1日の午前10時ごろ、まだ寝ていた私を

カミさんが揺り動かしてこう言った。

 

「猪木さんが亡くなったよ!」

 

驚いて、飛び起きた。

猪木さんの病状がよくないのはわかっていたから、

いつかこの日が来るだろうとは思っていたけど、

あまりに突然すぎる。

 

かといって、いま自分がなにをできるわけでもないし、

とりあえず今日の仕事の準備にとりかかるしかない。

 

午後3時からはスターダムの大一番が控えている。

『5★STAR GP 2022』最終戦(優勝決定戦)が

東京・武蔵の森総合スポーツプラザで開催される。

 

クルマで1時間程度の場所なので午後1時30分ごろに、

自宅マンション駐車場からクルマを出しているとき、スマホが鳴った。

ちょうどクルマを操作していたのでキャッチできなかった。

 

発信元を確認すると、テレビ朝日の松本仁司さん。

松本さんは元『ワールドプロレスリング』プロデューサーで、

2002年に私を『ワープロ』のレギュラー解説者に抜擢してくれたかた。

 

現在は、別部署のお偉いさんなのだが、

新日本のビッグマッチの会場ではときどき顔を合わせる。

 

おそらく、猪木さん関係の要件なのだろう。

折り返し掛け直すと、やはりそうだった。

 

この日、午後8時54分からテレビ朝日で2時間特番、

『サタデーステーション2時間SP』が放送されるが、

急遽、番組メニューを変更して、まるまる2時間

『アントニオ猪木スペシャル』として放送するという。

 

ひいては、スタジオゲストのコメンテーターとして、

武藤敬司と一緒に出演してほしいというリクエスト。

 

大変お世話になってきた松本さんからの依頼だし、

それはもう二つ返事で承諾させていただいた。

 

詳細は、おって『サタステ』のディレクターから連絡がくるとのこと。

そこで、いったん頭を整理する。

 

スターダムは午後3時開始で、

『サタステ』は午後8時54分スタート。

スタジオ入りが7時半ぐらいなら

スターダムを取材してから直行すれば間に合うか?

 

そんなこんな考えているときに

ディレクター氏から着信があって、

事前打ち合わせ等もあるので

午後7時スタジオ入りでお願いしたいとの話。

 

スターダムのビッグマッチはたいてい3時間を超える。

これは着替えなども必要になるし取材は無理だなと判断した。

 

ジャケットとネクタイを用意して、

午後7時ちょうどにテレ朝に到着。

 

控室に入って『サタステ』ディレクターの

Aさんと台本をもとに打ち合わせに入る。

 

番組は、アントニオ猪木の試合映像と

リハビリ中のYouTube映像がメインとなり、

スタジオのコメンテーター席に話が降りてくるのは3度。

 

それでも2時間弱フルに着席しているから、

けっこうな長丁場となる。

 

打ち合わせのあとはメイクルームに入って、

たっぷりとドーランを塗ってもらう。

 

こんなにたっぷりドーランを塗られるのって、

6年前に読売テレビの『そこまで言って委員会NP』に出演したとき以来。

 

7時30分に武藤選手が到着したというので、

挨拶がてら控室を覗いてみた。

といっても、隣の部屋なのだが……(笑)。

 

ちょうど打ち合わせに入るところだったらしく、

「あ、金沢さんも一緒に打ち合わせすればいいじゃん」とムトちゃん。

 

「あ、俺もう打ち合わせ終わったから。

あとはまた本番で会いましょう」

 

武藤選手のことは熟知しているつもりだから、

事前にとくに話をする必要もないだろう。

 

『サタステ』MCの高島彩さん、板倉朋希さんが挨拶に来てくれた。

高島さんはフレンドリーな感じで笑顔が素敵な女性。

板倉さんのことはじつはよく知っている。

彼は新人アナの時代、研修のようなカタチで

何度も『ワープロ』の現場収録に参加していた。

 

結局、『ワープロ』デビューはなく、

いまは社会部アナとして活躍している。

お久しぶり、といった感じだ。

 

それにしても、猪木さん逝去の一報が流れてから、

半日で映像編集、関係者へのコメント収録を行ない、

2時間番組を制作してしまうところが驚き。

 

新日本プロレス主力勢は現在イギリス遠征中のため、

リモートをつないでなんとか棚橋弘至のコメントは撮ったという。

 

『サタステ』だけではなく、顔見知りの『ワープロ』スタッフも待機している。

この日の番組は『サタステ』と『ワープロ』の共同作業で制作されているのだ。

 

松本さんもいらしたし、現『新日本プロレス中継』責任者の櫻井健介さんもいた。

お二人とも個別に話をしてみた。

 

どういう雰囲気の番組になるのか?

望まれている私の立ち位置はどういうものなのか?

そこがイマイチ摑めていないので確認しておきたかったからだ。

 

お二人の話を聞いて、ほぼ理解できた。

 

・猪木さんは暗い空気は好きではないから重苦しくならないでほしい。

・金沢さんにはごくフラットに一般視聴者に向けて話してほしい。

・できれば、猪木さんの生きざまをエピソードを交えて熱く伝えてほしい。

・武藤さんの記憶にあやふやな部分があればそこをフォローしてもらいたい。

 

うん、まあいつもの自分を出せばよいのだな。

こういうとき、慣れ親しんできたスタッフがいてくれるのは有難い。

無論、『サタステ』スタッフの方たちもいい空気作りをしてくれていた。

 

機転の利く高島さん、板倉さんの進行にも助けられた。

武藤選手の回答も、私の状況説明・解説も、

武藤選手と私の絡みもほとんどアドリブだった。

 

不思議なことに、猪木さんの映像を観ているとワクワクしてくるし、

VTR中、CM中は音声オフなので武藤選手といろいろと語り合う。

 

そういった話を初めて聞く高島さんは興味津々で質問をぶつけてくる。

ときに、武藤選手との雑談が脱線して2人で口論(?)を始めると、

周囲のスタッフから笑顔と笑い声も漏れ聞こえてきた。

 

和やかにアントニオ猪木を偲んだ2時間弱。

エンディングが近づいてくると、はじめて胸がつまる思いを感じた。

もう、猪木さんはいないんだ。

それが実感として沸いてきたからだ。

 

コメント時間は決して長くはなかったけれど、

プロレスを知らない視聴者にも、

なんとかアントニオ猪木の生きざまを伝えることができたかな?

 

生きざまと死にざまを知ってもらえたかな?

 

自分では判断できないのだが、

退席する際にスタッフ陣から

納得の笑顔をもらえたので、

自分なりの役目は果たせたのではないか。

 

そう思っている。

 

 

武藤選手と私が退席するタイミングのCM中に、

高島さんと3人で記念撮影。

 

 

これは知り合いが送ってくれたスクリーンショット。

スタジオ入りしてから前方しか見ていなかったので、

「へぇー、背景はこうなっていたのか!」と初めて知った。

 

みなさん、ご視聴ありがとうございました。

 

偉大なるアントニオ猪木が逝った2022年10月1日。

この日を生涯忘れることはないだろう。

 

そんな猪木さんへの個人的な思いは、また後日記します。