5・22米国ロサンゼルス大会で、元WWEスパースターにして

前IWGP女子王者のメルセデス・モネを破る金星をあげ、

初代STRONG女子王者となったウィロー・ナイチンゲール。

 

そこに噛みついたのがスターダムのジュリアだった。

6・25代々木大会で強行されたケージマッチで

アーティスト・オブ・スターダム選手権の防衛に成功したジュリアは、

今まで胸に秘めていた思いを一気に吐き出した。

 

「前々からチャレンジしてみたいことがあった。

そう、外国に行ってみたいなって。

新日本プロレスさん、STRONGの興行にジュリアを出せ。

そこにウィロー・ナイチンゲールを呼べ!」

 

もともとジュリアには海外志向もあった。

その思いは、4・23横浜アリーナの中野たむ戦で

最高峰のワールド・オブ・スターダム王座を失ってから、

より強くなってきたように思える。

 

転んでもただでは起きない――それがジュリアである。

スターダム最高峰の象徴である赤いベルトを失ったことにより、

ある意味、自由に動くことが許される立場にもなったからだ。

 

「あくまで、ジャパンを背負ったジュリアです。

だけど、海外で試合をするという経験もしてみたいし、

ジュリアの存在を世界に見せつけてやりたいというのもある」

 

以前ジュリアはそう言っていたことがある。

彼女の海外志向を後押しした要因としては、

元WWEスーパースターのKAIRIと直接絡んだこと、

同じくWWE女子の頂点を極めたメルセデス・モネを間近で見たことが大きい。

 

そのタイミングで、STRONG女子王座決定トーナメントの

決勝戦でモネから金星を奪ったウィローに関心を抱いた。

 

しかも、ウィローはそのベルトを保持したまま、

AEW女子王者のトニー・ストームへの挑戦も決めていた。

 

WWE(NXT)、AEWで活躍しているトニーにしても、

もとはと言えば、スターダムのリングで紫雷イオ(現イヨ・スカイ)、

里村芽衣子(センダイガールズ)らと抗争を展開していた選手。

 

ジュリアからすれば、ウィローもトニーも標的に入ってきたのだ。

 

まず、ジュリアの対戦宣言をウィローが受諾したことで、

『NJPW STRONG』での対戦が決まった。

 

昨年末、ワールド・オブ・スターダム王座に挑戦が決まったとき、

赤いベルトの価値観に関して、ジュリアはこう言っていた。

 

「本当に強いやつ、おもしろいやつと対戦するための

チケットだと思ってる」

 

では、新日本プロレスが米国で新設した

STRONG女子王座に関しては、どう位置付けしているのか?

 

 

「チケットに変わりはないです。

でもスターダムだけじゃなく、そのもっと外側の世界、

世界に向けてのチケットかな……

いや、パスポートと言ったほうがいいのかもしれないですね。

これを持っていたら、海外で未知の相手ともやれるんだから」

 

それにしても、ここにきて海外マットで

ジュリアの名前がよく聞かれるようになってきた。

 

ジュリアがSTRONG王座挑戦をぶち上げた翌日の

6・26(日本時間)カナダ・トロント大会『禁断の扉』で、

AEW女子王者のトニーはウィローの挑戦を退けている。

 

その後、インタビューを受けたトニーは、

ジュリアの名前を出された途端に不機嫌モードへ。

 

「掛かってこいよ!

ジュリアを連れてきな。

待ちきれないな!」

 

ジュリア自身もこのインタビュー動画を見ている。

 

「ああ、なんかファンの人が動画を送ってくれたから見ましたよ。

まあ、カワイイもんですよ(苦笑)。

ジュリアという名前を聞いたら急に不機嫌になって、

連れて来い!だのボコボコにしてやるだのってね。

カワイイもんですよ。

私はいいいよ。

いつでも向こうに行って勝負してやりますよ!」

 

『NJPW STRONG』日本上陸2連戦を前に、

ジュリアvsウィローばかりか、

ジュリアvsトニーという図式まで出来上がりつつあった。

 

本当に、動きだしたら早い。

トニー・ストームも日本で開花した選手だから、

ことさらスターダムの状況には敏感なのかもしれない。

 

まず先の話は置いておいて、

7・4&5のジュリアvsウィロー2連戦である。

 

 

ジュリアは同門DDMのテクラとのマフィアベラで出陣。

ウィローはSTRONG女子トーナメント1回戦で破っている向後桃とのタッグ。

 

まず、驚いたのはウィローのデカさ。

公称=168㎝、83㎏と発表されているが、

「デカすぎるだろ、サバよんでんな」とジュリアが言った通り。

 

どう見ても、170㎝超え、90㎏を超えている感じ。

それでいて、モンスター系のヒールではない。

米国マットではベビーフェイスでやっているだけに、

体型に似合わず笑顔が素敵で可愛らしく、

さらに性格の明るさがパフォ―マンスから伝わってくる。

 

実際、バックヤードでもそうだった。

会う人ごとに底抜けの笑顔で挨拶するし、

私が話しかけると初対面にも関わらず熱心に話を聞きながら、

笑顔で頷いたり、質問をぶつけてきたりする。

 

              Ⓒ新日本プロレス

 

パワフルでありながら、憎めないキャラ。

ある意味、ジュリアにとってはやりづらい選手かもしれない。

それでいて、前哨戦タッグではフィニッシャーの

ドクターボム(Babe with The Powerbomb)でテクラを沈めた。

 

 

5日の本番、第5試合に組まれたSTRONG女子選手権。

挑戦者のジュリアが圧倒的支持を受けると思いきや、

明るい笑顔で入場したウィローへの支持も負けていない。

 

中盤まで、両者に向けられる「コール」は五分五分といった感じ。

「ジュリア」と「ウィロー」と叫ぶ声が被って響いてくる。

 

              ©新日本プロレス

 

試合も白熱した。

ウィローのパワーvsジュリアのテクニック。

それがベースとなりながらも、お互い意地になって引かない。

ジュリアも真っ向勝負を挑んでいくから、

バチバチ、ゴツゴツの闘いが展開される。

 

こういった闘い模様は最近のスターダムではなかなか見られない。

切り返し、切り返しの高度な攻防が主流を占めるスターダムマットに比べ、

ジュリアvsウィローの試合はまさに肉体勝負だった。

 

ジュリアの仕掛けた蜘蛛の巣をキャッチして圧し潰したり、

変則的なロープワークからタックルで3mほども弾き飛ばすウィロー。

受け身の上手いジュリアがその猛パワーに耐えまくる。

 

              ©新日本プロレス

 

ただし、最後までジュリアはドクターボムを食らわなかった。

トドメと狙ったドクターボムをカナディアンデスロイヤーで切り返し、

巨体に雪崩式ダブルアームスープレックスを決めた。

 

さらに張り手、膝蹴りから、

ついにノーザンライトボムを炸裂。

 

              ©新日本プロレス

 

大熱闘を制し、ジュリアが第2代王者となった。

試合後、珍しい光景も見られた。

 

敗れて引き揚げようとするウィローを呼び止めたジュリアが、

彼女に向かって必死に何かを訴えかけていた。

その言葉を聞きながら、笑みを浮かべるウィロー。

 

              ©新日本プロレス

 

「1対1のシングルマッチ、このSTRONGのベルトがあったからこそ、

語り合えた私たちだけのプロレス、そんなものがあったって感じました。

日本に来て2日間、闘ってくれたナイチンゲール選手、

そして新日本プロレスさんに、私は感謝します。

彼女をとてもリスペクトしています。ホントに強かったし、

あいつの優しさはホンモノだったんだな、なんて思うけど、

次やるときは、もっともっとですよ」

 

              ©新日本プロレス

 

戦前、ジュリアはツイッターでこう呟いていた。

 

「ナイチンゲールはアメリカのプロレス、

私は日本のプロレスか。

プロレスってものでどこまで世界と語り合えるのか、

プロレス人生で初めての体験」

 

また、トニー・ストームvsウィロー・ナイチンゲールの

AEW女子選手権をPPV観戦した感想を訊ねるとこう語った。

 

「明らかに日本のプロレス、スターダムのスタイルとは違いますね。

さあ、どうなるんでしょうか? あの大きな相手とどんな試合ができるのか……」

 

初体験の大型外国人選手。

ジュリアといえども多少の不安はあったろうし、

出たとこ勝負感も強かったと思う。

 

ところが、しっかり噛み合った。

ジュリアが言うところの「あいつの優しさ」というのは、

ウィローが日本スタイルをしっかり理解して臨んできたことを指すのだろう。

 

彼女が遠慮なく攻めこんできたからこそ、

ジュリアとの間で稀に見る好勝負が生まれた。

 

今回の7・4&5後楽園ホール『NJPW STRONG』2連戦において、

もっともインパクトを放ったのは葛西純の新日マット初登場。

 

ただし、試合内容を振り返ってみると、

ベストマッチは2日目のモクスリーvsデスペラード。

それに次ぐ内容を披露したのがウィローvsジュリアの

STRONG女子選手権試合といっていいだろう。

 

              ©新日本プロレス

 

この一戦に勝利してジュリアは世界へのチケット……

いや、海外マットで闘うパスポートを手に入れた。

 

それと同時に、ウィロー・ナイチンゲールという

個性的な素晴らしい選手も新日本のリングで日の目をみた。

 

もし、ウィローがスターダムの常連にでもなれば、

リング上はさらに刺激的な空間となることだろう。