またも訃報――。

キラー・カーンのリングネームで日米をまたに掛け

活躍した小澤正志さんが29日に亡くなった。

享年76。

 

1980年代の海外遠征中にはWWF(現WWE)でトップヒールとなった。

フレッド・ブラッシーをマネージャーとしてモンゴル人キャラで暴れまわり、

‟大巨人”アンドレ・ザ・ジャイアントの右足をニードロップで骨折させたことにより、

世界的なメインイベンターにまで成り上がっている。

 

アンドレとの抗争はドル箱カードとなり、

のちに‟超人”ハルク・ホーガンともライバル関係を築いている。

 

日本マットでは、長州力、マサ斎藤とともに革命軍(のちの維新軍)を結成。

新日本プロレス、ジャパンプロレス、全日本プロレスで活躍している。

 

いま現在、中邑真輔がWWEでスーパースターの仲間入りをしているが、

キラー・カーンこそ日本人レスラーとして米国マットで

もっとも成功したレスラーであることは間違いないだろう。

 

リングを離れてからは、タレント、歌手として活動しながらも、

料理の腕を生かして、居酒屋などを経営していた。

 

私も、カンさん(キラー・カーンの愛称)のお店には3回ほど行ったことがある。

その巨体に似合わず、繊細な神経の持ち主だったカンさん。

好き嫌いもハッキリしている人だったのだが、

現役時代のカンさんを何度か取材している私にはいつも丁寧に接してくれた。

 

キラー・カーンといえば、オリジナルのモンゴリアンチョップ。

その技は、天山広吉、グレート‐Oーカーンへと引き継がれている。

 

1998年の4・4東京ドーム、アントニオ猪木引退試合でのこと。

バックヤードの通路で私が天山と雑談をしていたところ、

ゲストとして来場していたカンさんがたまたま向こうから歩いてきた。

 

「カンさんにモンゴリアンチョップのことで挨拶したほうがいいんじゃない?」

 

私がそう言うと、天山はカンさんに歩み寄り深々とお辞儀して挨拶。

 

「新日本プロレスの天山広吉と言います。

モンゴリアンチョップを勝手に使わせていただいているんですが、

大丈夫でしょうか?」

 

神妙な顔でお伺いをたてる天山。

 

「ああ、知ってますよ。テレビで観てますから。

どうぞどうぞ、どんどん使ってくださいよ!」

 

カンさんは満面の笑みを浮かべ使用許可を与えた。

天山のような礼儀正しい人間、筋を通す人間のことが大好きなのだ。

 

ここ数年では、カンさんに三度会っている。

 

2020年4月、元・新日本取締役の永島勝司さんに誘われて、

You Tubeチャンネル『永島オヤジの格闘チャンネル』に、

私も立会人(※実質は進行役)として参加することになった。

 

第1回目のゲストがカンさんで、2回目はDDTの高木三四郎大社長。

いずれの収録も当時、新宿百人町にあった『居酒屋カンちゃん』で行なった。

 

開店前のお店を貸してもらい収録したのだ。

その後は、You Tubeに携わるスタッフとの宴会。

 

 

すっかりご機嫌のカンさんは、発売したばかりのCD

『カンちゃんの人情酒場』のカラオケバージョンを

プレイヤーで流しながら生歌で聴かせてくれた。

 

 

さすがの美声!

これがそのときの写真。

 

それから数日して、カンさんから御礼のハガキが届いた。

WWF時代のプロモーション用の写真も掲載されている。

そして、達筆。

 

やはり、繊細で気配りのできる人なのだ。

 

 

もうひとつ、じつは初めて打ち明ける話がある。

その当時のYou Tubeチャンネルに関わっていた建設会社の社長さんが

大のプロレス好きだった。

 

その方が2022年の秋ごろ、突然おもしろい企画を立案した。

正式な引退試合をやっていないカンさんの引退試合をやろう。

そう言いだしたのだ。

 

プロジェクトチームが集まり、私は頼まれて仲介役だけ引き受けた。

11月半ば、カンさん本人も交えて食事会を開きミーティング。

 

カンさんは、やる気満々だった。

これから少しずつトレーニングを始めると張り切っていた。

 

ただし、残念ながら諸事情によりこの計画は流れてしまった。

あの食事会のとき、カンさんがしんみりと口にしたセリフが忘れられない。

 

カンさんには家族がいてフロリダに住んでいる。

だが、もう何十年も会っていなかった。

コミュニケーションをとるのは電話での会話だけ。

 

「引退試合でそれなりのお金が入ったら、

フロリダから女房を呼んでやって一緒に暮らしたいんだよ」

 

その夢は叶わなかった。

 

 

キラー・カーンは日米のプロレス史に残る

名レスラーだったと思う。

 

カンさん、お疲れさまでした。

 

合掌。