オカダ・カズチカにとって新日本プロレス所属として

最後の試合となる1・24後楽園ホール大会の取材に出向いた。

 

セミファイナルに組まれたNEVER無差別級6人タッグ選手権。

オカダ&棚橋弘至&石井智宏による8度目の防衛戦。

挑戦者はTMDK(マイケル・ニコルス&シェイン・ヘイスト&藤田晃生)だった。

 

入場時から絶大なオカダコールに包まれる館内。

ひとりだけ格下となるのだが、それでも藤田が必死に食らいついていく。

 

途中、石井がTMDKの連携&合体につかまり大ピンチを迎えた。

 

それでも、最後は現在の力量差がハッキリと出る結末。

 

棚橋のスリングブレイド、石井のスライディングラリアットを

連続で食らい大ダメージの藤田を力づくで起き上がらせたオカダ。

 

高角度ドロップキック、ダイビングエルボードロップから

レインメーカーポーズでホールを大爆発させておいて、

必殺のレインメーカーで藤田を仕留めた。

 

マイクを手に、新日本所属として最後の挨拶。

 

「もう泣きたくないですよ。さんざん泣いたから…」

 

ここまでは笑顔だった。

 

「でも、17年間……」

 

ここで涙腺が崩壊した。

 

素顔のオカダは心優しい好青年。

兄貴分だった中邑真輔のお別れマッチのときも、

堪えきれずに号泣していたのを思い出す。

 

その後のバックヤード。

 

棚橋、オカダ、石井の順にコメントを残した。

 

最後に口を開いた石井智宏の姿に釘付けとされた。

 

 

「オカダの新日本所属最後の試合の横にいられて、

ベルト巻けてメチャクチャ嬉しいけど、メチャクチャ寂しいな。

ちょっと待て……」

 

コワモテの石井の表情がクシャクシャに崩れていく。

石井は報道陣に背中を向けて、しばし無言。

 

ようやく向き直って話し始めた。

 

「想像以上にくるな、これ……。

まあでもオカダの飛躍、それから羽ばたき、

羽ばたいていくのに笑顔で送らないとな。

オカダからは試合で学ぶものもたくさんあったし、

リング外でもあいつからいろいろ学んで、

俺なんかよりぜんぜん大人で考えも凄いし、

この3人でタッグ組んだのもオカダのおかげだしな。

ちょっと待て……これは想像以上にくるな。

最後に新日本を復活させた男と新日本を変えた男、

この2人とタッグを組んでベルトを巻けたことは誇りに思うよ。

オカダ、ありがとう!」

 

万感の思い。

石井がこれだけ長く話すのも珍しい。

 

漢・石井智宏。

 

170㎝の身長で2m級の大男を相手に

なんども真っ向勝負を展開してきた。

 

天龍源一郎と長州力を師匠にもつ武骨な甲骨漢は、

ひとたびリングに上がれば闘いを貫き通してきた。

 

そんな石井をまだ彼が20歳代のころから私は見てきた。

プライベートでは繊細であり、純真な人間性は変わらない。

 

そんな一面が表に出そうになったのは今回で3度目。

 

2016年1月30日、後楽園ホール。

『中邑真輔 壮行試合』として開催された

中邑&オカダ&石井vs棚橋、後藤洋央紀、柴田勝頼の6人タッグマッチ。

 

試合後、オカダは号泣した。

石井は必至に堪えて涙を見せなかった。

 

同じCHAOSの石井と中邑はツーカーの間柄だった。

 

「石井さんというプロレスラーのことを表現するなら、

3冊分ぐらいの本が書けますよ!」

 

そう評すほど、中邑もまた石井のプロレス頭を絶賛していたものだ。

 

2019年6月26日、後楽園ホール。

長州力、2度目の引退試合。

 

長州&越中詩郎&石井vs藤波辰爾&武藤敬司&真壁刀義。

 

試合は真壁のキングコングニードロップ4連発を食って長州が沈んだ。

この後、引退セレモニーを控えている。

 

他の4選手が早々に引き揚げていくなか、

石井だけがなかなかリングを降りようとしない。

 

涙腺決壊寸前の顔で長州の横にただ立ち尽くしていた。

 

自分がリングを降りてしまった瞬間、

プロレスラー長州は終焉を迎える。

 

それを阻止するかのように、

ただ立ち尽くしていた。

 

しばらくして、意を決したかのように

コーナーパッド目がけて何度か自分の頭を叩きつけた石井。

 

振り返った顔に涙はなく、

納得したようにリングを降りていった。

 

そして、今回が3度目となった。

 

プロレスラーであるかぎり、石井智宏は涙を見せない。

 

大会終了後、トイレでバッタリ石井と出くわした。

珍しく、照れ笑いを浮かべていた。

 

「やばかったす、今回ばかりは……。

俺、泣いてないっすよね?」

 

「大丈夫、ぎりぎりだったけど。

トモが泣いちゃったら、事件だもんなあ」

 

「ホント、年取ると……」

 

「お疲れさん!」

 

「ちぃーす!」

 

その後、通路にポツンとしゃがみこんでいる藤田晃生を見かけた。

近づいていくと、立ち上がってお辞儀をしてくる。

 

「いま、どんな気分?」

 

「なんかもの凄く悔しいのと、寂しいような気持ちと、

複雑な感じでうまく言葉にできないんですよね」

 

「でも何年かあとにレスラー人生を振り返ってみたとき、

絶対に忘れられない試合になるんじゃないかな?」

 

「そうでしょうね。

オカダさんの新日本所属最後の試合で相手をさせてもらった。

そこでぶちのめされた。

忘れられない後楽園ホールになると思います」

 

「いい試合だった。

たぶんファンにも藤田選手が焼き付いたと思うよ」

 

「ありがとうございます。

もっともっとがんばります。

これからもよろしくお願いします!」

 

じつは、彼とまともに会話したのはこれが初めてだった。

 

藤田晃生。

21歳、キャリア2年5ヵ月。

 

この選手も、漢(おとこ)になれる素質を持っている。