2月21日に開催されたプロレスリングNOAHの東京ドーム大会、

武藤敬司引退試合には平日にも関わらず30,096人の大観衆が詰めかけた。

 

昨年の10月1日に、不世出のプロレスラーである

アントニオ猪木さんが亡くなったとき、

この一報は社会的ニュースとして世界中に報じられた。

 

武藤引退もまた社会的ニュース。

プロレスラーとしての武藤敬司は、

猪木さんに劣ることのない知名度と実績を誇っていたことが

あらためて証明された格好でもある。

 

              ■写真提供/新日本プロレス

 

当日の午後4時からダークマッチ3試合が行なわれ、

午後5時から本戦の第1試合がスタート。

 

その空き時間を縫って、テレ朝スタッフ&アナウンサー陣と

まずゲスト解説につく蝶野正洋の控室を訪問してみた。

 

一昨年末に脊椎管狭窄症のクリーニング手術を受けた蝶野だが、

かなり状態も回復して杖をつけば通常歩行ができるようになった。

そのせいか表情も明るくなった蝶野とグータッチを交わし雑談。

 

その後、主役の武藤を訪問してみた。

最近愛用している長州とのイラストコラボTシャツを着た武藤は、

いたってリラックスムードで関係者と雑談していた。

 

「ムトちゃん、リラックスしすぎでしょう?」

 

「いや、早く会場に来すぎたから眠くてしょうがねえんだよ」

 

まったくもって、いつもの武藤。

緊張の欠片も感じられない。

まあ、そこが武藤の武藤たる所以でもある。

 

興行がテンポよく進行していく。

 

第6試合のIWGPジュニアヘビー級王者vsGHCヘビー級王者、

高橋ヒロムvsAMAKUSAのシングルマッチは予想以上の好勝負。

 

AMAKUSAオリジナルの空中戦による畳みかけに苦戦したヒロムだが、

最後は思い入れのある対戦相手にTIME BOMBⅡを決めて逆転勝利。

 

東京ドームの空気が温まってきたところで、

セミファイナルの因縁マッチを迎える。

 

IWGP世界ヘビー級王者vsGHCヘビー級王者。

オカダ・カズチカvs清宮海斗は、清宮サイドの要求により

当日の大会開始前に急きょ時間無制限1本勝負に変更された。

 

ついにオカダをノアのリングに引っ張り上げた清宮。

自力でオカダを同じステージに上げることに成功した清宮。

その覚悟は、半端なものではないはず。

 

もう先に入場した清宮の顔を見ただけでそれがわかった。

目が据わっているのだ。

あと入場のオカダが敵地ながら横綱の風格を漂わせて登場。

 

その姿を見つめる清宮。

やはり目が据わっている。

 

清宮はノアの看板を背負っている。

一方のオカダも新日本の看板を背負っているものの、

それ以上の存在として日本プロレス界の頂点に君臨している男。

 

その事実ばかりは、どこの団体のファンも認めざるをえない現実だろう。

ワタシ個人のなかでは、新日本vsノアの頂上対決という感覚は薄い。

 

これは、清宮とオカダの個人闘争。

日本マット最強の男であるオカダに対し、

ノアの若きエース・清宮が自身の存在意義を懸けて挑んでいく一戦。

 

おそらくファンの方々もそういう感覚を抱いていたのではないか?

 

 

             ■写真提供/新日本プロレス

 

結論からいえば、過去最高の清宮を見せてもらった。

オカダの厳しい攻めにも絶対に折れない。

そればりか、キッチリとやり返す。

 

高角度ドロップキックの応酬でも、

オカダに劣らぬ跳躍力を披露している。

 

レインメーカーも二度にわたり

ジャンピングニーで迎撃してみせた。

 

             ■写真提供/プロレスリングNOAH

 

ただし、最後はオカダ渾身のレインメーカーに沈んだ。

16分32秒の大玉砕。

 

初の東京ドームの大舞台。

大健闘とか、大善戦とかいった生ぬるい言葉では表現できない。

とにかく清宮は覚悟と闘い、生き様を見せつけたと思う。

 

「まあ、かわいいですよ。

新日本プロレスではね、若いのでボクに

噛みついてくる人間もいませんから。

逆に新日本の若いのはこれぐらいじゃないとダメでしょうと。

清宮選手はね、もう泣くなよと。泣いてる場合じゃないから。

もう決着はついた。

またね、もう一回だって言えたら、その神経は凄いと思うし。

逆にそんなんだったら、認めてやりますよ」

 

涼しい顔で引き揚げてきたオカダはそうコメントした。

おそらく1年前の1・8横浜アリーナ大会で初対戦したとき、

オカダは新日本のヤングライオンに毛が生えた程度の

選手としてしか清宮を評価していなかったと思う。

 

ただし、1年で変わった。

このツンデレぶりがオカダらしくもあり、

同時に清宮への評価が変わったことを物語っている。

 

そしてメインイベント。

ゲスト解説の蝶野、内藤哲也の入場を受けて、

いよいよ真打ち登場。

 

武藤入場の演出にはグッときた。

 

『ファイナル・カウントダウン』→『ホールド・アウト』→

『トライアンフ』→『nwoトライアンフ』→『アウトブレイク』……

と次々と武藤の歴代入場テーマが鳴り響き、

最後はまた『ホールド・アウト』へ。

 

『LAST LOVE』と描かれたステージがせり上がり武藤が登場。

1・22横浜アリーナで両太腿肉離れ(全治6週間)の怪我を負っていながら、

東京ドームの長い花道を入場する武藤の足どりはしっかりしていた。

 

試合はやはり合わせ鏡のようだった。

互いに足攻め、ドラゴンスクリューから足4の字固め。

 

武藤は二度、ムーンサルトプレスの体勢に入ったものの、

しばし逡巡した末に結局飛ぶことはなかった。

 

 

              ■写真提供/新日本プロレス

 

「引退試合をしていない人間の分も背負って試合する」

 

そう語っていた通りに、STFにはじまり、

袈裟斬りチョップからジャンピングDDT、

さらにエメラルドフロウジョンまで繰り出した。

 

また、ファン時代から武藤のムーブはすべてコピーできると

語っている内藤は掟破りのシャイニングウィザードを披露。

 

最後は、正調デスティーノで武藤を介錯した。

拳を突き合わせてから内藤がリングを降りる。

 

マイクを持った武藤が最後の挨拶……と思いきや、

なんと蝶野との特別試合をリクエスト。

 

レフェリーに指名されたタイガー服部さんもリングに上がり、

ゲスト解説の辻よしなりアナウンサーが実況を務める。

 

              ■写真提供/新日本プロレス

 

呆然としていた蝶野だが、それに応えしっかりとロックアップ。

顔面掻きむしりから張り手を見舞い、シャイニングケンカキック。

最後はSTFで武藤からタップを奪った。

 

まさかのボーナストラックが、

すべてを食ってしまった感じ。

やはり、武藤敬司はただでは終わらなかった。

 

              ■写真提供/新日本プロレス

 

その後、唯一の引退セレモニーとなったのは、

古舘伊知郎さんが朗読ではなくソラで語り上げた詩。

 

「この男に二元論は通用しない。

ストロングスタイルか、アメリカンプロレスか?

ベビーフェイスか、ヒールか?

はたまたプロレスか、格闘技か?

まったく通用しない。

思えば、昭和、平成、令和。

時代は移ろっても、技、試合のありよう、

そして観客の声援スタイルが変わろうとも、

一貫してこの男は二者択一を超えて、格闘芸術を作ってきた」

 

              ■写真提供/新日本プロレス

 

じつにドンピシャ!

まさに言い得て妙だった。

 

この言葉は、武藤が体現してきた唯一無二の

プロレスラー像を物語っていた。

 

2000年代に入り、プロレスと格闘技の狭間で

プロレス界は大きく動揺していた。

 

二元論にレスラーもマスコミもファンも

振り回されていた時代。

 

そんなときでも、武藤敬司のプロレスはブレることがなかった。

武藤プロレスを誰よりも愛していたのは、

他ならぬ武藤自身であったからだろう。

 

武藤が標榜した「プロレスLOVE」とは、

じつは過剰なまでの自己愛でもあり、

「武藤LOVE」の精神でもあったのだ。

 

ちなみに、武藤が「プロレスLOVE」を公言しはじめたのは、

2001年に超党派の『BATT』を結成したころから。

 

当初、「プロレスラブ」と表記されていたのだが、

私が週刊ゴング誌上で「プロレスLOVE」と

ラブだけ英字表記にしてから、いつの間にか定着した。

 

また自慢しやがって!と思われるかもしれないが、

まあ最後だからそれぐらいはアピールしておこう(笑)。

 

10カウントゴングもない、涙もない、

しんみりムードなどまったくない引退試合。

 

バックヤードインタビューでも、

武藤らしさ爆発で時おり笑い声にも包まれた。

 

こうなったら、なにか言わせてやりたい。

そう思ってしまうのが私のサガでもある。

 

公私ともに遠慮なく、言葉をぶつけ合う。

武藤とはそうやって36年以上も付き合ってきたのだから。

 

              ■写真提供/新日本プロレス

 

「これからもトレーニングはしますか?」

 

「トレーニングはするよ。トレーニングしないと、

人口関節とか骨弱ったら合わなくなってくるからね。

そういう意味も込めて普通のおじさんになりたいって言ったんだから。

やっぱり自分で歩いて活動できるぐらいに常にしないと」

 

「やっぱりトレーニングはホビーであってライフワークですか?」

 

「そうですね。ルーティーンであって、

そんなに1日のルーティーンは変えないつもりでいますよ」

 

「体が元気になってきたらどうしますか?」

 

「これだけ盛大に祝ってもらって、

もしかして復帰したら、詐欺で捕まっちまうよ!」

 

引退試合から即復帰宣言……

私の目論見はさすがに未遂に終わった(笑)。

 

一大限りのスーパースター・武藤敬司、ここに幕引き。

それは事実上、昭和プロレスの幕引きも意味するもの。

 

アフター武藤。

それもまた今後のプロレス界にとって、

大きなテーマとなるだろう。

 

なお、新日本プロレス・オフィシャルスマホサイトでも

今回の武藤引退試合に関して総括しているので、

読んでみてくださいね。

 

「“アフター武藤”。今後、それがプロレス界全体のテーマとなる」

2.21武藤敬司引退大会を大総括!【“GK”金沢克彦の新日本プロレス通信】 

| 新日本プロレスリング (njpw.co.jp)

 

【追伸】

大会終了後、武藤がバックヤードに戻ってくるまで、

多くの報道陣がインタビュールームで待ち受けていた。

 

私も右側の最前列の一番端っこで待っていた。

すると、花束を抱えた女性が私の右隣にやってきた。

武藤に花束を渡すためらしい。

 

とても綺麗な子だったけど、初めて見る顔。

アイドルなんだろうな?と思っていたら、

その子が二三度、私のほうを振り返ってニコッと笑う。

 

えっ、だれ?

わからないけど、とりあえず軽く会釈しておいた。

 

インタビューの途中で武藤が、

「そんなこと言わないでくれよ、後ろ髪引かれんじゃんかよ」

と笑いながら言った。

 

すかさず、「後ろ髪ねぇーし」と私が小声でツッコミを入れると、

そのアイドルの子が思わず噴き出していた。

 

明るい子だな。

 

                    ■写真提供/新日本プロレス

 

あとになって、サイトをチェックしてみて、

その子が松井珠理奈さんだと分かった。

 

珠理奈さんとは新日本プロレス中継で二度ほど一緒になったし、

彼女がプライベートでも観戦に来ていたりしたので、

会場で会うと雑談する程度ながら顔見知りなのだ。

 

いやあ、悪いことしたなあ。

ちゃんと挨拶しなくて。

 

だけど、女性って髪型で随分と印象が変わる。

私が知っていたころの珠理奈さんは、

セミロングの髪をなびかせていたので。

 

ショートにしただけで、

こんなに雰囲気が変わってしまうのものなのか?

 

ま、それって単に私がおじさんになって、

若い女性の判別がつかなくなっただけなのかも。

 

私の場合、とっくに普通のおじさんなわけですね(笑)。