのムード、4年9カ月ぶりのシングル王座戴冠なるか?

 

それが大きなテーマとなった。

その空気感を味方にして後藤が攻めまくる。

80%ほどは後藤が試合を支配しているように映った。

 

             ■写真提供/新日本プロレス

 

ところが、最後の最後にオーバーキルを決めた

デビッド・フィンレーが3度目の王座防衛に成功。

 

これぞ、ヒール王者の闘いぶり。

フィンレーの上手さには脱帽するしかない。

 

ここ数年、ヒールの外国人エースとして君臨してきた

AJスタイルズ、ケニー・オメガ、ジェイ・ホワイトらと

比較すると地味な存在に見られるかもしれないが、

こと上手さにかけては彼らを凌駕しているのではないか。

 

そしてメインイベント、IWGP世界ヘビー級選手権の大一番へ。

王者・内藤哲也に挑むのは、『G1』覇者のザック・セイバーJr.。

 

ここ数年、新日本というより日本プロレス界において、

人気ナンバー1、支持率ナンバー1の男が内藤だろう。

 

その内藤に対して、ザックへの声援も劣らない。

両者へのコールは、ほぼ五分五分といった感じで聞こえてきた。

それほどザックがファンに認められ、愛されている証拠なのだろう。

 

前半10分は、グランンドで渡り合う。

内藤だってレスリングには自信を持っている。

 

中盤からは互いに首狙いでスパートをかけた。

内藤の理詰めな攻撃はすべてデスティーノへの布石となる。

一方のザックはクラーキ―・キャットでタップ寸前まで追い込んでいく。

 

やはり、『G1』優勝戦と同様にサブミッションで決着を狙っているのか?

ところが、ザックは3カウントのピンフォールにこだわっていた。

 

内藤の正調デスティーノだけは絶対に食らわない。

ゴッチ式パイルドライバー、ザックドライバー、セイバードライバー、

さらに初公開のレッグロック式ザックドライバーで3カウント奪取。

 

『G1』優勝戦では引退を発表したばかりの師匠・

小川良成の4の字式ジャックナイフ固めを披露した。

 

今回は鈴木軍時代のボスである鈴木みのるに敬意と感謝を示す

ゴッチ式パイルドライバーを初公開している。

 

こういった日本人的な発想、パフォーマンスが、

ザック人気の大きな要因のひとつでもあるのだろう。

 

試合後の日本語でのマイクパフォ―マンスも完璧。

敗れて花道を引き揚げていく内藤に向けてひとこと。

 

「内藤さん、心配しないで。

ベルト獲りました。

だけど、ずっと新日本のリングにいます」

 

国技館は大歓声に包まれた。

自分は新日本プロレスのレスラーだ。

そう宣言したも同然だからである。

 

その後、10・20ロンドン大会で一騎打ちが決まっているSANADA、

さらに海野翔太、鷹木がリングインしてベルト挑戦を迫ったものの、

それに対しても日本語で絶妙な切り返しを披露した。

 

だれがなにをどうアピールしようとも、

ザックワールドが崩れることはなかった。

 

             ■写真提供/新日本プロレス

 

『G1』初優勝のときと同様にハッピーエンド。

さらに、国技館をほぼ1週してファンと喜びを分かち合ったザック。

 

これほど愛される外国人レスラーは近年なかなかお目にかかれない。

実力はもとより、その人間性においてもザックというレスラーは

新日本プロレスの頂点に立つに相応しい品格を備えた男なのである。

 

というわけで、新日本プロレス・オフィシャルスマホサイトでは、

さらに濃く深く10・14両国大会を総括しているので読んでみてね。

 

実力はもとより、その人間性においても、

ザック・セイバーJr.は新日本プロレスの頂点に立つに相応しい男である」

10.14“秋の両国決戦”を大総括!【“GK”金沢克彦の新日本プロレス通信】